戦の前
抗争の中心部は下級階層全面と、中級階層の一部。中央の現特別行政区長所在地から日本鉄道宇都宮駅周辺の上級階層、そして宇都宮駅東地区の超上級階層は銃声一つしない。世界が違うのだ。
「ウツノミヤ近郊をタケナカ組とシマダ組、メキシコ系のタコスハウスにミリソリュ下部組織のプライベートミリタリーサービス、放浪系の宇都宮ヒッピー、元々の持ち主だった忠菱警備サービス、そして中国マフィアの緑山会が争ってるってわけ」
「最終的にミリソリュと忠菱の争いになるんじゃないの?」
「そうでもないのよ、大元が大企業だからおおっぴらに動くことができなくて機動性がないの。この二つの企業が一をやる間に五を他のチンピラ――ヤクザが行ってるわ」
「で、僕をたたき切った組織は」
「プライベートミリタリーサービスよ。ピンク色のカラーギャングをタコスハウスが動かしていて、精鋭をプライベートミリタリーサービスから呼んだってタケナカとシマダから聞いたわ。まずはタコスハウスを襲撃するわ。シマダ組がタコスハウスとやっていて、傭兵をほしがってる。表だって戦闘はしないけど、シマダ組への運送で支援してタコスハウスを潰して、応援に来たプライベートミリタリーサービスを狙って、恨みを晴らすわ。ええ、絶対に晴らす」
最後は怨念にも似た感情を込めながら説明してくれた。
まあ、やりますか!
シマダ組は地元のヤクザなのでそこそこ構成員が多い。構成員だけが脳のタコスハウスと良い感じにやり合っていて、補給品の輸送をすれば押し込めそうだ。ただ、まずはギャングの争いから始まるんだよね。ヤクザに通じる儀式みたいな物で。ここら辺はあっさりとヤクザ本体が出てくる中国系の緑山会が早い。高水町は緑山会が取ったらしい。中国は核でめちゃくちゃに破壊されたのに良く復興したものだ。忠菱グループ=日本が全土を掌握したから、らしいけど。
とにかく複数のヤクザが参加している大抗争なのでネットに提示されている契約もかなり多い。その中で運びを選んで運びつつ、シマダ組の主要物資を運ぶ。シマダ組を支援するとしても、まずは信頼してもらわないとね。
「今回のためにじゃないけど、輸送コンテナを作ったのよ。二人で持ち上がる位の重さで荷台に三箱入るの。内部は弾力性クッションで覆われていて衝撃があっても安全に物を運べるわ。荷台の両脇と背部の壁――あおりって言うんだけどね――を下に垂れ落とせるようにしたから、素早く荷下ろしができるわ」
ということで、運びに行ったら戦闘になっている場面でも、比較的安全な場所で荷下ろしをしてすぐさま逃走する、ということで契約を遂行していく。
タコスハウスの掃討支援とか、緑山会の一掃、などという契約がたまに出る時がある。そのときはミリソリュと忠菱の契約なら、契約を結んで掃討作戦に参加するようにした。警備会社の契約なら恨まれにくい。
ただ、ヤクザ本体との戦闘は結構キツい。普通にフルサイボーグの重装部隊が出てくる時もある。
普通の武器じゃ全く刃が立たないので、ロケットランチャーやミサイルで潰すしかない。そんなの毎回持っているわけじゃない。だから普通は逃げるんだけど、僕がいれば撃退できるのだ。そう、超高速エタニディウス速射砲を持っているからね。
あえて僕の犯行だと分かりやすいように超高速エタニディウス速射砲を撃ち込んでいく。
一撃で倒せないなら連射、せずに軽く溜めて大袈裟に破壊。お前らの秘密兵器は僕には通用しないんだぞ、とね。今のところ壊せないサイボーグ部隊はいないね。
僕がサイボーグ部隊を破壊すれば、士気も戦力も一気にこちら側に偏ってくる。一気呵成の勢いで戦闘は進む。破壊しなくても僕が来たとなれば貴重な戦力がエタニディウスの餌食にならないために一目散で逃げていく。抗争の支配者になったかのようだ。
僕を取り込んだところが勝てる、そんな雰囲気にもなってきた。
「これからどう動こうか?」
「タケナカとの繋がりは持っておきたいわね、一度タケナカとシマダの輸送に特化してもいいのかもしれないわ」
「抗争をタケナカとシマダを勝者にして終わらせるの?」
「そこまではしない。キリの良い所でイバラキに行って抗争から離れるのよ。私たちはヤクザの下っ端じゃない、運び屋よ」
もうかなりの重戦力を排除したもんな。
「でも、僕を切ったところへの復讐は終わってなくない?」
「それを最後の仕事にするわ」
「じゃあプライベートミリタリーサービスの精鋭部隊に強襲をかけるのか。腕が鳴るよ。ただまずは希ちゃんに皮下装甲取り付けようね」
「う。わ、わたしの白い肌が無くなっちゃうじゃない」
「僕にも使ったナノマシン皮膜凝固システムというタイプなら皮膚を失わずに出来るってノーラさんが言ってたよ。さ、お金は振り込んであるから病院行こう」
「か、稼いだお金が……」なとどうなだれている希ちゃんを連行する形でいつもの病院へ。最後まで抵抗した希ちゃんだけど、壁ドンして、
「俺は希が心配なんだ」
って言ったら腰砕けになりながらもしぶしぶとベッドに横になった。いってらっしゃい。
――数日たち希ちゃんが覚醒する。
何の気なしに病室へ入ったので希ちゃんの全裸を見てしまった。
女神のような綺麗さで、溢れ出す母性がなんともいえなかった。素晴らしい身体だ。
でも僕は希ちゃんを一番に考えられない。正田愛理が僕の思考を支配する。
なんで僕はこんな子を前にして正田愛理にこだわっているんだろう。なんで。希のほうが目の前にいるじゃないか。希のほうがす――
考えているうちに正田愛理が僕の思考を奪っていった。
――好きだよ、正田愛理。
「おはよう、希ちゃん。肌も綺麗でよかった。これで装甲も付けたし、いつでも乗り込めるね」
「肌、よかった? うれしい。お金かかっちゃっけど。そうね、ついでに取り替えた目も調子が良いわ。フラッグシップでも四世代前のだったから性能が段違いよ。各種オプションもまあまあかな」
「僕もついでにアップグレードされたし攻勢に出る準備は万端かな」
僕もついでにハイミドルにグレードが上がった。各種オプション付きで結構豪華。中級階層だけじゃなく上級階層も使うようなグレードらしい。
ここから先は軍用に行くかどうか、というところ。軍用は人っぽくなくなるんだけどね。
「うん。シマダ組がタコスハウスに対して攻勢に出るらしいから、そこでタコスハウスが精鋭部隊を要請するだろうってタケナカが言っているわ。信じてみる価値はある」
どんな精鋭部隊でも、次は負けない。
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