第9話 コウスケ、父の死の真相を教えられる

 エホバの証人の信条の中に、死者は楽園で復活するというものがあります。現在は終わりの日です。もうすぐハルマゲドンがやってきて、神に仕えないものは滅ぼされます。そして、楽園が来ます。エホバの証人は生き残り、楽園に入ることができます。そして、これまで真理を学ぶことが無かった人たちは順次復活してきて、楽園で暮らすことになります。


 非常にざっくりした説明ではありますが。これを適用すると、父親は暴力を振るう反対者でしたが、一酸化炭素中毒という事故により人格が変わった。その後、何度か聖書研究の集会に出席、エホバの証人と活動を少ししたところでの事故死だ、ということで、楽園で復活する人のうちに数えられるそうです。


 父の葬式も無事終わり、父がきちんと払っていてくれていたお陰で遺族年金や保険金を受け取ることができ、僕たちはある程度の生活は送ることができました。母は、父の事務所で請け負っていた仕事が終わるまでは処理を行い、その後会社をたたみました。


 ある時、長男である僕は母から父の死の真相について聞かされました。遺書は残されていないものの、あれは事故ではなく自殺だったと。それほど見通しの悪くない道路で、明け方に電信柱に激突。普通であれば事故するような場所ではないのです。父は精神的に参っていたそうです。


 あの頃は、いわゆるバブルがはじけた時期で、会社の経営がうまくいってないようでした。結構借金もあったようです。父が亡くなることで、保険から支払いが出来たそうです。


 高校生だった僕は、その意味がよく分かりませんでした。父が可哀そうな人だと思いましたが、その当時は、また楽園で会えるから、と思っていました。ただ、もうこの頃には“自然の情愛”に欠落した子だったと思います。


 自然の情愛-生まれながらに抱く、家族に対する愛情。


 愛情が全く無いわけじゃありません。父が亡くなった時には涙を流しましたし、家族は大事な存在だ、と認識はしています。

 が、大人になり、世間一般的な人が家族にしてあげている愛情のかけ方を僕にはすることができません。別にどうでもいい存在とは思いませんが、関わりたいとも思っていません。


 現在、コロナを理由に実家に数年帰っていません。弟とは10年以上会っていません。会いたいとも思わないのです。伯母(母の妹)からは、少しは連絡よこしなさい、とメールが来ますが、面倒くさいな、が正直な感想です。


 ただ、今、一つの後悔があります。父がどこのお墓に入っているのか分からない、ということです。エホバの証人をしている時は、墓参りもしませんし、仏式の行事は一切関わっていません。伯母夫婦と、弟がよくしてくれています。彼らに聞けば、お墓の場所はわかるでしょう。しかし、今までエホバの証人としてすべて放棄してきた、その後、信者をやめて実家を出ている身としては、なかなか場所を聞くことができません。母はまだ息子たちに聖書の教えに戻ってきてくれるように祈っているはずです。コウスケがお墓の場所を聞いてきたぞ、と母の耳に入るのも嫌なのです。


 変なプライドが邪魔しているんでしょうね。近いうちに、父のお墓を探しに行こうかとも考えています。祖父、祖母と同じお墓のはず。よくある苗字でもないので、お寺の場所さえ突き止めたら判明するとは思うのですが、重い腰が上がりません。


 やれやれ。

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