戦争

 前面衝突が始まって一週間。二荒山神社前では血で血を洗う戦闘がずっと起きていた。

 ロケットランチャーが飛び車が吹き飛び、ミサイルランチャーでサイボーグ兵士が吹き飛ぶ。重機関銃で一般構成員がなぎ倒される。それでも構成員は僕が渡し回ったヤク「ブルーグラス」で痛みも感じず興奮して襲いかかる。

 壮絶だ。ちなみに宇都宮の警察本部は関与しないと発表したので警官は抗争開始以来ずっと来ていない。後始末をするだけ。


「まだ忠菱警備サービスもプライベートミリタリーサービスも動かないね。まだまだ構成員も武器も豊富なんだろうね」

 内海デパートの屋上から望遠アイを使って戦闘の状況を眺める。希ちゃんは見る気がないらしい。まあ、ご飯食べたくなくなると思うもんな。


 それで、先に動いたのはタコスハウス。やはり構成員しか能がないので押されてしまう。プライベートミリタリーサービスに依頼したようだ。

 プライベートミリタリーサービスが今回の復讐先だけど、まだ一部隊しか送ってないという情報を掴んでいる。これじゃあ駄目だ。

 プライベートミリタリーサービスの派遣を見てシマダ組はすぐに反応、忠菱警備サービスを投入。

 二社によって各地で構成員の虐殺が開始される。この広い二荒山神社前、そうそう簡単に二社が遭遇しましたってことにはならないもんね。


「タコスハウスは増員要請したみたいだね。これで負けたらタコスハウスは解散かな、もう資金がない。シマダ組もこんなに荒廃した土地を取って意味があるのか。中級階層はまだしも、下級階層はボロボロだよ。復興資金がないと市から強制解散されちゃうな」

「どうでもいいでしょ。狙うはプラミリ――プライベートミリタリーサービスの略称らしい――の幹部のみ」


 そういいながら僕たち二人は垂直離着陸機VT‐〇六の群れを見つめていた。増援だ。


「〇六を使っているのはプラミリよ。忠菱は〇六ほど対地支援能力がないけど人員が積める〇五を使っているもの」

「どこに本部を立てるんだろう。狙いやすければ良いんだけど」


 プライベートミリタリーサービスは恐れ多くも神社の中に本部を立てた。さすが海外企業、日本文化を知らない。知っていてもやらない。


 程なくして忠菱警備サービスもVT‐〇五でやってきた。商業ビルであるピャルコビルの屋上に陣取る構えだ。神社とは目と鼻の先の位置にある。石畳を走って長い階段を駆け上がれば神社がある。


 これでどうなったかというと、タコスハウスとシマダ組、双方の構成員が虐殺されるだけだった。お互いがお互いを避けるように展開して、衝突は起こらない。今までと変わってない。示し合わせているようだった。


「大企業なんてこんなもんでしょ。涼くん、神社はどうなってるの?」

「警備は薄いかな。襲ってくるなんて考えてないんじゃない?」

「じゃあ、ヤっちゃわない?」

「奇襲にはなるかも。やってみようか」


 おもむろに対物ライフルを取り出す。高かったんだよねえこれ。

 そして、狙いを付けて一般精鋭兵士の頭部を吹き飛ばす。

 神社は騒然となる。VT‐〇六が飛び周辺監視を始める。

 まだ撃つ。数人の兵士の頭がはじけ飛んだ。


「場所を変えよう」


 エタニディウスグラップルワイヤーを利用して隣のビル隣のビルへと飛び移っていく。こいつ高さがあれば横移動にも使えて結構便利だな。


 VT‐〇六が数機呼び戻されてきたのがわかる。これをおもむろに取り出した携帯式対空ミサイル「ユインガルド」で打ち落とす。僕と希ちゃんで二機。携帯式ミサイルは撃った瞬間に発射位置がバレるので一気にピックアップトラックのところまで駆け抜けて逃走。巧妙にピックアップトラックを隠していたこともあって逃げ切れた。


「これだけじゃまだ駄目よね」

「もうちょっと落とさないとクビにならないんじゃないかな」


 そう、幹部へは直接相手をするのではなく、作戦ミスを何度もさせて”クビ”にさせることで復讐を果たそうということになったのだ。これはこれで悪くないと思う。大恥もかかされて面目もない状態でクビになるというのは面白いよね。


 ネットでの混乱もする。戦闘中にちょっと亜空間接続でハックした精鋭兵士の脳味噌を借りて専用ネットに潜り込み、厳重に守られた作戦指示書を書き換えて忠菱警備サービスと鉢合わせにしたりもした。撤退するわけにもいかず忠菱警備サービスと泥沼の戦闘になったようだ。

 脳味噌を借りたついでに、専用ネットワークにウィルスをまき散らして使えなくした。これでニューロネットでしか通信は行えないはずだ。これは民衆も使っているネット。極秘文章を伝達するのには向いていない。口答指示に変わるかもな。


 専用ネットワークをズタズタにしたら離発着するVT‐〇六が一気に減った。航空管制ができていないんだろう。ミサイルへの警戒もしているはずだ。これでタコスハウスの派兵要請は達成できなくなるな。


「できなくなると思ったんだけど。さすがのミリソリュ配下企業というか」

「増援を持ってくるなんてね。でも引き続き潰していきましょう、がんばろっ」


 プライベートミリタリーサービスも僕たちへの対抗措置をとってくるので撃墜は難しくなった。低空飛行でビルの間をすり抜けて飛ぶようになったのだ。さすがにこれは攻撃できない。

 じゃあどうするかというと、広い道路を通る所を予想してそこで撃つ。VT‐〇六が通れるような広い道路は限られているので、待ち伏せすれば発射タイミングはやってくる。

 また、帰還時の本部に到着する際上昇する必要があるので――二荒山神社は長い階段で上る必要があるくらい付近より高い所にある――そこはどうしても身をさらす。VT‐〇六もチャフやフレア、攻勢防御などの防衛機能をフル活用するけど、ユインガルドは高性能でそこそこ当たる。増援ですら良い感じに削っていった。


 逆に物資を受け渡す時に待ち伏せに遭う時もあって、その時は準備した道具で危機を乗り越えていった。ちゃんとした銃なら精鋭兵士の装甲を撃ち抜けるし、待ち伏せ射撃も増加させてある装甲でなんとか死なないで済む。煙幕グレネードがあれば車に乗り込む瞬間を作ることができる。

 正面から打ち合うのは圧倒的に不利なので、あれだけ重装備しても基本は逃げるだけ。運び屋に戦闘はできても戦争はできない。できる限り証拠も残さない。指名手配されると市内で動けなくなる。ま、逃げるのはお手の物だけどね、ヤクの輸送してるからいつもサツから逃げてるし。


 ユインガルドは高いのでそんなに数を使えないけど、一発一発丁寧に当てていった結果、ネット四一でプライベートミリタリーサービスが撤退するという情報が流れた。確かめよう。

 タコスハウスの構成員を一人お借りして、専用ネットをハックする。


「四一の情報は正解だ。プライベートミリタリーサービスは契約違反と称してタコスハウスとの契約を解除するってさ。撤退だ。タコスハウスは違反はそちらだということでプライベートミリタリーサービスからの資金回収に奔走するようだね。こちらも抗争から撤退だ」

「シマダ組はここを取るのかしら。取ってもお金ないだろうしどうせ市から解散命令、取らないならサツがガサ入れしまくって幹部は軒並み逮捕よ」

「プライベートミリタリーサービスが負けたってことだけが重要だよ、幹部は重い責任を取らされるだろう」


 後日、幹部が懲戒解雇されたといううわさ話をジョンサムレディで聞くことができた。

 企業の人間は企業のことしかできない。懲戒解雇になった者を雇ってくれる企業もまたない。

 これは実質的な死と同じだ。


 僕たちの復讐は成った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る