暗い道の、その先に
所々明るくなった司令部をさまよい歩く。
電灯なんて保守されていなければすぐに壊れる箇所だ、所々明るくなっただけでも御の字だ。どうせフラッグシップモデルの目で見て歩いているからな。
この司令部は三階建てだが、二階で制御室と書いてある部屋を見つけた。ここが電源などを制御してればいいが。電磁防壁は働いているから、壊れて動かなくなっていることは無いだろう。
内部に入る。
天井が崩壊して上の部屋が見えていたが、機械群に大した損傷は無く元気に動いていた。
「ニューロハックしてもいいが相当防御が固いだろうな。一般兵士向けのアクセス権だけ掌握するから、後は希さんが操作してくれないか?」
「もちろんいいわよ。適当にコンソールをいじれば良いだけだしね」
難しい機械操作も希さんなら余裕なのかと感心しつつ機械にニューロハックする。まずはメインコンピュータを探り当てないと。
数台の機械を渡り歩き、メインコンピュータに侵入する。電脳世界では物凄い防壁と侵入者攻撃プログラムがすごい数でそびえ立っていた。これを最奥まで突破するのはかなり難しいな。
侵入者攻撃プログラムを防壁でかわし浸透性のウィルスをばらまいて相手の防壁を破壊していく。
全体がものすごく強固でも表層を相手にする分なら余裕だ。メンテナンスで作業員が表層にアクセスする時もあるからあまり攻撃的では無い。
そして作業するために表層にメンテナンス用アクセス権があったりするものだ。
もちろんパスワードがないと権利を取得できないが、ハックしてしまえば関係ない。対ハック用のプログラムは破壊的な相手だがこっちだって世界一のバイオコンピュータを積んでいるんだ。駐屯地のプログラムごときに負けるわけがない。
「よし、アクセス権を取得。ハック痕跡も綺麗に消した。あとは頼んだ」
「まかせて。これをこーしてあーして……」
希さんは前方にある壊れたディスプレイではなくて自分の網膜に出現させたコンソールで操作しているようだ。
最初は恐る恐るだったが、コツを掴んでからはテキパキと操作していった。
「これで電磁防壁は全域カットしたわ。どこでも入れるってわけね。電磁防壁に使っていた核融合電力を駐屯地の電力維持に回したから、あの火力発電機はバラバラにして持ち帰りましょう。さて、何があるか詳細は司令部の中枢で調べるとして、どこを見て回ろうか」
「格納庫だろうな。敵対モードの戦車がいたら即死だが」
「うふふ。あとは地下室がある場所ね」
制御室での行動を終えて、またさまよい歩く。案内図があれば良かったんだが、軍の司令部にそういうのはなさそうだ。
数十分ほど歩いてようやく司令室というか、作戦を指揮するような場所へと到達する。
「指令とか命令を送るのはもっと上の組織だから、ここは駐屯地の作戦室かもしれないわね」
「かもな。まあ駐屯地の情報はここでわかるだろう。コンピュータを片っ端から調べていくぞ。退避する際に情報が消されているかもしれないが、何か残っているだろう」
そういって二人がかりで生きているコンピュータを片っ端から操作していく。壊れているコンピュータはニューロハックできるならハックして無理矢理探すことにした。
「殆どが抹消されているな。ちょっと当てが外れたか。ただ重装甲ロボット工場の稼働は止めたぞ。こんなもんか」
「まって、誰かの日報だけどここより北東二〇キロに航空基地があって爆撃を受けているって記述が残ってる。北東に進めば明確に航空基地よ!」
「やったな。地下室の情報はないか?」
「とくにないかな。貯蔵庫とか地下にあってもおかしくないんだけど。ま、電磁防壁が施されていた場所は巡ってみましょう」
ということで航空基地の情報を手にしただけだが司令部――というか作戦本部というのが正解か――をあとにする。
電磁防壁が展開されていた場所はここを含めて三つ。一つ一つ探っていこう。
一つ目の電磁防壁が展開されていた場所を訪れる。
「建物は殆ど崩壊しているが武器庫だな。アサルトライフルが瓦礫の中で散乱している」
「昔の銃火器は今の弾薬と互換性がないからすぐには使えないわね。需要はあるからイーグルⅫの荷台に乗せて売り払いましょう。弾薬はありそう?」
「ない。弾薬庫と分けて保管したんだろう。弾薬庫にも電磁防壁は展開されていそうだが、残りの電磁防壁が展開されていた所がそうなのかもしれないな」
「そこはぱっと見車両基地みたいなんだけどね。車もかく座してるし。遠距離望遠じゃよく見えないから近づかないとわからないけど」
武器庫をあとにしてちょっと歩くと大規模な爆発が起こってできたであろうクレーターを見つけた。ここが弾薬庫だろう。火薬に火が付いて大爆発したってところか。
弾薬庫だった場所を去り、次の電磁防壁がかかっていた場所を訪れる。
そこは希さんが予想したとおり車両基地だった。複数の軍事車両が風化された状態で放置されている。幸い戦車はなさそうだ。
「この大きさの車両基地の割には軍事車両が少ないな。爆撃に対応するために出陣したあとなんだろうか」
「爆撃で車両基地の外に戦車がかく座しないわよ。地下にでも隠したんじゃない? ここには本当に地下がありそう。そりゃ大きい駐屯地だけど、ここまで歩いてきて整備基地が見当たらないもの」
希さんの言葉を頼りに車両基地をよく調べる。
すると塵が積もった中から昇降機を見つけることができた。
動力は繋がっていなかったが、イーグルⅫの動力を連絡させて動かすことに成功した。
昇降機を動かし地下へ潜る。真っ暗だが動力を通したおかげで次々と電灯が光っていく。地下は爆撃と風化の被害が少なかったようだ。
「さてと、一体何があるか……」
慎重に歩みを進めていく。
もし生きた戦車がいたら即座に死ぬことを意味する。武装だけならクインキュラスで対抗できるとは思うが、戦車は常に陸上最強の兵器だ。反応する前に殺されるだろう。
奥へ進むと、希さんからテレパシーが飛んできた。
『奥から音が聞こえるわ、パッシブソナーに反応があるの』
『どんな音だ? 車両の稼働音なら即座に逃げるぞ』
『えっとね、歌、かな。私のソナーじゃ分解能が足りないからはっきりとはわからないけど。そして多分幼い子』
『ここは五〇年くらい前に壊滅したんだろ、しかも車両基地じゃ食料もない。機械化された子供ってところか』
少し思案したが、わざと足音がわかるようにして近づいていく。
『音がやんだわ。私たちに気がついたみたい』
どうしたもんかと思いつつ近づいていく。
そして動かない車両の間から見えたその子は。
「ARS‐MRMR、行動準備よしです! このときを待っておりました!」
ボロボロの洋服を着ているが、華奢でかわいらしい少女だった。
全体的に小さい希さんよりもっと小さい。一〇歳くらいの背丈か?
「えーと、A……RSさん。僕たちは軍人じゃない」
ARSは顔を非常にびっくりさせたあとキリッとした顔になり、
「では侵入者ですね! しれいーしれいー! しゃりょうきちにしんにゅうしゃですー!」
「あのね、ARSちゃん、この駐屯地は壊滅しているのよ。正直わかっているわよね。五〇年以上ここで待機していたんだもの」
「私はわかっておりません! 今もこうやって避難命令を忠実に守っているのです!」
「任務に忠実なのはご苦労なことだが、五〇年以上守り続けて追加命令が来ないことを不思議に思わなかったのか?」
ARSはウッと体を後ろにずらして、
「け、けっして昇降機が壊れて出られなくなったわけではありません! 私は優秀な航空機操縦パイロットなんですから!」
「え、航空機操縦できるの? 軌道航空機とかも? なんでここにいるの?」
「軌道航空機もよゆうですよ! 何でものりこなせます! ここにいるのは駐屯地が保有するヘリを操縦するために配備されたからです!」
エッヘンと胸を張るARS。ボロボロの服を着ているため胸がチラ見えしてしまう。
「とりあえずARS‐MRMR。君を捕虜にする。大人しく僕たちに付いてこい。希さん、この子が使えるような洋服は持ってるか?」
「ひえー捕虜になるくらいならじばくしますー! ……あ、じばくそうち取り外されていたんだった」
「賑やかな子ね。ブカブカだけど私のを着せるわ。シャワーにも入らせましょう。イーグルⅫの居住性を高めておいて正解だったわね」
風化していない機関銃などを回収しながら昇降機を上る。そこに広がっていた光景にARSは絶句していた。
「これで現在の状況がわかったか? まずは僕たちの拠点で自分の整備をしてくれ」
「は、はい。ほんとうに、ほんとうにこれがげんじつなんですか」
「あなたの直属の上司なんかはもういないでしょうね。さあ、こっちよ」
シャワーを浴びせ、希さんの服を着せる。とりあえずこれでマシになったか。
「この後はどうするんだ? もう命令を出す人も守る理由もないと思うが」
「で、でも最後に出された命令を守るのが軍人というものなんです」
「めいれい、か。涼くん、作戦本部へ行きましょう。ARSちゃんはここの所属なのよね?」
「はい」
ここの所属だということを確認したあと作戦本部へ。
希さんがなにやらコンピュータをいじっている。
「ふーん、こんなもんか。じゃあARSちゃん、作戦本部から新たな命令よ。データをインストールして読み上げて」
「えっと、軍属から外れ、この二人についていき航空機パイロットとして全力を尽くせ。え、これずるくないですか?」
「作戦本部からの正式な通達よ? ちゃんと書式は整った作戦本部の命令文よね」
ARSは「むーん」などと唸り地団駄を踏みながらもこちらを見つめ、
「ARS‐MRMR、ただいまより新たな、さいごの、命令を実行します。よろしくお願いします、お兄さんお姉さん」
こうして、騒がしい、航空機パイロットが仲間になったのである。
ここに来てよかったな、本当に。
大型ロボットにリベンジして、本当に良かった。
コレデアイリニアイニイケル
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