採掘

「ここがヒタチかぁ」

「完全に荒れ地とがれきしかない。バッドランドだね」


 日本とアメリカが世界大戦後にすぐ立ち直れたのは、高度なミサイルディフェンスで核の影響を――これでも――さほどうけなかったからなんだけど、日立はぼっこぼこになっていた。


「逆に、ここまでボコボコならスカベンジャーも少ないんじゃないのかな。良いのが残ってそうだ」


 水戸市の市庁舎からもらった昔の地図を参考に、目星を付けて探っていく。


「ボルト一つ、ナット一つでも見つけたら必ず拾ってね。何かに使うから」

「わかってるよ。天才希様にかかればどんな部品だって芸術的な機械になるもんね」

「てんさいだなんて、もーやだー、もっといってーやだやだー」


 体をくねくねさせている希ちゃんを尻目に丁寧に工場跡を探していく。逃げるので精一杯だったのだろう、部品は大量に残っていた。白骨死体もだけどね。

 日立は武中工業の企業城下町で、工場や部品屋が集まっていた都市だ。武中工業は確か電機と白物家電が強かったかな。電子レンジとオーブントースター、洗濯機に食洗機とか出てこないかなー高く売れるよ。


「おおーこの大きな工場、半導体部品作ってたみたい。部品が一杯出てくる。半導体の完成品も出ないかしら。高く売れるんだけど」

「半導体ならクリーンルームなはずだから、それを維持する装置が出ればかなり良い値段になるんじゃない? 壊れていても希ちゃんが修理するし」

「そうね、出てくるのを祈りましょう」


 拾った部品を片っ端からピックアップトラックの荷台に乗せていく。

 調べた所、今ピックアップトラックに着いている荷台は大戦前の規格だと一トンから一.五トンサイズの小型トラックが乗せていた荷台なんだそうだ。だからたくさん乗せられるんだよね。知らないうちにトラックが一体化した車になってた。


「結構鉄骨とか残ってるわねー。今ピックアップトラックを拡張したいなって思ってたからちょうど良いわ」

「え、もっと大きくするの?」

「うん。荷台をもっと大きく。タイヤの位置を変更して、後輪のタイヤを四つにする。重量物運搬トラックスタイルにして可搬性と安定性増加。インホイールモーターが入る頑丈なタイヤがないから計画だけで終わってるけどね。全長も伸ばしたいわね、ダブルキャブ人が乗る場所が二部屋にもしたいし」

「もうビックサイズのピックアップトラックだね。武中はモーター強かったから、重工業の本工場へ行って探してみようか。部品があれば組み立てられるもんね。でもそこまでいったら軍用の装甲車を改造した方が良い気もする」


 誰も信用していない日本国営放送を聞きながら本工場へ移動する。なんの信頼もないラジオである日本国営放送だけど、天気予報だけはそこそこ当たるかな。静止衛星『ひまわり五五号』と準天頂衛星システム『さくら』をまだ所有・運用してるもんね。今年はバイオ燃料には適さない気候で生産量が減少しそう、だそうだ。宇都宮に住んでいれば関係ないな。


 おおー、本工場に着いたけどこっちにはスカベンジャーが一杯いる。争いは起きていないけど、良い物を掘り出したら襲われそうだね。最後に手にした物が売り払う権利がある、ってバッドランダースだった希ちゃんが言ってる。


「拳銃はすぐ抜ける位置に保持しておきなさいよ。いつ銃撃戦が始まるかわからないから」

「わかった。YUKIMURAがある」

「え、それってスマート・アイ連動システムの結構良いやつじゃない。いつ入手したの?」

「ちょっと前に五〇万円希ちゃんの口座から下ろしたじゃない。それで」

「そりゃ、私の口座がメイン口座でそこからいくらでも下ろして良いという決まりだけど、機械は一度私に見せるって約束じゃないー! 改良できたのに。帰ったら必ず見せてよね」


 ちょっと怒られつつも腰のホルスターに引っかける。これ自体が高価なので、威圧効果も高いだろう。希ちゃんは拳銃タイプの電磁ショットガンを腰にぶら下げたようだ。銃身が短いから拡散率が高く広範囲に飛ぶ。電磁式だから小さい弾がとても複数発射されるし弾の形状が自由に変えられるので、殺傷力が高い。マガジンにもそこそこ入る。純粋に人を殺すための銃だね。


「電磁式のマガジンは大体が銃の上側に箱状の形で装填するから、希ちゃんの小さな手でも軽く扱えて便利だよね」

「え、小さいって言った? 小さいって?」

「手が、だよ。小さくてかわいいじゃん」

「もーそっかーじょうだんきついよーうふふ」


 小さいにすぐ反応する希ちゃん。怒らせないようにするのが大変だけど、結構かわいいよ。


 本工場は荒らされ尽くしていて細かい部品しか手に入らなかった。

 でも。


「地下へ進む、ロックされてるシャッターか。僕なら余裕で開けられるね」

「ニューロハックでも、超高速エタニディウス速射砲で破壊しても、ね」

「うん。地下駐車場ってのが関の山だろうけどアレがあるはず」

「インホイールモーター! 戦前は全部電動でインホイールモーターだったんでしょ?」

「今バイオ燃料で動いてるエンジンの構造は石油や水素由来のエンジンだから、石油等で動くエンジンもあったけど、まあ大体そんな感じ。一般人は電気だよ」

「小さめのトラックに付いてるインホイールモーターなら改造すれば取り付け可能よ、楽しみー」


 ざっと見渡す。ハックできる箇所がないな。僕の右腕が唸りを上げる時か。


「希ちゃん離れて。ぶち壊すから」


 そういって二人で距離を取ると、右腕に力を貯め始める。戦前のシャッターとはいえ、エタニディスを使うんだ、破壊は可能だろう。


「よーし溜まった。いきます!」


 今までにない大きさのエタニディウス発射物体がシャッターへ突撃する。


 ものすごい音ともにシャッターが!


「こ、壊れない……?」


 希ちゃんが近づいて状況を確認する。


「涼くん、一切傷が付いてない。凄い爆音だったのに。耐えきられちゃった」


 そんな馬鹿なと何度も打ち込むが、一切傷が付かなかった。


「そんな馬鹿な……」

「戦前って今より永久機関が発達していたんでしょ? もっと凄い出力の砲撃にも耐えられるように設計されていたんじゃないかな。しょうがないよ。涼くんのはモンスターを秒殺できれば十分だって」


 落ち込む僕を慰めてくれる希ちゃん。ちょっと情けないなあ……。


 我先に入り込んでお宝をゲットしようと集まっていたスカベンジャーがぼろかすに暴言を吐きながら帰って行く。お前らのためにシャッターを開けたかったわけじゃないんだよ!


 なんかないかなあと周辺を探るけど何もない。なにか機械があればそこからハックできるんだけど。


 ふと上を見た時、フラッグシップモデルの目がとある物を捉えた。


「極小の監視カメラじゃないか。そうだよな、車の管理するためにカメラがあって良いはずだよ」


 じゃあ、ハックしますか!

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