引越
宇都宮に戻ったら凄いことになっていた。
「裏社会の大抗争だってね。あのタケナカに喧嘩売ってからの騒ぎが、大規模化したらしいわ」
ネットラジオ『ネット四一』では連日どこで爆発があった何人が死んだどこの拠点をどこが制圧したという裏付けない情報が飛び交っている。
「さっそく僕たちにも複数連絡が来てる。参加する?」
「お金になるなら、一ヶ月後くらいに。やるとしても涼くんの装甲化が先よ。まだ心臓に強化皮膚繊維を縫っただけなんだから」
「そういえば皮下装甲はどうなってるの?」
「八割終わってるかな。私が二人いれば装甲をはめ込む所までできたんだけどなあ」
サイバネボディの皮下装甲化は皮膚の下にナノマシン被膜と非常に細かいナノマシンセンサーをはめ込む。通常は柔軟だけど、物体が当たる瞬間にセンサーが反応しナノマシンが凝固化して装甲となる。クリニック以上のサイバー病院でやるような行為なんだけど、希ちゃんはできる。なんたって自分自身を装甲化したしね。下半身はお金が足りなかったらしい。自作でもお金はかかるんだなあ。
帰ってきて残念なことが二つあった。一つは僕たちのコンテナハウスが荒らされていたこと。重要な物資は無かったけど、かなり強固に作ってあった。僕たちも抗争の一員として扱われていると言うことだろう。
もう一つは希ちゃんのガレージも荒らされていたこと。隠し地下室は無事だったみたいだけど、ウインチとか巨大ジャッキとかが持ち去らされていた。
「溶接バーナーも燃料ごと持ち去られてる、か。下級階層に拠点作ってると、死ぬわね」
「中級階層の地域に移動するしか無いかー……。維持費かかるんだけどなぁ。毎食何の素材使っているかわからないレトルトパウチからは卒業かな」
「いや、中級階層でも下級階層の食料は買えるから。そこはレベルアップしないから。でも水はピュアウォーターになるかな」
そんなわけで中級階層の部屋探しが始まった。
中級階層は蜂の巣のように詰め込まれる綺麗な企業マンションに、自営ならアパートもしくは使い潰された企業マンションに住める。コンテナハウスがハイレベルハウスだった下級とはちょっとレベルが違う。身分が保障されている企業組も蜂の巣の中で決まり切った生活を続けるのは大変そうだ。家の中の行動も決まってそう。アパートなども探せばそこそこセキュリティの良い区画が見つかる。家というか、区画のセキュリティが重要だ。怪しいやつは先に撃ち殺す。
安ホテルに泊まって日を過ごす。希ちゃんはノーラのところへいって一気に僕の皮下装甲を作ったみたいだ。もうすぐ装甲が僕の体に入る。
「お久しぶりナイスボーイ。榊涼介、もう準備はできてるわ。馴染むまで三日間ほど眠るけど、許してね」
「涼介のために特別仕様にしたから! 期待していてね!」
「そうそう、ついでに何か仕込んでいかない? ウチはあまり永久機関には強くないけど、足回りなら強化できると思うわ」
ノーラに勧められてパンフレットを眺める。ジャンプ強化一とダッシュ強化一はいいな。ジャンプ強化は溜めが必要だけど一五メートルくらいジャンプできるし着地の衝撃も緩和できる。ダッシュ強化は稼働したら三倍くらい速く動ける。稼働後は少し動けなくなるけど。撤退時にさっさと逃げられるのは良いし、ジャンプでビルの上に登れるのは良い。エタニディウス製のグラップルワイヤーを作れるから二五メートルから三〇メートルは上方へ移動できる。市街戦でこれはデカいぞ。低層マンションなら一気に屋上へ上れそうだ。
「じゃあ、指に穴開けてもらって、そこから各種――かぎ爪状の放射物体やフィラメントワイヤーなど――エタニディウスが出るようにして頂くのと、それを掌にも。掌には大きめに。ソードとして使えるようにしたいです。ジャンプ強化一とダッシュ強化一、体の消音化をお願いします」
「エタニディウスは、まあできなくはないか。あとは了解よ。体の消音化はサーボモータを取り替えるから、体をバージョンアップした際に引き継げないわよ。それじゃ、お眠りなさいな」
ということで眠ったんだけど、その中で夢を見た。
希ちゃんが路上で怪我をしていて、それを助けようとしたんだけど、目の前に正田愛理がいて道を塞ぐ。どこうとしても付いてくる。
次第に僕を抱きしめ包み込む。だんだんと僕は希ちゃんのことを忘れて正田愛理のことしか考えられなく――。
「――起きたわね。悪いけど強制覚醒させたわ。寝ているだけでもお金かかるから。どう、違和感は無い?」
「あ、はい。ちょっと試します」
外でダッシュ強化一、ジャンプ強化一を試す。パンフレット通りの力が出た。
ビルはマンション五階建てくらいならグラップルワイヤーを利用すれば屋上にたどり着けた。これは便利だ。力を上手く使えば三角飛びで上昇できる。有効活用できるようにグリップの強い靴かサイバネ強化をしておきたい。
ダッシュは動ける時間が一分くらい。動けなくなる時間が三分くらい。ちょっと使いにくい。もっと良いインプラントにしないと駄目なんだろうな。
希ちゃんの皮下装甲は凄くよくできていた。柔軟性はもちろんのこと、大口径ロングライフルの直撃に耐えた。痛かったけど。ナノマシンだから自己修復性もあるし、凄い物を作ったね。お礼を言ったら体をくねらせて興奮してた。かわいい。
さて僕が寝ている間に希ちゃんが住む所を決めたらしい。案内してもらった。
「ここよ、キヨハラ工業団地跡のマンション「ミラージュ」。三階を借りたわ」
「へえ、今って工業団地がここに無いのか」
「詳しくは知らないけど、北東の超巨大工業団地にウツノミヤ内の工場は軒並み移ったのよ。それで、ここは土地の洗浄がなされてなくて、土地がかなり汚染されてるから家賃が安くて。近くに貸しガレージもあったし、ここにしようかなって」
「お金は払えるのかい? 中級階層だと結構お金かかるでしょ。ガレージも借りたんならなおさらだよ」
「ガレージは殆ど放置されていたのを借りたから凄く安いわ。今貯金が一五〇〇万円以上あるから、余裕で払えるわよ。車をアップグレードする間は収入が無いけどね」
「三ヶ月かかるんだっけ。その間何もしないのもなあ」
「ガレージの設備が良いから一ヶ月くらいでできそう。設備って重要よね」
そんなわけで運び屋の収入源である車のバージョンアップを眺める日が始まった。抗争は今のところ中立なので後回しだ。タケナカさんは気になるが。ここはセキュリティが良いから戦闘も起こらないしね。
まずはホイールの中に今のモーターが入るように改造するらしい。軍用のホイールだから融通が効く。
次にホイールの中にモーターを設置する。そこそこ大口径なモーターを作ったようではめ込むのに苦労していた。電力を核融合関連でまかなえるため大口径でも良いそうだ。
「常時一定量の発電をするのが得意な核融合関連も何かと便利よ。メインエンジン回さないでも電気がまかなえるしね。常にエアコンが冷え冷え熱々だし、エンジン始動とタイヤの動き出しがものすごく早くなるわ。常に車が暖まっている感じね。力が必要な時はV八を回すの」
とのことだ。日立に行って正解だったかな。各種部品売りさばいたおかげで中級階層でも生活できているし。
ちなみに、軍用車がインホイールモーターだったら乗り換えていたって話だそうだ。残念ながらクランクシャフトがあって動力を伝達する旧型タイプだった。ウチの車のV八エンジンもシャフトで動力を伝達するんだけどインホイールモーターと同居できる。どうやら軍用車はインホイールモーターと同居できる構造ではなかったらしい。
核融合関連の設置は機関銃の弾を置いておいた部分を改造して設置した。積載弾数は減るけど一番堅く守られている場所だ。
さて、ホイールができたのでゴムをはめ込んでタイヤにした。
そして一番重要であるタイヤの位置を決める。
希ちゃんは悩んだ結果、後ろ側に縦に二つ置くように配置するそうだ。馬力も出て積載量も増える。伸ばすと決めていた荷台を支えるのもこっちの方が都合が良いとのこと。後ろ側にトラックのように横二輪にするか軍用車のように縦二輪にするかで悩んでいたんだよね。
そして荷台を拡張した。芳賀技術研工業に行って拡張工事をお願いしていた。大工事だと思うんだけど、特注の車を買ってもらった恩が芳賀技術研工業にはあるので、快く引き受けてくれたそうだ。
「これで一通りの工事は完了ね。さぁて、暴れるわよ」
「やっぱりタケナカさんのところに付くの?」
「涼介をぶった切ったやつらを殺せる所に付くのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます