軍用車両

 早速カメラをハック。

 うわぁ、ここだけでもめちゃくちゃな量の防壁とウィルスが張り巡らされてる。本工場だけあるな。普通なら突破できないんじゃないだろうか、そう、普通なら。僕は普通じゃない。


 ニューロ空間を走り抜け、防壁を乗り越えウィルスを破壊する。アラートが鳴らないように配線を切り奥へ奥へと進んでいく。ニューロ空間での僕は無敵だ。


 それでも大分時間が経ったころにコントロールまで来た。早速コントロールを――これは偽のコントロールだ。

 PP‐98R54。最終防壁ラインに作る偽物の幻覚装置。ニューロ空間に配置する物理障壁サイバーチップ。凄い久しぶりに見た。訓練時代のころか。これに触ると逆に開かなくなるだろう。一度見てなかったら触っていた。

 僕の方からウィルスを流してコントロールを破壊する。奥には本物のコントロールが僕を待っていた。


「コントロールまで来た。開けるよ。シャッター以外に繋がっている場所がないから、内部のセキュリティは切れてないからね」

「オッケー。電磁サブマシンガンに武器を切り替えるわ」


 シャッターを開ける。車四台分は優に通行できるシャッターが開き始める。スカベンジャーもこの光景を見て我先にと群がってくる。邪魔くさいが僕たちの目的はインホイールモーター。他はあげても良いだろう。


 潜り抜けられる所までシャッターが開くと、一番乗りを狙うかのごとくスカベンジャーが潜り込む。そして悲鳴が巻き起こる。まあ、セキュリティは切れてないからな。シャッターが生きていたんだしセキュリティも生きてるだろうな。


 頭の悪いスカベンジャーが掃討されると、次は頭のそこそこ良いスカベンジャーがセキュリティを破壊し始める。セキュリティもロボットがいるならそれの部品はなんでも高く売れるらしい。なのでロケットランチャーとかでぶっ飛ばすやつはいない。

 セキュリティが一掃されると頭の良いスカベンジャーがスカベンジャーを殺し始める。仲間じゃないからなあ。

 僕たちはこの戦闘に混ざっている振りをして奥へと走る。みんな僕の超高速エタニディウス速射砲を見た連中なので手出しをしてこない。撃ち抜けなかったけど威力は凄かったからね。


 奥に進むとそこはやはり駐車場で、様々な車がボロボロになっておいてあった。

 ここにあるのは一般社員の車だろうから一〇〇年も耐えられる物ではなかったようだね。

 でもフロントガラスや窓ガラスは無事かな、地下なんで紫外線から守られていた。タイヤも……いや、水分で加水分解されてベタベタになっちゃってる。


「軍用車でもあればまた違うんだろうけどね」

「モーターは機械だから腐食さえしてなければ大丈夫よ。この湿った地下で状態が良いのを見つけるのは難しいかもしれないけど」


 あまり状態が良い物はないけど全部リサイクルすれば新しい命が宿る。いま争いが起きているスカベンジャーの中でもここを漁る権利を得たグループ等が運び出して買い取り屋に持って行くだろうし、ここを開いた意味は十分にあるだろう。


 ざっと見しながら奥へと進んでいく。警察車両なんかもあって、付近の住民が地下へ逃げ込んだんだなと言うことをうかがわせる。


「あれ、これは軍用車両だわ」


 走っていると希ちゃんが足を止めて一つの車両を見物し始めた。軍用車両も逃げ込んだのか? 外に出て戦うんじゃ?


「軽装甲車かな。これじゃNBC兵器に耐えられないわ。逃げて様子見をするのが正解ね。エンジンは……わお、核融合電池だわ」

「この時代の核融合のほうが出力は大きいかな?」

「見て見ないと分からないわ。ただ核融合電池は電力しか生み出さないから、この車は電動なのかしら」


 あっ! という顔をした後、ぱぁっと希ちゃんの目が光り、顔がきらめきを持つ。


「ちょっとあの乱闘の中を駆け抜けるのは私じゃ無理だから、涼くんが行ってピックアップトラック持ってきてくれない?牽引して売りさばくわ。インホイールモーターは売ったお金で作りましょう!」


 綺麗な顔になったのはものつくりができる道筋が付いたからか。


「いいけど、借金も返してからね。核融合電池なら良い値段が付くでしょ」

「え?これは売らないけど? すぐに交換だけど、今のバッテリーと取り替えるわ。核融合電池は小型の高出力電池なの。かなり安全だし通常のバッテリーより出力が高いのよ。モーター出力が上がって良い感じじゃない。このタイヤもホイールは使えるかなー。売るのはシャーシだけになりそう。ツクバに行く時間が無くなっちゃったね、てへ」


 つくばには絶対行くぞと強い決意を新たにして僕はピックアップトラックを取りに戻るのであった。


 ピックアップトラックを持って帰ると、希ちゃんは二代目の軍用車両を見つけ、連結していた。二台牽引なんてできるのだろうか? タイヤ無いよね?


「おかえりーもう一台あったからこれも引っ張って帰ろう。軍用のタイヤはパンクしていてもホイールのみで動くようにできているから持って帰れるよ。V八エンジンが火を噴くぜ!」


 動かすと本当に牽引できたので、戦闘が収まった入り口の血糊を眺めながら帰還する。どこのスカベンジャーグループがここを手にしたんだろうなあ。錆びているボディでも、リサイクルすれば良い金属になるからここはお宝の山だよねえ。修理しても良いし。


 日立の買い取り屋に軍用車を持って行って売却。シャーシに各種部品は高く売れたよ。軍用車に乗りたい人もいるってことだね。


「全部で二六三四万か。これで借金全額返せるよね」

「た、タイヤの換装と平行二輪化が……」

「まずは支払ってから考えようね。お金はまだあそこの駐車場で稼げるでしょ。僕らを攻撃する勢力はいないみたいだし。他にも開かずの扉を開ければきっとお宝がある」

「うう、改造……」

「怒るよ?」

「――わかりました。今送金します」


 僕の迫力に負けてお金を送金した希ちゃん。ちゃんと履歴を見せてもらって確認もしたよ。偽装口座に送金されてたらぶん殴ってた気がするな。


 希ちゃんの身売りが無くなったことで僕も心配すること無く行動ができるよ。

 スカベンジ行為をしてお金を少し貯めたら平行二輪化? ってやつをしても良いね。


「平行二輪化ってどれくらい期間がかかるの?タイヤを荷台に載せたままだと盗難の恐れがあるしサクッとやっちゃおうよ」

「えっと、三ヶ月もあればできると思う。結構いじるから時間かかっちゃう」

「その間収入なしか……。宇都宮で行おうか。こっちだと車の工場を利用するだけでもお金がかかっちゃう。宇都宮ならお金かからない工場があるんでしょ?」

「うん! ウツノミヤなら自作のガレージがあるから! ウツノミヤに戻ろう! ツクバはちょっと先になっちゃったね、てへてへ」


 希ちゃんは行かせたくないようだけど、つくばに行って軌道航空機を手に入れるんだ、絶対に!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る