第3話

「ただいまー」


 夏休みが始まったばかりの今日、家主の娘が実家に帰ってきた。

 家主の顔には、めずらしく笑顔が浮かんでいる。


 そんな家主の頭上では、青空にポトンと落ちた灰色が、じわり、じわりと侵食していくのだった。


☆★☆


 その日の夜、なめくじくんは家主の家にやってきた。

 

 静かな中、雨の跳ねる音が響く。


 ザーーーーーーーー……

 パシャパシャパシャ……


『ぼーけんするぞー!』


 なめくじくんは暗い廊下を進み、ご機嫌な様子でリビングに向かった。


 よいしょ、よいしょ……


☆★☆

 

 家主の娘は、真夜中に喉の渇きを覚え、水を飲むために階段を降りて台所へ向かう。


「眠い……」


 廊下の電気をつけて歩こうとした時、ぴかりと足元で何かが光り、慌ててその場で踏みとどまった。


 疑問に思った家主の娘がしゃがんでそれを見ると、瞬時に大きく飛び退いた。


「いーーやーーーー」


 そう、家主の娘は虫が大の苦手なのである。足元にいるなめくじを見つけて、それはもうびっくりして悲鳴を上げるのだった。


 その時、誰も気付いていないが、リビングで眠っていたぽん太は全身の毛を逆立て、しっぽがボンボンになっていた。


 そんな家主の娘の様子に、なめくじくんは不思議そうにしていた。

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