第3話 今夜、夜の校舎で。

 夏休みのある夜。

 ────神さまどうか無事ぶじわりますように。


 晴翔ハルトは心から神さまに願っていた。

 そもそもアレって神さまじゃなかったっけ?

 いや、妖怪ようかいだったっけ?

 どっちでもいいが、たぶん今一番ここにいちゃいけないのがココにいるんだが。


 「緊張きんちょうするね、ハルトくん。」

「うん…色んな意味いみ緊張きんちょうしちゃう。」

 クラスの女子の中村なかむらさんの横にムッとした顔の妖狐ようこのヨウコちゃんがいた。


 今日は夜の校舎こうしゃで友だち数人と肝試きもだめしをするから家にいてきたはずなのに、夏休みにあそびに来たイトコという設定せっていでみんなの前に出てきてしまったのだ。


 晴翔ハルトにとっては、もうこの状態じょうたい肝試きもだめし。最悪さいあくだ。


 見た目だけなら美少女びしょうじょだから、男子がよろこぶ、よろこぶ。

 追いかえすわけにもいかなくなったので、ふた手に分かれて、晴翔ハルトはヨウコちゃん、福原ふくはらくん、中村なかむらさんの4人で校舎こうしゃ一周いっしゅうする。

 それほど大きな校舎こうしゃでもないので、迷うことなく周れるはずだ。………はずなのに。


「ヨウコー!どこだーーー!!」

 開始3分でヨウコちゃん行方不明ゆくえふめい。なぜなのだ。


「ハルト、動画どうがってるからちょっと声さげて。」

 福原くんが黒ぶちのメガネをクイっと指で整えながら、スマホで廊下ろうかっている。

「なんかれたらニューチューブにアップするんだから。」

 一応いちおう肝試きもだめしは続けたまま、ズルをしないで校舎こうしゃを歩いた証拠しょうこを残しつつヨウコちゃんを探している。

「ねぇ、私あっち見てきていいかな?」

 中村さんが進行方向しんこうほうこうとはちがうほうを指差ゆびさした。

「そのほうが早く見つかるだろうし。」

「オレも行こうか?」

「ううん、すぐもどるよ。」

 中村さんは上の階の階段かいだんをトントンとかけあがっていった。

 自分たちが当たり前と思っているルートが当たり前とは限らないし、晴翔ハルトはともかく、ニューチューブ命の福原ふくはらくんがいては、探すのが後回あとまわしになってしまう。

 肝試きもだめしで晴翔ハルトとなかよくなれるチャンスかもとホントはちょっと期待していたが、女の子をほったらかしにはできない。

「さすがに上じゃないか。あっ!」

 さっきの階段かいだんを今度はりはじめたが、うっかり足元をらしていたスマホを落としてしまい、足をみはずしてしまった。


 落ちる!!!


 ……あれ?いたくない?ゆかがモフモフ?

「オモッタヨリオモイネ。オリテ、ダイジョウブヨ。」

「えっ?ヨウコちゃん?」

 手探りでスマホを探してライトをらすとヨウコちゃんがゆかに転がっていた。

 ヨウコちゃんがいた!いたことはいた。


「ねぇ、なんかそっち変な音がしなかった?」

 晴翔ハルトたちがこっちに向かってくる足音がする。


「うん、大丈夫だいじょうぶ。ヨウコちゃんが……!」

 言いかけて中村さんがヨウコちゃんの頭を両手でおさえる。

「ヨウコちゃんいたの?」

 晴翔ハルトのスマホのライトが2人をらした。

「あのね、ぐせが気になるんだって。だからあっち向いててくれる?」

「お、おう。」

 晴翔ハルトは2人に背中せなかを向けた。

「ヨウコちゃん、耳。なんか頭に耳が…。」

 中村さんはヨウコちゃんにボソボソと小声で耳打ちする。


 自分でも何を言ってるか分からないが、落ちる瞬間しゅんかん何が起こったのか分かった気がした。


 ヨウコちゃんは頭についている耳をひょこひょこと動かしてから、ハッとして引っ込めた。


「見た?」

「見てないことにしてあげる。助けてくれてありがとう。」

 中村さんはクスッと笑った。

「私、ライバルにはちゃんとちたいのよ。」

 ひとりごとのようにつぶやくと立ち上がってヨウコちゃんに手を差し出した。


 ヨウコちゃんは晴翔ハルトたちのクラスの教室を通りかかったときに、自分がそこにいるのを想像しているにうちにウッカリみんなとはぐれたらしい。


 合流ごうりゅうできてからは、何ごともなくゴールした頃にはヨウコちゃんと中村なかむらさんはスッカリ仲良なかよくなっていた。


 晴翔ハルトの知らないところで、友情と恋のライバルが爆誕ばくたんしていた。


 福原ふくはらくんは帰りぎわに何か言いたげだったがそれがなんだったのかは、機会きかいがあればまたいつか。



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妖狐のヨウコちゃん 牧村 美波 @mnm_373

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