第2話 ファーストコンタクト

  妖狐ようこ白狐びゃっこのむすめだ。

 まだ、毛色けいろ栗色くりいろ普通ふつうのキツネに見えるのは子どもだからだ。

 妖狐ようこにはいろんなタイプがいる。

 みんなキツネに似ているが、人に化けたり不思議ふしぎな力があるので、神さまと呼ばれたり妖怪ようかいと呼ばれたりしているそうだ。



 一年前のふゆのこと。

 晴翔ハルトは通りがかった公園のベンチのそばで、犬っぽい生き物がたおれているのに気がついた。

 ガクガクとふるえながら一度は通りすぎたが、気になって引き返すとカラスたちにねらわれているところだった。


「どけ!やめろ!あっち行け!」

 手にもっていたカサをふりまわしながら、たおれている生き物のになって追い払った。


「あ、まだ生きてる。」

 晴翔ハルトはマフラーでヨウコちゃんを包むと、おそおそきかかえた。

「子犬かなぁ。」

「わ、ワン…」

 ヨウコちゃんは思わず調子ちょうしを合わせてしまった。



 晴翔ハルトがふるえているのは寒さのせいじゃない。涙目なみだめでふえるほど動物がこわいのだ。見た目はキツネに見えているはずだが、犬だと思うのならそれでいいと思った。


「これ食べる?」

 ベンチにすわると春翔ハルトはレジぶくろからさつまあげを取り出した。

「おつかいで買ったんだけど、まぁいいや。」

 手のひらに差し出されたさつまあげをペロリとたいらげた。気がつけばあるだけ全部食べてしまった。人間はこんな美味おいしいものを食べるのか!


「ははっ。めちゃおなかすいてたんだね。今日は雪が降りそうだからうちにおいで。明日になったらい主さんをみつける方法を考えよう。」


 その夜、晴翔ハルトは、子犬(?)の体が冷えないように布団ふとんの中できしめてくれた。あたたかくてやさしい人のにおいにヨウコちゃんは安心あんしんしてねむった。


 次の日の朝、晴翔ハルトの目が覚めた時には子犬がいなくなっていて、枕元まくらもとにネズミの死がいがおいてあった。

「やっぱり、動物はきらいだーー!!」


 あのときの子犬があの妖狐ようこだと気付くのはまだ先の話。



 一方、すっかり元気になって母親ははおやのところへなんとかもどったヨウコちゃんは、迷子まいごになってこまっていたのを人間が助けてくれたことを報告ほうこくした。

「お母さん、私あの子と家族かぞくになりたい。」

 とんでもない発言に母は目をまるくした。


「どうしてそう思ったの?」

「優しいし、さつまあげが美味おいしかったし、あったかいし。さつまあげが美味おいしかったし。」

初対面しょたいめんづけされてる…」

「相手はなんて?」

「私を犬だと思ってる…はず。」

「はい?」


 しばらくだまりこむと母はこう言った。

「タイムリミットは3年。それで好きになってもらえなかったらあきらめなさい。」

「どうして3年なの?」

「あなたにも少し考えてほしいのよ。妖狐ようこと生きるか人間とし」

「人間になる!」

「あの…。ちょっとは迷って?母はかなしい。」

「お母さん、私いっぱい考えるよ!じゃあ、またちょっと行ってくるねー!」


元気いっぱいに妖狐ようこの姿で山をりていくむすめを見て、ものすっごい不安を感じながら母は見守みまもろうと決めた。


こうして3年という期限きげんつきのヨウコちゃんの婚活こんかつがスタートしたのである。



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