新たな土地へ
仙台へ
荒廃してしまった宇都宮市街地の復興需要はあったけど、僕たちは早々に水戸へ移動した。二人でプライベートミリタリーサービスを撤退に追い込んだんだ、僕らを欲しいと思う所はいくらでもいる。でも僕らはどこかに所属する気はない。プライベートミリタリーサービスの報復もあるかもしれないし、リスクがありすぎる。
移動の際は毎日テックファームの荷物運びは忘れずに。以前と違い積載量も馬力も桁違いなのでバカ積みして運んでいった。
「希ちゃん、今って何年だっけ」
「甘賑三五年。西暦だと二一五六年よ。いきなりどうしたの」
「かんしん三五年か。和暦は残ってるんだ。いや、ぼくがコールドスリープに入ったのが確か二〇五五年だから、一〇〇年経っても世界って変わらないなあって。ヤクザはいるし、武力組織もいるんだねえ」
「感傷に浸っている暇はないわよ。当分ウツノミヤには帰れないからイバラキで生活しないといけないんだし。――ウツノミヤの外ってあんまり良くないわよ」
前を見ながら淡々と話す希ちゃんを見ながら、僕はさらに感傷に浸るのだった。
ユインガルドが高かったので貯金を殆ど使い果たしたんだけど、宇都宮‐水戸間の小荷物運びが儲かるし水戸の家賃相場が安かったのでスラム街に住むということはなかった。大きくは儲からなかったけどさ。
「またコンテナハウス住まいだね。しかも今回はスラム街に近い」
「鼻にフィルター付けてもらいましょ。微細なゴミも濾過してくれるからここに住むなら必須よ。スラム街から臭って来る汚物の臭いも消せるしね」
というわけで宇都宮に帰った時にノーラさんにフィルターを付けてもらう。病院は地下に潜りたいから使えない。ヘンリー・ヨコミズさんとはしばらくおさらばだね。
「イバラキでは気をつけるのよ、私みたいな良いクリニックが少ないから」
「ノーラが良いクリニックねえ。まあ、気をつけるわ。修理できないのは困るしね」
希ちゃんは軽口を叩くけど、実際修理できないのはそうなので気をつけなければいけない。皮下装甲はナノマシンだから修復されるけど、人工筋肉にサーボモーター、金属骨格などは修理ができない。グレード上がれば自動修復されるんだけどなあ……。さすがの希ちゃんも応急処置しかできない。
イバラキに帰る際、バッドランダースに挟まれるように襲われたんだけど、良い機会なので潰しておくことにした。
「私は外に出るわ。重機関銃の操縦は任せた」
「OK、後はテレパシーで」
ノーラさんにサイバネ改造してもらう際に、脳に直結しているサイバーデッキに無線通信チップを追加してもらったのだ。それを僕がめちゃくちゃに改造して無言状態で使えるようにしてある。完全に念話、そう、テレパシーだ。防諜も完璧、絶対に破られない自信がある。僕がニューロ関連のチップを改造したからな。
『右側から三発のロケットランチャー! 重機関銃で迎撃するけど一発は当たる!!』
『バッドランダーズが使うロケランくらいなら耐えられる!爆発と同時に逆に前へ出る!』
ピックアップトラックにロケットランチャーが直撃する。荷物が吹き飛ぶ。しかしピックアップトラックはピンピンしていた。バッドランダーズのロケットランチャーはただ爆発するだけでたいした威力がなさそうだ。
『荷物が!』
「おらおらしねえええええええ!!」
希ちゃんは完全に戦闘モードのようだ。もう話を聞いてない。車を動かして右側のバッドランダーズを射程に収める。今度はこっちの番だ。超高速エタニディウス速射砲を連続で放ち逃げる道具、つまり車を全て破壊する。速射砲を冠する武器を舐めるな!
『左側が逃げてる!僕は外に出てあっちを追撃するよ!』
「皆殺しいいいい!!」
戦闘が終わった後は血の海と死体の山、吹き飛んだ荷物があるだけだった。
荷物輸送は失敗して信用が落ちたけど、バッドランダーズを退治したということで報奨金が出た。
「信用が落ちたのはちょっと残念だね」
「BBB+はちょっと遠くなったわね。荷物輸送も引き受けるのは難しくなったわ。毎日テックファームみたいな個人的信用がある所じゃないと無理ね」
そうか、荷物輸送ができない運び屋と認識されたのか。
「デカい輸送をすれば信用回復するかな?」
「エッジを渡ることになるけど、成功すれば一気に回復するんじゃない? なにかあるの?」
「水戸からリサイクルされた金属部品を仙台に輸送して欲しいってのがあるよ。今の時代金属って重要物資でしょ?」
「ああ……鉱山がないからね。破壊された建物に使われている金属を回収して使っているのよね。確かにそれはデカいわ。依頼主はどこ?」
「忠菱武器ソリューション」
希ちゃんはにかっと笑う。
「最高ね。引き受けましょう」
任務当日。巨大コンテナがピックアップトラックの荷台に積み込まれる。かなりの積載量だな。
「これでよし。コンテナで防御されてるし、がっちり固定してあるから少しの戦闘くらいじゃびくともしないわ。センダイまでは海沿いの国道六号線跡で行く。交通量もあるしバッドランダースも多いわね。コオリヤマを通る国道四号線合流迂回ルートもあるけど、あっちは森が多いからそれはそれで危険なのよ。荷電粒子砲を持った熊なんかに遭遇したらさすがにヤバいから」
V八エンジンが唸りを上げてピックアップトラックが動き出す。
V八エンジンを今から使って燃料が持つのかな? 国道跡の荒れ地を通って遠い仙台まで運ぶんだけど。
「よーし出発。まずは給油所を目指しましょう。ジメチルフランは手に入らないけどバイオ燃料は十分に補給できるわ。バッドランダーズもそこで給油しているから暗黙の了解で戦闘は起こらない。割と安全な場所だったりするのよ」
ああ、何回か補給するのか。本当に長距離輸送だな。
頑丈なピックアップトラックは荒れ地を物ともせず突き進んでいく。
スピードを落とすと狙われるのでエンジンは全開だ。速度メーターでは時速八〇キロメートルと表示が出ている。この状態で?
「これならお昼には一つ目の給油所へ向かえるわ。V八も凄いけど、インホイールモーター六輪がかなり効いてるわねー。トルクを生み出してくれる。V八はパワーね」
トルクとパワーってよくわからないんだよなー、などと話しつつ快適に飛ばし、国道六号線跡を走り抜ける。他にも車が走行しているけど、僕たち並に積んで、僕たち並に速度が出ている車は見当たらない。これはこれで爽快だ。
お昼よりちょっと過ぎたあたりで補給所に到着した。そこはちょっとした街のようなところで、街を囲むように壁があって、ハリネズミのように武装がされている。街の中心には大きなサイロのような物が立っていて、多分あそこが燃料を保存するタンクなんだろう。
「さあ、燃料を補給するわよ。すっからかんじゃないけど結構燃料を消費したわ。補給が終わったら屋台でご飯でも食べましょ」
「希ちゃんは何でも知ってるねえ。こんなところがあるなんて」
「バッドランダーズと普通の運び屋やってると嫌でも覚えるのよ」
なるほどなあと思いつつ給油所へ向かう。給油所は大きなガソリンスタンドみたいなところで、車で行列ができていた。順番待ちか。
「お金は前金で受け取ってるから心配しないで。燃料は店員が入れてくれるから何もしなくて良いわ。次の給油所まで何キロあるんだろ、場合によっては予備タンクにも燃料入れないと」
一体この車には燃料がどれくらい積み込めるのだろうと思いつつ順番を待つ。ある程度流れ作業で物事が進んでいき、補給を受けて給油所を通り過ぎる。非常に華麗な流れ作業だったな。
「ジメチルフランは手がでないほど高かったわー。普通のバイオ燃料で飛ばすから二割五分ほどパワーが落ちるね。バイオディーゼルよりはましだけど」
「結構パワー落ちるねえ。バイオディーゼルって下級階層の車や、他でもトラックとか重機が使っているあの馬鹿でかいエンジンでしょ?」
「そう、どんな油でも精製すれば燃料に使えるという点では凄いんだけど、そこら辺の油を持ってきて走れる程度に精製しただけのオイルが多いのよ。だからエンジンをデカくしてパワーを上げないといけないわけ。精製度合いが悪いからエンジン内部の汚れ方も酷くて、整備しやすくするために部品が大きくなってるというのもあるわ。重機やトラックに積んでるエンジンは質の高い燃料を使ってるから小さいしまあまあの性能だけど、なんにせよ乗せたくないわね。高級有機溶剤であるバイオ燃料を使ったエンジンの方が全てにおいて良いわ! 燃費以外はね」
早口でまくし立てる希ちゃんの相づちを適当に打ちながら、希ちゃんは本当に車が好きなんだなあと違うことを考える僕であった。
この日は屋台で梅干しおにぎりと味噌汁、たくあんという質素なご飯を食べて宿で就寝。翌日日の出とともに給油所を出た。とても煙り臭かった街だな。最初から最後まで車のための街だった。
「パワーが落ちて時速六〇キロメートルしかでないわね……。うーん、もらった地図データからすると一度車中泊が必要だわ」
「僕は重機関銃の弾薬室で寝るよ」
「えぇーなんでぇ。一緒に運転席で寝ましょ? 背もたれ倒せば広々としてるし、うっかりエッチがあるかもよ?」
「はいはい」
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