第7話

 本物のなめくじくんは今、家主の部屋にいる。

 なめくじの寿命は2年程である。

 なめくじくんの命はすでに、蝋燭のように生と死の間を揺らめいていた。


◇◆◇


 “ちび”は生前、家主の部屋にある段ボールの中がお気に入りだった。段ボールの端を噛んでボロボロにしては、よく家主に怒られていたものだ。


 現在も残されているボロボロの段ボール、その中になめくじくんは横たわっている。


『僕、もう死ぬのかな……』


 その時、ドスンドスンとやってくる足音が聞こえた。家主である。


「おや……?」


 家主はなめくじくんを見つけると、不思議そうな顔をした。


「そんなところにいると、水分が持ってかれて死んでしまうよ」


 しかし、なめくじくんは寿命が近いため、それもすでに関係のないことだ。


 そんなことを知らない家主はなめくじくんをじっと見つめると、目を細めてとある話を語った。


「チワワのちびも、その場所がお気に入りだった。あの子はぼんやりした子でね、段ボールを散らかしては怒られたが、いつも首を傾げて不思議そうにしていたもんだ。可愛いやつだったよ……」


 家主はこぼれた涙を拭うと、なめくじくんにコップの水を垂らした。


「2年ちょっと前に突然死んでしまったんだ。死因は腎不全でね。獣医さんの話では、レーズンやぶどうなんかを拾い食いして中毒になったんじゃないかって言っていたよ。……気づいた時にはすでに遅く、あっという間に痩せ細っていって。……もっと早く気づいてあげれば」


 家主は眉間にシワを寄せると、涙をポロポロこぼした。


「“ちび”……」


 その時、なめくじくんの体がぴくりと動いた。


「“ちび”……? あんた、“ちび”なのかい?」


 ぴくり。なめくじくんは飛び上がろうとしするも、微かに動くだけであった。


「そんな、“ちび“……」


 家主が再び名前を呼んだ時、なめくじくんは動くことはなかった。

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