小さな要塞

 ルート開拓を始めて半月ほど。

 旧仙台は核で軒並み熔けたわけじゃなくて爆撃で破壊されているので金属が金属として生き残っている。スクラップを回収したり、貴金属が使われている基板を回収したりしてお金がどんどん増えていった。


 仙台空港跡地への道筋も見えてきた。数カ所のロボット製造工場を停止させてルート開拓がやりやすくなったためだ。耳が良い犬の製造工場を二カ所停止させられたことは大きいし、威力が凄いプラズマ弾を撃ってくる人型ロボット製造工場を停止させられたことも大きい。こんなに警備ロボットを作る工場があったということは、警備ロボットの産地だったのかな。実際どうだったのかはさすがに全くわからないけど。


 停止させただけなのは理由があって、工場は多用途ナノマシンを培養させて金属を生み出し、それでロボットを作っていたためだ。僕が製造装置にニューロハックして、設計を書き換え単純な金属及び貴金属を生産するようにした。

 これは儲かった。

 仙台に移り住もうかなっていうくらいウハウハである。


「まあ放置できないから仙台空港跡地の探索が終わったら工場を破壊して宇都宮に帰るんだけどね」

「涼くんしか書き換えられないから、暴走したらまた最初からやりなおしだもんね。ウハウハだけど上級階層に移れるほどには生産量多くないし。質が良すぎるから怪しまれそうだしね」

「大型セキュリティロボットの工場でもあればそこだけで大儲けなんだろうけど、そもそもそいつらと戦いたくないよ」


 そんな感じでルート開拓しつつスカベンジャーをする人が増えつつの日々である。スカベンジャーの人たちも犬などの対処法を覚えていって、皆殺しに会うことは少なくなっていった。

 僕たちが先導してスカベンジャーが後に続く、そんな流れができていた。

 おかげさまで仙台における僕たちの認知度も貢献度も上昇。悪くない暮らしを送らせてもらっている。

 ただこれに満足してはいけない。目標はあくまでも仙台空港跡地。そこの探索だ。

 ルート開拓できたのは冬を越えるころまで行ったが、わずか一一キロメートル。予想では後三九キロメートル先に跡地がある。そしてそこを掃除して探索する。先の長い話だ……。


「ウツノミヤの情報が入ってこないけど、夏になったら一度ウツノミヤに帰って芳賀技術研工業でエンジンを買い換えようかしら。水戸に行ってから北上して、消息不明になって、一年くらいたつと思うし」

「軍の施設でいいエンジンが手に入ったりすると面白いんだけどね。空軍を守るために陸軍の駐屯地はあったみたい。車の工場でも良いね、完成品が残ってそう」


 まあ、軍の施設を見つけるにしても車の工場を見つけるにしても瓦礫の山をどかして、それが運良くその施設だったら良いなってレベルだけど。二度の世界戦争後に軍の駐屯地は再編されたみたいでどこにあったのかわかっていないのだ。空港はさ、滑走路とかあるから敷地が広いのでわかるんだけど。車の工場はさっぱり情報がない。


「軍の施設に近い所と遠い所に強い機体の生産工場があるというのはなんとなくわかる気がするんだよなあ。近い所で即納して、遠い所で安全に生産するって方式」

「そして軍の施設内部に強力な戦車工場って図式ね。ただ、爆撃で吹き飛んだだけだから強固な知能戦車が生き残ってたりするかもしれない。となると一般人の私たちじゃなすすべもなく殺されるから狙いに行かなくても良い気がするわねー対戦車ミサイルでもあれば別だけどさ」

「VT‐〇五を落としまくった対空ミサイル”ユインガルド”の対戦車版でも輸送してもらおうか」

「いくらすると思ってるのよ」


 雑談しながら設定を書き換えた工場から産出される金属を回収して輸送。ルート開拓すればするほどにセキュリティロボット生産工場が出てくるので、スカベンジャーが侵入するようになった地域の工場は破壊している。永久に金属を生み出す場所を他のところに明け渡すとどうなるかわからない。リスクがありすぎる。僕たちは最終的にここを離れるつもりでいるからね。

 しかし、ここまで工場があるとなると旧仙台はセキュリティロボットの産地だったとしか思えない。だから爆撃で壊滅させられたんだろう。


「さて、と。この先どうする。明らかに強そうな重装甲人型ロボットが徘徊しているけど。軍の施設近くに来たのかな。瓦礫の向こう側に軍の施設が潰れて残っていたりしてね」


 そう、ルート開拓していたら今までとは違う、重装甲の人型ロボットが徘徊する広いエリアに入ってしまったのだ。多分軍用だろう。腰にはグレネードポケットを装着している。中身は入っていないようだが。


「一体だけおびき出して倒せるか試したいわ。倒せるならスクラップが凄いお金になるし、装甲服の上に装甲部分の金属をくっつけて防御力をさらに引き上げられる。武装も良いのが手に入りそう。使えない所がないわ」

「エッジを見たら渡るもの。それがエッジウォーカー、だっけ」

「ギリギリを攻めないと成り上がれないわ。今のところ警戒していないし、車の音にも反応していない。敵対していないか偵察能力が低いとみたわ」


 今、目の前には三体の重装甲人型ロボットがいる。浅い瓦礫の山の先にある、潰れている町工場を守っているようだが修繕が行われていないようで、今までのロボットとは違って風貌はボロボロだ。

 そのうち一番近いロボットの右足間接を狙い重機関銃を発射する。人型は足が壊されれば動けなくなるから、重装甲にされてはいるけど基本的な弱点なのだ。


 ロボットの間接に命中したが、傷一つ付かなかった。一二ミリ重機関銃の射撃を耐えたということになる。何という技術力!!

 ロボットはこちらを……認識できないようだが、反撃をしてきた。重機関銃へ正確に撃ち抜いてくる。射撃センサーは生きているのかもしれない。


「まずい、パルスレーザーライフルだ。重機関砲が壊れる。位置をずらそう」

「後退後退!」


 後退をするが、相手は三機が連携し始めるような動きを見せながら付いてくる。

 三機で連射をされると車体まで撃ち抜かれるかもしれない。全速力で後退をする。


「結構距離を取った! この壊れていない建物のシャッター内に身を隠すわ! 相手は目が悪いからしのげると思う!!」

「ニューロハックする!」


 シャッターのスイッチをニューロハックして遠隔操作する。

 ギギーと金属がこすれる音を立てながらシャッターがゆっくりと収納される。

 途中でシャッターが止まったがピックアップトラックでケツから無理矢理ねじ込むようにして入った。


「ん、後方に異物! ……車だわ」


 車に当たらない所でピックアップトラックは停止して僕たちはおりる。

 今後ろにあるかなりデカい車の影に隠れれば視界からは消え去れると思う。それくらい大きい。


「ピックアップトラックより大きい車なんて国道六号線跡を走っていたトラック以来だね」

「そうね、この車は……」


 希ちゃんがぐるぐると車の周りを歩き、ドアを開け、ボンネットを開き、中央下部にある部品を点検する。いろいろと調べているようだ。

 僕は今のうちに超高速エタニディウス速射砲の準備をしておこう。超高圧電磁サブマシンガンも撃てるようにした方が良いな。

 僕の動力が永久機関じゃなかったら今頃死んでたな。それは四本腕のゴリラと対峙した時からそうか。


「軍用重装甲車両『イーグルⅫ』、だそうよ。今立ち上がったディスプレイにそう書いてある。エンジンも核融合機関も古いけど致命的な故障がない。もう少し手入れすれば動くわ、これ」

「持って帰るの? とりあえず目の前の三機を処分するのが優先だと思うけど」

「持って帰る。平行二輪、前中後輪の、合計十二輪のタイヤで動かす小さな要塞よ、これは。ピックアップトラックをおとりにしましょう。どこの会社か物好きが作ったかわからないけどピックアップトラック以上の働きをするわ。絶対する」


 希ちゃんがそういうのならそうなんだろう。

 希ちゃんが動かすというのなら動かすのだろう。

 希ちゃんがそう言ってるんだ、間違いない。


 僕がピックアップトラックを動かしてシャッターの前方に停車させる。

 車を動かす以上影に隠れるという行為は使えない、迎え撃つ。

 かなりの重装甲を施してあるピックアップトラックだけど、それでも軍用重火器であるパルスレーザーライフルにはそう長くは持たないだろう。

 超高速エタニディウス速射砲もかなり溜めてから発射して一機ずつ一撃で撃破しないといけないだろうな。


 重装甲人型ロボット。確実に軍用兵器である三機がゆっくりと近づいてくる。

 僕はピックアップトラックの影から一瞬だけ体をさらし、先頭の一機に超高速エタニディウス速射砲を撃ち放つ。

 ものすごい爆風。巻き上がる噴煙。

 視界が腫れた後には消え去った先頭の一機。

 いける。


 反撃とばかりに発射地点を予測したのか僕のところにものすごい量のパルスレーザーライフルが飛んでくる。ピックアップトラックの装甲を簡単に溶かし僕に突き刺さる。まだ防弾服は熔けていない。もう一体。

 超高速エタニディウス速射砲。

 爆風。

 消える一機。


 あと一機。


 最後の超高速エタニディウス速射砲を溜めた時には既に皮下装甲まで貫かれて永久機関に少し傷が付いていた。でも大丈夫、右胸には予備燃料が残ってる。

 発射。

 爆風。

 オールクリア。


「ふう、なんとか、な……あ、れ」


 目の前に赤い文字で『永久機関故障、パワーダウン』という表示がなされる。

 被弾しすぎたか。これはさすがに宇都宮に帰って直してもらわないと。


 希ちゃんに状況を報告する前に、前方から凄い音を立ててやってくる大きな影が見えた。


 それは六本足の大型ロボットだった。両腕はガトリング砲のように見える。背中はロケット砲を背負っているか。

 間違いなく軍用。

 絶対勝てない。

 僕は動けない。


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