森を抜ける

「では、この車はARSが運転します。職業パイロットなので」

「何言ってるのよ、私はこの車のオーナーよ。そして誰よりもこの車のことを知っているわ。私が運転するの」


 眼前で二人の美少女が運転することについて言い争っている。そんなに運転したいものなのだろうか。僕なら後部座席でゆっくりしていたいんだが。


「ええーい小娘が気取るんじゃない!」

「お姉さんだって娘でしょう!」


 お互い一歩も引かない。なにかプライドがあるのかもしれない。


「落ち着け。これを改造と管理しているオーナーは希さんだ、希さんが運転してくれ。アルスは主に武器管制を行ってくれよ」

「ふふふ、私がいっちばーん!」

「ぐぬぬ、で、アルスって私のことですか?」


 ARSが不思議そうにこちらを見つめる。


「ああ、えーあーるえすじゃ呼びにくいだろ。ARSはアルスとギリギリ読めるからアルスだ。お前は今日からアルスだ」

「わ、わ、わっかりましたマスター! 愛称をつけてくれた管理者はマスターとお呼びするのがしきたりなんです、よろしくお願いしますマスター! と、のぞみ」


 アルスは最高の笑顔でそう答えるのであった。希は最悪の顔でこちらを凝視していたが。


 少々ルート開拓をしたあとに仙台市へ戻る。アルスが着ている服は既に風化していてボロボロだ、何か良いやつを着させないと。


「外に一応出られる服を買ってきたわよ。あとは自分で好きな物を買いなさい」

「ありがとうございますお姉さん! ただ私軍用なのでオシャレに関する機能が弱くて。マスターも一緒に付いてきてくれませんか?」

「なんで涼くんが行かないといけないのよ! 行くなら私でしょ」

「いやぁ、男の人のセンスって大事じゃないですか? ね、行きましょマスター」


 ニシシと笑うアルスと、ジト目で僕を見つめる希さん。僕の出した答えは。


「全員で行こう、高高度宇宙まで一緒に行く仲間なんだ。あと僕のことはマスターとは呼ばないでくれ。お兄さんで良い」


 よっしゃと拳を握りしめるアルス。鬼のような形相で僕を見つめる希さん。素知らぬ顔で外へ出かける僕。

 三人の船出は華々しくとはいかなかった。


 ――サイバネドクの元へ行き、アルスのシステムやサイバネを最新の物に取り替える作業などをしている。


「とりあえずこんなものかしらね。最新の一般人サイバネとそこそこの皮下装甲。アルスは非戦闘員だからさ」

「これでも電磁ピストルは撃てますよぉ! 四発拡散弾を撃ち出せるオバマリジでも十分に扱えます!」

「今時オバマリジは古すぎる。アルスは五〇年前の知識だもんな。後継のオーマリジットセカンドが良いんじゃないか。五発拡散弾だ、チャージすれば拡散せずに撃ち出せる」

「武装はまあ後にしておいて。服装を探しに行きましょ? 見た目に合うようにしてみたいのだけれども――」


 服屋に行き、和気あいあいとアルスを整えていく。

 服屋のおねーちゃんから「素敵な家族に見えますね」と言われたが、すまんな、僕は正田愛理しか愛せない。二人はちょっと反応していたようだが。


「こんな感じかしらね。フィットパンツにフィットシャツ。普段着用には細いワンピースを付けて。いやーフィットする素材なんて私には着れないなあ」

「端的に胸が大きくて着れないって言わないでくださいよお姉さん。アルスは幼女なので胸なんてないんです」

「ま、大人の魅力ってやつ?」

「まだ二〇年生きてないですよね」


 ギギギとにらみ合う二人。

 すぐににらみ合いになる二人にため息をつきながら、僕たちは本業に戻るのであった。


 仙台空港までもうすぐ、といった所で問題が一つ起きてしまった。

 森だ。森が仙台空港までの道を塞いでいる。

 迂回したが途中で地面に亀裂が走っていてイーグルⅫが通れない。

 移動拠点であるイーグルⅫをここに置いて進むのは自殺行為だ。


「せっかくここまで来たのに」

「涼くん、まだ方法は残ってるわ。超高速エタニディウス速射砲で森を切り裂いて、切り裂いた所をこの子が通るのよ」

「でもお姉さん、森でそんなことをしたらモンスターが飛んでくるんじゃないんですか? つい先日そう教わりましたよ」


 先日、現在の世界状況をデータチップで学習したアルスがそう問いかける。

 実際そうだ、かなり危ない。


「改良型ガトリングパルスレーザーなら大丈夫、全部ぶちのめせるわ。あのボス機体から引っぺがしたパルスレーザーマシンガンも左右に一挺ずつ搭載してるからね」

「潰せば潰すほどさらに森が暴れるんじゃないのか?」

「それならさらに潰すまでよ。できるわよ、イーグルⅫならね」


 ものすごい自信満々にそう答える希さん。

 まあ、やってみるしかないか。森を突破しないとどうにもならないんだから。


 みんながそれぞれの準備をし、配置につく。


「それじゃあ始めるぞ。超高速エタニディウス速射砲掃射開始!!」


 イーグルⅫの屋根に上り、超高速エタニディウス速射砲を地面に撃ち込む。地面が赤熱し爆発を起こす。邪魔な木々がなぎ倒され、岩が木っ端みじんになる。

 そこをイーグルⅫが駆け抜けていく。反り返るほどの崖でもなければコイツは凸凹をものともせずに進む。


「左方にモンスター出現!パルスレーザーガトリング砲掃射開始しますぅ!」


 アルスがモンスターにパルスレーザーガトリング砲を浴びせかける。モンスターは一瞬で爆散した。


「涼くんはどんどん撃ち込んで! アルスは今の調子で頼むわよ!」


 ものすごく暴力的で乱暴な進軍だけど、なんとかかんとか進んでいった。


「もう射撃能力の限界を超えますぅ! もう耐えられません! モンスターに囲まれてますよぉ!」

「核融合機関を高負荷モードにしてV十二エンジンにニトロを入れる!それでまだ持つわ!」

「前方が明るい、もうすぐ森を抜ける!」


 巨大アリのギ酸で装甲が溶けて、8本腕のゴリラによる石投げでヘコみボロボロなイーグルⅫ。

 足回りだけはまだ動いているので森さえ抜ければイーグルⅫのナノマシンが修復するはずだ。なんとしても突破せねば。


「うおおおお! 超高速エタニディウス速射砲! これで森から脱出するルートはできたぞ!」


 超高速エタニディウス速射砲で荒々しく整地された道をイーグルⅫが駆け走る。

 撃ち続けたパルスレーザー群はついに放熱モードに入り動かなくなった。

 左手の超高圧電磁サブマシンガンで雑魚をなぎ倒し、右手の超高速エタニディウス速射砲で一〇メートルはあろうかというほどの巨大熊を粉々にする。

 モンスターと言われようと、彼らはここに住んでいる生物に過ぎない。僕の超高速エタニディウス速射砲の超連射に耐えられる装甲や、対機械人間用の強化された武器を持っている訳ではないのだ。


 森を突破する。光がイーグルⅫを包み込む。その先には錆び付いた仙台空港があった。


「仙台空港跡地だ! ついに到達したぞ!」

「やったわね! 軌道航空機があると良いんだけど……」

「セキュリティの無力化と管制の権利掌握を行わないといけませんね。アルスはここで待ってますのでお兄さんお姉さん行ってきてください」


 希さんに「あんたも行くに決まってるでしょ!」と言われ、「ロボットにも人権をー! 強制労働はんたーい!」と抵抗するも力の差であっさりと引きずられるアルス。仲が良くてよろしい。


 さて、と。ついに来たぞ仙台空港跡地。何が出ても構わない。軌道航空機さえあれば。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る