俺のお隣さんは・・・

FLAKE

第1話 活動再開!

「ウォー!」

「かわいいー!」

「ウォー!」

 大きな声が閉ざされた空間内でこだましていた。その多くの群衆の手は、空間内に流れている曲に合わせて、リズミカルに様々な光を放っていた。暗闇にいる群衆の視線の先には対照的にスポットライトを浴びた煌びやかな・・・。



「おーい! トウヤ!」

「?」

「おーい、待ってくれよ!」

 息を切らしながらひとりの男が駆け寄ってきた。

「どうしたんだよ、そんなに慌てて?」

 春野冬弥はるのとうやは立ち止まって振り返りその男の到着を待った。


「おい、今日忘れたのかよ! はあ、はあ、はあ。」

 男は冬弥に追いつくと息を切らしながら言っていたのだが、冬弥はピンときていないようで首をかしげていた。

「?」

「おいおい、その顔はわかってないな。忘れるなよ、今日はサークルの会合の日だろ。」

 男は少しして息が整うと、冬弥の肩に手をまわして、顔を覗き込むようにして言っていた。この男は冬弥の幼馴染で、今は同じ大学の同じ学部・学科に在籍している北城誠きたしろまことだった。

「サークル?」

「おいおい、幽霊部員だからって今日は帰さないぞ。」

(幽霊部員なんて人聞きの悪い・・・。)

「別に俺は・・・。」

「いいんだよ。何も言うな。とりあえず今日は黙って俺について来い。」

 冬弥の言葉を遮るように誠が言うと、肩に回した手に力を入れてそのまま連れて行こうとしていた。

「痛てえよ。わかったから引っ張るなよ。」

 冬弥はその手を振りほどくと、少し不貞腐ふてくされた感じで言っていたのだが、誠はそんなことは気にしていないようだ。

「そうか。わかった。じゃあ行こう。」

 肩に回していた手を離して誠はひとりで歩き始めると、冬弥は肩に手をやり顔をしかめながらその後姿を見ていた。

(何なんだよ。会合って・・・、いったい何するんだよ?)

 そんなことを思いながらも幼馴染をそうじゃけんにもできないようで、渋々ながらその後をついて歩き始めていた。



「おーい。みんな集まってるか?」

「えーと・・・。」

「まあいいか、時間もったいないからすぐに始めよう!」

 今到着したばかりの誠がそう言うと、その場にいた数人もうなずいて着席した。

「ちわーす。」

 冬弥は挨拶?すると、誠に続いて部屋に入ってきていたが、着席していた数人は冬弥の顔を見て不思議そうな表情を浮かべていた。誠はそれに気づいてすぐに、座っている者達に声を掛けた。

「みんなどうしたんだよ。冬弥だろ。このサークル部員で俺の幼馴染の・・・。とはいってもこいつ、いつも顔出さないから仕方ないか・・・。」

 誠はみんなの顔を見てそう言うと、冬弥の方に顔を向けた。

「お前、ちょっと挨拶しろよ。」

「えっ! 挨拶?」

「そうそう挨拶。お前今日が初めてみたいなもんだろ。この前ここに来たのもいつのことかって感じだし。ここは部長の俺の言うこと聞いて、さあ!」

 誠はこのサークルの部長で、冬弥は最初に誠が言ったように幽霊部員・・・要はこのサークルを立ち上げて認可してもらうために名前だけを名簿に載せた部員・・・であったのは事実で、ここに集まっている本気の部員たちは冬弥の顔を知らないでいてもそれは当たり前であったようだ。

「ほら早く!」

 誠はせかすように言うと、冬弥は渋々言葉短く挨拶した。

「春野冬弥です。経済学部の3年です。」

 着席していた者たちもその場で頭を下げて応えていた。

「よし、冬弥の挨拶も終わったようだし。今日はこのサークルの今年最初の会合ということで、今年度の、まーもう半分近く終わってるけどスケジュールを決めたいと思います。」

 誠が部長らしく仕切って言うと、誰からともなく声が掛かった。

「いいぞ!」

「おう!」

「よーし!」

 その声に満足して誠はさらに続けた。

「よし。でもその前に、さっき冬弥にも挨拶してもらったから、それに新入生も入ってきてくれてるし、改めてみんな自己紹介からしていこうか。」

 誠は座っていた部員の顔を見回して言うと、自ら大きな声で自己紹介をし始めた。

「よし、じゃあ俺から。俺は北城誠、経済学部3年です。一応部長をやらせてもらってます。再びこうやってみんなで活動できることをうれしく思ってます。よろしく! ちなみに推しは桜留衣さくらるいです。」

 何故か最後の部分は少し声のトーンを落として言っていた。

「つぎは俺いきます。南田平みなみだたいら、経営学部の3年です。よろしくお願いします。」

「なんか固いな。推しは?」

「推し? そんなの決まってますよ。俺は桐島月渚きりしまるな推しです。」

「おー、月渚るなちゃーん!」

「月渚ちゃーん!」

(月渚ちゃん・・・、それにしても何だこの掛け声は・・・。)

 冬弥は首をかしげていたのだが、このサークルはアイドル研究会であって、その名の通りアイドルの研究をしていたのだ。簡単に言えばブルーレイや動画サイトでライブなどを見ながらああでもないこうでもないといいあって、結局最後は自分の推しの可愛さを確認して満足している集まりのようだった。

「はいじゃあ次は俺ね。はい西京極伸にしきょうごくしんです。法学部の3年です。推しは杠葉朱莉ゆずりはあかりです。」

「朱莉ちゃーん!」

「朱莉!」

 ここでもまた先ほどと同じ様に掛け声がかかっていた。

「経済学部1年の下田正志しもだまさしです。よろしくお願いします。」

「よし、このメンバーで頑張っていこう。よろしく!」

 最後のひとりが挨拶をし、全員の自己紹介が終わると誠が締めるように言った。

 このサークルは新入生が入ってようやく5人となり、今年再びサークルとして認可され本日活動を再開させることになったのであった。

「いやー。再認可まで長かった!」

「まあ、認可されなくても活動はしてたけどね。」

「そりゃそうだ。」

 各々そんなことを口にしていた。去年1名が脱退してサークルとしての活動が出来なくなってしまっていてたことなどは、幽霊部員の冬弥には関係ないことであったのだ。

「よし、去年1年分を取り戻すためにも今年は頑張るぞ!」

 ここで再び部長の誠が大きな声とともに右手を突き上げていたのだが、その横にいた冬弥は複雑な表情を浮かべておとなしく座っていた。

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