妖狐のヨウコちゃん

牧村 美波

第1話 ヨウコちゃんの求コン

「ハルト、今日こそ結婚けっこんして!」

「ごめんなさいっ!」


 ある夏の日曜日の午後。

 晴翔ハルトは自分の家のリビングでひたすら頭を下げ続けていた。


「どうしてダメなの?」

「だ、だってオレ、中学生だよ!?」

 晴翔ハルトと向き合ってソファにすわっているのは、同じ年ぐらいの栗色くりいろの長いかみとややキリッとした目が印象的いんしょうてきな女の子。



「ちゅうがくせい?じゃなければいい?」

「そういうことじゃないってば…。」


 こんなやり取りをもう二週間くらいり返している。

「何がダメ?カワイイ子じゃないから?」

 あまりにも真剣しんけん表情ひょうじょうに思わず目をそらした。


 本音ほんねをいえばクラスの女子じょしよりカワイイと思うし、ぎゃくにどうしてかれているのかが分からなかった。ひくいし、イケメンでもない。もしも同じクラスにいたらはなしもしない気がする。〝もしも〟のことを考えるほど、悲しくなってくる。

 晴翔ハルトゆかすわりこんで土下座どげざした。


「とにかくごめん!理由は言わなくたって分かってるはずだろ?」

「分かんない!分かんないよー!…ぐすっ…。」


 今にもき出しそうな姿すがたを見て晴翔ハルトは思わずソファの後ろにかくれた。

て。くな?くのはやめよう?なっ?」

「アレもダメ…これもダメって…うわーんっ!」


 とうとうき出したのを見て晴翔ハルトは、困ってしまった。


「あーら、よしよし。こんなカワイイ子をかせて。ハルトは悪い子ねぇ、ヨウコちゃん。」

 いつの間にか晴翔ハルト母親ははおやがやってきて女の子の頭をやさしくなでている。


「さっきね、ヨウコちゃんのためにさつまあげ買ってきたのよ。食べる?好きでしょ?」

「オカアサン、ヤサシイ。アリガトウ。」

「お母さん!づけするのやめてくんないかな!?あと、そこ!その見た目でしゃべらない!」


 晴翔ハルトはソファの後ろにかくれたまま顔だけ出して、話にわって入る。


ぜん食わぬは男のはじよぉ。ハルト。」 

「今、中学生男子にサラッとへんなこと言った気がするんだけど、まずはオレたちを見てギモンを持ちましょうか?」

「何よ?モフモフした栗毛くりげでカワイイじゃないヨウコちゃん。アタシ、犬とらすのがゆめだったのに。」


 だーかーら!と思わず晴翔ハルトが立ち上がってソファの前にでる。

「まずは息子むすこ求婚きゅうこんしている相手がモフモフしてることにギモンを持ちませんかね?」

 さっきのカワイイ女の子の姿はどこにもない。いるのはどこからどう見ても母親になついて、シッポをふっているキツネなのだ。


「うーん…見なれちゃったかな?」

 ノンキな母親にためいきがでる。


「お母さん、私はヨウコちゃんじゃなくて妖狐ようこですよ。でも、私も気に入りました。がんばって人間になりますね!」

 きゅうに人間モードにもどったヨウコに晴翔ハルトはおどろいて、またソファの後ろから出られなくなってしまった。

「きゅ、きゅうもどるのやめろ。あっ、いや、怒ってるんじゃないんだ。くな?くなよ?ね?ねっ?あーっ!オレ、動物はダメなんだ!!せめて、人間の姿すがたであれ!」


 晴翔ハルトは今、人間の姿すがたはカワイイが感情かんじょうがたかぶるとキツネの姿になる妖狐ようこ求婚きゅうこんされる日々をおくっている。

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