長距離輸送
「ちょっとハガで寄り道して良い? ミトに運んで欲しいブツがあるっていう契約を見つけたのよ」
「ネットでかい? だまされて待ち伏せ、なんてことはないだろうね」
「条件が格付け会社でB+以上の運び屋ってなってるし、契約の提示先もBBだからそれはないと思うわ。ちなみに私たちはBB+++よ。BBBまでもう少し!」
BB+の上にはBB++があって、BBBの上にはAがあって、A+……となってAAAとなる。上も下もそうだからBB+++って結構厚い信頼だったりするんだよね。住んでる所はコンテナハウスだけど。一七歳二人でやってるんだけど。
ハガにある『毎日テックファーム』というバイオ燃料世界最大手の企業から満載の種籾を積む。運ぶ理由は聞かないから詳細はわからないけど、バイオ燃料になる新種の米を茨城でも栽培するのだろう。
ただのピックアップトラックだけど、連結できる部分は各所にある。ばら積みじゃなくてコンテナ形状の箱を連結させて積み込んだ。コンテナ形状なんで上にも連結できるから結構積んだな。
「それじゃよろしく頼む。襲うやつはいないだろうが、最悪でも一箱は運び込んでくれよ」
「わかりました。全部運べたらボーナスくださいね」
そういって毎日テックファームを後にする。
「一二三号線は主要国道だから悪いやつはいないわよ。いるとしたらモンスターね」
「モンスターなら超高速エタニディウス速射砲で一発だ。水戸に入って毎日テックファームに置くまでが心配だね」
「――というか、燃料が持つかどうか」
「どゆこと?」
実はこのピックアップトラック、通常走行は車体内部にある小型核融合発電機から電力を取り出して電気で動いているそうだ。重い時や荒野を走る時、高速走行をする時にバイオ燃料を併用して使うそうで。
で、今回はその重い時にあたるそう。
「じつはバイオ燃料タンクを予算削減で削っていて長距離運送にはあまり向かないのよ、この子。いつもは電力だけで走れるんだけど、この重さだとちょっと」
「六.五リッターのエンジンが泣く仕様じゃないか……。僕と電力回路を直結して電気出力を向上させよう。左腕くらいなら過剰電力で焼き切れても問題ないよ。直しても十分おつりが来るんでしょ?」
「まあ、そうなんだけど。核融合発電機が壊れちゃまずいし、バランス考えながらバイオ燃料も噴射するわ」
永久機関程じゃないけど核融合発電機――または核融合電池――ってめちゃくちゃ高いシロモノで、この小型核融合発電機でも一千万したそ。
永久機関は僕のように人を稼働させる出力があるのは珍しいというか、兆くらいの値段がつく場合もあるんだってさ。僕が一番高価な荷物だった。
さて、メンテナンスと保護のために核融合発電機は車体内部に設置されている。そこから出力部の電線を引き抜く。
左腕で直に触る。ビリッときたが僕の方が電気出力が高いのですぐに押さえ込めた。
「よし、連結完了。それじゃしゅっぱーつ」
僕の永久機関の出力が向上する。
それは電力となり連結している核融合発電機へと伝わり、車のモーターが回る。
「よし、動いた。問題ない程度に出力を上げるね」
「了解」
出力を上げていく。だんだんと左腕が熱くなってくるのがわかる。水戸までとはいえ長距離走るんだし、熱を持っちゃうと駄目だよな。熱くならない程度までに抑え、電力を供給し続ける。
「これくらいでどうかな」
「モーターが焼き切れないか心配なくらい順調よ。バイオ燃料も吹いてるけどそんなに過剰じゃない。これなら数十分でミトに着くわ」
僕達は短距離運送しかしてこなかったから、遠距離の運送をすることに考えが及ばなかった。茨城に何度か行くなら遠距離の移動について考えておかないとダメだね。
「モーターの改良とバッテリーの追加、燃料タンクの増設と、エンジンのV3駆動化を進めないとダメねぇ――」
どうやら希ちゃんも同様のことを考えているようだ。ならここから先は希ちゃんに任せるべきだね。彼女は車や機械いじりの天才だから。
僕が考えるべきは、
「希ちゃんの特性皮下装甲、楽しみにしてるね」
「あ、うん。あの刀を止めるのは難しいかもしれないけど、大口径の大型ライフルくらいは止められるのを作ってるよ。これは体がバージョンアップしても使いまわせるようにしてる」
こっち。
今の僕は皮下装甲どころか強化皮膚繊維すらついてない。裸みたいなものだから銃撃戦になるのが怖いのだ。
皮下装甲は機械みたいなものだから希ちゃんでも作れる。つまり天才が作る。最高のシロモノになるはずだ。楽しみだね。
ピックアップトラックは順調に進み、水戸へと進む。途中モンスターが出たけど僕の砲撃の前では相手にならなかった。何も考えずに撃つだけなら超高速エタニディウス速射砲は本当に強い。
「さて、毎日テックファームに荷物を降ろしますか」
毎日テックファームへ行き、荷物を降ろす。ほくほく顔の希ちゃんを見る限り結構美味しかったようだ。
しかも。
「あの荷物あと五個あるんだって! 引き受けてお金儲けしましょ!」
「思わぬ所で儲け話! そんなに危険じゃないし引き受けよう!」
「じゃあ、稼いだお金は全部車につぎ込むわね。お酒も我慢しなきゃ」
希ちゃんにしてはかなり節約してるな。貯金もつぎ込むのかな?
「五回もあんな量の荷物を運ぶのならモンスターは見逃すかもしれないけど、バッドランダース達には必ず狙われるわ。私は一二歳までバッドランダースに居たけど、大型輸送を狙うのは朝飯を食べるより普通の行為だったから」
「そっか、ピックアップトラックは希ちゃんに任せるよ。僕は核融合発電機との連結回線を太くする。大電力を通せるようにしておこうよ。あ、出来れば助手席から触れるようにしたいな。重機関銃とニューロリンクしつつ電力をまわした方が良いよね?」
二週間くらいかけて第一段階の改造は終了。バッテリーと燃料タンクが増設改良できて、高速で水戸まで到着できるようになった。バッテリーって二回の世界戦争による技術崩壊から生きのびてずーっと性能が上がり続けていて、小型でもかなりの大電力を保存できる。その代わり大容量のバッテリーは本当に高い。アルカリ単三電池とかが今でも現役だったりする。
宇都宮で荷物を受け取り、水戸に持って行く。あと四回。
もう二週間で第二段階の改造は終了。ピックアップトラックの全面に強装甲を施した。地雷や
宇都宮で荷物を受け取り、水戸へ持って行く。相手が僕を見たかどうかはわからないけど、フラッグシップモデルの僕の目にはしっかりと偵察をしている人物を確認した。超高速エタニディウス速射砲で粉みじんにしてから通過。水戸へ到着。あと三回。
大口径モーターとV3駆動化の改良に成功する。タイヤはかなりの重防御になった。あと二回で僕の装甲を作ってくれるらしい。
宇都宮で荷物を受け取り、水戸へ持っていく。ついに地雷が爆発した!
「襲いかかってきたのかもしれないけど、こっちは軍用車並に堅い装甲があるのよね! 悪いけど相手にする時間もないわー!」
全ての動力を最大に発揮して一気に逃げ去る! 時速二六〇キロメートルは出ていたんじゃなかろうか。時速ディスプレイは振り切れていた。
水戸で降ろして、おしまい。
「あと一個あるけど襲われるようになったんじゃリスクに見合わないわ。さっさとヒタチに行きましょう」
僕の皮下装甲が作れなかったので、希ちゃんは即席で強化皮膚繊維を作ってくれた。永久機関周りのみに張り巡らしただけだけど。そこら辺にある素材を本当に上手く使ってる。天才だな。
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