改造
『のぞみちゃん、さんきはたおしたけど、おくからおおぼすがやってきた。ぼくはえいきゅうきかんがぱわーだうんしてうごけない。そのくるまにかくれるんだ。のぞみちゃんだけでも、いきのこって』
わずかなパワーでテレパシーを送る。
希ちゃんからの返事は来ない。
六本足の大型ロボットは両腕のガトリング砲でピックアップトラックを粉々に破壊する。
エンジンが爆発し、核融合機関が炸裂し一瞬プラズマが放出される。
こいつから逃げる道具はもうない。
少しでも時間を稼ぐために左半身をさらして超高圧電磁サブマシンガンを放つ。
全ての弾丸がロボットにたどり着く前に墜落そして消滅する。電磁防壁か? 拠点防衛用の兵器なら巨大な電力を使うこの防壁を装備していてもおかしくはない。
ガトリング砲が僕を狙う。ここまでか……。
と、そのときだった。
凄い爆音を立ててイーグルⅫが後方から飛び出てきたのだ! シャッターをぶち壊して!
イーグルⅫは上部に付いていたガトリング砲らしき武装をロボットに向けると、レーザーを掃射した。パルスレーザーガトリングガンだ。僕のバイオコンピュータに刻まれているデータファイルによれば、ただのパルスレーザーですら電力をかなり食う。それをガトリング砲のように撃つなんて、ものすごい電力を消費しているはず。
そんなことを思っているうちにロボットの電磁防壁は維持するための電力をたちまち食い尽くして消滅し、ロボットもパワーダウンを引き起こした。稼働が止まっている。
『ダッシュ強化で動けない!? 助けたいけどコイツを動かすのに必死なの!』
希ちゃんからテレパシーが飛んでくる。やるだけやってみよう。
オプションで付けていたダッシュ強化を使う。なんとかかんとか体が動く。強化する装備だけで無理矢理動かしているようだ。
必死にドアを開きイーグルⅫに乗り込む。
イーグルⅫが唸りを上げてこの現場から離れていった。
なんとか、生きたか。
「とにかくセンダイまで戻るわ。死ぬ方向で進んでいるわけじゃないのよね?」
「うん。パワーが落ちただけ。よく動かせたね、この車」
「システム把握まで凄く時間がかかったわ。V十二エンジンで車を動かして、核融合機関で武装を動かしていたの。インホイールモーターもあったけど配線がないから、駆動系統の理解に時間を要したわ。それで、死なないならセンダイでこの子を速く動かせる所まで改造してから、ウツノミヤに戻るわ。永久機関なら自動修復機能も付いているでしょうし」
「仙台空港跡地にはたどり着かなかったか」
「すぐにリベンジできるわよ。今は修復を優先させましょう」
犬や人型ロボットを蹴散らしながらセンダイへとたどり着く。
自動修復機能はある程度働いてくれて、安定して横になる程度ならできるようになっていた。
希ちゃんは大型ガレージを借りてイーグルⅫの改造を行っている。
僕に構っている暇はなさそうだ。
僕は僕で動けないからとにかく自動修復機能を動かすことだけに集中していたんだけど。
幸いスクラップ集めで金を稼いでいたおかげでお金には困らずに生活をすることができた。
僕の永久機関はゆっくりだが修復していっている。
「希ちゃん、今どんな感じ?」
「ヒューズとホイールを全部交換して、タイヤをはめて、改めてインホイールモーターを取り付けたわ。核融合機関の電気をこっちにも回せるように電装を改めればしっかりと動くわね。エンジンはこのまま使い回すかな。ガソリン仕様だけどバイオ燃料でも問題なく動く。燃料に互換性あるからね。重装甲過ぎて重たいから後ろを切り取ってピックアップトラックに変えちゃおうかなーってところよ」
「ピックアップトラックに愛着あるね」
「なんだかんだで使える相棒はピックアップトラックよ」
全長九メートルのピックアップトラック。
コンテナ一つがピックアップトラックになった形だ。
相当目立つだろうね。
春頃には改造も終わって、僕の永久機関も修復が済んだ。
修復が済んだ時に、グレードアップ可能という文字が目のコンソールに表示されるようになった。うーん、ちょっとよくわからない。宇都宮の病院で聞くしかなさそうだ。
自動修復はされたけど、完璧に直ったわけではないし、帰るしかないな……。
「必ず帰ってくるぞ、仙台空港跡地」
「そこに使える軌道航空機があれば良いんだけどね。さ、出発よ」
幸い宇都宮へはかなり早く帰ることができた。
十二輪の軍用タイヤ全てに芳賀技術研工業の最新インホイールモーターが付いている。それをパルスレーザーガトリング砲をぶん回せるほどの出力を誇る核融合機関から給電して回すからとんでもないパワーが出る。
九.六リッターV十二エンジンも同時に吹かせば、どんな道だってすいすいと高速移動できた。
宇都宮に帰ってきた後は希ちゃんとは別行動。
希ちゃんはガレージを借り換え、僕は病院へと向かう。病院のサイバネドクター、ヘンリーさんは元気かな。
「永久機関やメイン動力部ことは病院というか、製造元で改造を行うべきだな。病院はサイバネの変更までで、永久機関やメイン動力部は工場的な手法で行うものだ」
「そうなんですか。僕の永久機関はヨシダ製なはず……」
「ヨシダと言ってもかなりのグループ企業が存在するな。とりあえずヨシダ科学へ行ってみてはどうかな。古くから永久機関を製造している企業だから」
なるほど。紹介状をもらってアポイントを取り、ヨシダ科学へと行く。
ヨシダ科学は上級階層の企業で、とりわけ大きな本社兼工場が際立って見えた。
受付でアポを確認してもらうと、いろんな機械が配置されている部屋へ通された。
中でしばらく待っていると、一人の作業服を着た人物が中へ入ってきた。
「どうも、作業担当のコウハラです。永久機関の修理と不具合の解消ということでよろしいですか」
僕は一礼をし、
「はい、破損したので完全な回復と、バージョンアップという文字が出ているのでそれが一体何なのか確かめたくて」
「わかりました。まずは製造番号を確認しましょう。この服を着て、こちらの台に寝そべってください」
僕は着替えて台に寝そべると、永久機関のある胸にスキャナーのような物を当てられる。
「ふーむ、製造番号SEKZ‐1001。この型番は見たことがないな。少しデータを当たってみます」
そう言って空間投影型のディスプレイを操作してデータを調べ始める。
一〇〇年前のだからもうデータがないかもしれないな……。
「――一応ありますね。初期の実験物ですが。この番号だと最初期かな。私の技術では扱うのは無理だな。扱える者を探してきます」
そういってコウハラさんは部屋から出て行った。
台から降りてぶらぶらと機械を見ながら時間を過ごす。
いろんな機材があるけれどさっぱりわからない。希ちゃんがいれば目をきらめかせて眺めていただろうな。
機材を見るのも飽きたころに部屋へ一人の人物が入ってきた。
でっぷりと太っていて見るからに巨漢だ。
「いやあどうもどうも。私がここの所長である吉田匠です
「所長ですか!」
「初期の自己進化型永久機関を扱えるのはもう私だけなので
「そうなんですか、わざわざありがとうございます」
「――しかし久しいな、一号機を作ったのは一〇〇年以上前か。封印を施したはずなんだが、自己進化して生き延びたのかもしれないな……」
なにやら一人でつぶやいてるのを見ていると、ニコッとした顔をこちらに向けてしゃべりだす。
「それで、修復とバージョンアップということですね。自己進化型は既に廃れて久しいです。もう進化させる必要がないくらい開発されましたからね。自己進化型はある程度進化すると大規模な進化が必要になるんですよ。その際に永久機関を作る特殊金属が必要になるんです。今回はそれをコアに注入させて頂きます。バージョンアップの際に修復も完了します、新型になるので」
その説明を受けてまた台に寝そべり、意識を落とされる。果たしてちゃんと目覚めることができるのだろうか。
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