受肉

 ノーラさんの手で下半身を換装して普通の人にもどる。まだスキンがないから普通とは言えないけど。


「あなた達ドク無しでこんな換装したの? 危ない橋を渡ったわね……」

「そんな危ないことだったんですか?」

「ドクがやるならまだしも、神経接続を素人が現地で行うのはかなり危険よ! よくきれいに繋げたわね」


 ああ、それは機械がやってくれたもんな。

 希ちゃんと顔を見合わせ、黙っておこうとアイコンタクトをとる。


「人間になったということで、声帯を作るわ。データを元に培養で形作るから二週間くらい時間をちょうだい」

「不満な人がそこら辺に一人いますけど、それくらいでも大丈夫です。僕の体のバージョンアップは出来ないでしょうか」

「まずはその体を見てみるわ」


 ということで手術台に乗り、各種センサーを浴びせられる。

 なんかおもちゃにされている気分がするけどまあ、おもちゃだよね。


 ふむふむとデータをみるノーラさん。

 導いた診断結果は……。


「下の上って所ね。これで運び屋はちょっと心もとないと思う。アサルトライフルも反動制御が難しいのでは無いかしら」

「そっかぁ、まぁ入手先が入手先だもんね」

「どこかは聞かないけどだいぶ古いのは事実ね、軍用っぽいけれども」


 どうにも、履帯が凄いらしく、これがなかったらスカベンジャーをしたさいにあれだけの重量を背負ったら腰あたりが折れていたみたいだ。


「それなら一〇〇〇万円位で売れないかな? 換装が難しいなら売る一択でしょっ」


 僕らのお金を運んでくれた履帯をすぐにでも売ろうとする希ちゃん。逞しいね。

 実際使わないしあっても邪魔なだけだから、売るのが正解か。


「タケナカに持ち込めば買い手はつくわよね。いや、レイに持ち込めばミリソリュに売れるな……」

「そういえばミリソリュってなんなの?」

「アメリカの会社。ミリタリーソリューションサービスが正式名称。世界二位の会社だよ。三回起きた企業戦争はここと忠菱が争ったの」

「へぇ、知らなかった。宇都宮は日本だから全然ミリソリュの気配がないね」

「でも活動はしているわ。ミリソリュに売るかなー」


 そろそろサイバネの話をしてもいいかしら、と横槍が入ったのでサイバネの話へ。

 と言ってもここで出来ることは声帯くらい。今の体に合わせてインプラントを入れても、体が耐えられないから低レベルのものしか装着できないそうだ。


「ウチと提携している病院があるから、そこで良いボデイを手に入れてきなさい。スキンもそこで手にいれた方が良いわ。声帯は一〇〇万円くらいで結構よ。あと希を三日くらい貸しなさい」

「嫌よ、ノーラの同性愛には困ったものね。私以外にもいるじゃないの」

「希は特別なのよ! その素晴らしい肌は何ものにも変え難い! そしてその素晴らしいボディに小さな身長! 最高すぎるわ!」


 あ、身長は。


「よし、さっさと病院行くぞ涼介。当分ここには来ない」

「ああ、お待ちなさい! いえ申し訳ありません希様! どうか御慈悲をー!」


 ノーラさんのかけ声むなしく、僕たちはさっさと病院へと向かうのだった。


 着いた病院はノーラのクリニックの提携先病院なのでスムーズにサイバネ科へと通して貰えた。


「私はここのサイバネドクである『ヘンリー・ヨコミズ』だ。よろしく頼む」

「よろしくお願いします。サイバネドクはハーフとかの人が多いんですかね? ノーラさんは外国人だし」

「ミリソリュの方がサイバネティックボディ、つまりサイバネ技術があるからね。向こうへ留学しに行って日本で開業、大儲けするのがサイバネドクの一般的なエリートコースだよ」


 へーそうなんだ。これからもサイバネドクは外国人やハーフと出会うことが多いのかな。


「じゃあ、早速だけどサイバネボディとインプラントの話をしましょ? いま私の口座に四五〇〇万円くらいあるけど、どれくらいの体に出来るかしら?」


 五〇〇万は生活費に使う部分じゃないかな!? 口座の全額を出すつもりかい!?

 あと履帯は売れてる前提で話してるよね!?


「中の中、ノーマルミドルってところだね。体に一五〇〇万、インプラントに五〇〇万というところか。ハイミドル以上はいきなり価格が跳ね上がるからな。ボディだけで三〇〇〇万円くらい持ってこないと」

「運び屋なので強力な体が欲しいんです、軍用とか。まあ交換は無理でしょうけど、おいくらくらいするんですか?」

「軍用もクラス分けされているが最低で五〇〇〇万、最上級で三億だな。一般人が買える物じゃあない。忠菱に忠誠を誓って手に入れるものだよ」


 たっかー! 軍用はさすがの値段だね。

 希ちゃんはハイミドルが良いって言うけど、希ちゃんは体を担保にしているからそれの支払いもしないとって何度も説得してなだめた。僕のことになると冷静な考えが出来なくなっちゃうね。


「じゃあインプラントの相談よね。スキン張る前の方が効率的だし。そーだなー。上級強化骨格に上級強化肺、超強化フィルターを付けてー。骨髄密度を劇的に上げて、脳と脊髄の常時発動型神経ブースター『テズレニコス』と瞬間的神経及筋肉ブースター『サンダウン』や『シナプス加速器』でもつけましょ? ああ、右胸にエタニディウスの保存容器があると良いわよね。あと目も変えたいわ。望遠レンズと投擲物の弾道計算機能、スマート・アイも忘れちゃ駄目よね。両首筋に取り付けるレーダー/ソナー装置。あとは足にソリッドカッターとローラータイヤ、空中ジャンプ機構。腕にはー――」


 なんか凄い量を言い出したぞ!?


「待ちなさい、それだけ付けるとなると予定している体じゃ持たないぞ。インプラント代金だけでも四〇〇〇万を優に超えている。もっと考えなさい」


「はーい」と、ヘンリーさんにたしなめられて僕と話し合って吟味することに。


「山塊鎧製造(さんかいよろいせいぞう)社製の上級強化骨格は必ず欲しいわ。持てる重量の基礎になるし、力を入れられる限界が上がる。そしてちぎれにくくなるから。忠菱医療研究の強化肺は絶対欲しいよね。フィルターもついでに欲しい、森の中に入ることもあるし」

「テズレニコスや強化ブースター各種はちょっと過剰だと思う。目は目そのものをグレードアップしてもらった方が良いんじゃないかな。できるだけ上の義体になっても使い回せるやつにしよう」

「じゃあ、上級強化骨格と強化肺にフィルター、眼球にエタニディウスの保存容器で終わりにしましょうか。残念だけど。あ、でも目はフラッグシップモデルにするわよ。目はオネダオプティカルサービスが鉄板ね。目に関しては徐々に変えるより一気に変えた方がトータルで安いの。目には望遠レンズと投擲物の弾道計算機、そして望遠レンズや銃に付いているスコープに、SMARTとの連動装置『スマート・アイ』は付けましょうよ」


 というわけで上級強化骨格、強化肺、フィルター、目の各種アップグレード、エタニディウスの保存容器の五つを付けてもらうことになった。

 総額三〇一七万円。高いー。目が一〇〇〇万、エタニディウスの保存容器が五〇〇万とかなり高かった。上級強化骨格と肺で五〇〇万、残りって感じかな。


 上級強化骨格と強化肺はオプションサービスで、ハイミドルとかになると消失しちゃってまたオプションで付けることになるんだってさ。交換した時点で上級強化骨格を上回る体になってるそうだ、

 

 さすがは中級階層の病院だけ合って、ノーマルスキンは各種取りそろえてあるし、永久機関も全然余裕で取り扱えるそうで。永久機関は古代技術で扱えない訳では無いみたい。ただ戦前より技術は落ちているみたいだけど。

 スキンを皮膚神経と定着させたりするので数日眠るみたいだけど、僕は肌の色を指定して、後は全部お任せで手術台に上ったのである。


 ――数日後――


「そろそろ麻酔から覚めるころだ。手術は無事完了した。マイクは取り外してしまっているからまだしゃべれないが、クリニックの方で声帯の準備があるんだろう? 感動の再会はその後だな」

「はい、ありがとうございます。もうこの数日間そわそわしちゃいましたよ」

「まあ大事なパートナーさんだ、無理もない。右胸に仕込んだエタニディウスの保存容器があれば体内で何かを生成するのが素早く行える。お金が出来たら仕込み銃などを検討しても良いだろう。しかし特殊だが良い永久機関だったな」


 ああ、なんか話してる。しゃべろうとするがしゃべれない。なんだろ、マイクでも取り外されているのかな。

 荒く息をして起きたことを知らせる。


「あ、起きたのね! 今はマイクがないからしゃべれないけど、ノーラのところで声帯を取り付けてもらえばしゃべれるわ。長い手術お疲れ様。日本人に多い、うすだいだいの肌が素敵よ。あ、これが下着と洋服よ。一応防弾加工はしてあるけど十分とは言えないわ、皮下装甲作ってあげるわね」


 こくこくと頷き、ゆっくりと起き上がる。まだふらふらするので一日入院を伸ばしてもらった。希ちゃんが一方的に喋るのをただ黙って聞く一日だった。


 洋服は黒の合成多革スリムフィットパンツに青のアラミド繊維のシャツ、黄色の防塵防水のレーザーウルフジャケット。

 よく考えられて買ってきてあるみたいで嬉しい。希ちゃん洋服のセンス壊滅的なんだけどな。ノーラさんが手伝ったのかな。


 次の日無事に退院し、ノーラさんのところへ。


「あら、かっこよくなったわね。私はそういうのも好みよぉ」

「ノーラの悪い癖よねー見境ないの」

「あら、いい男と遊ぶのが悪いわけないじゃない。さ、声帯は出来ているわ。希に頼まれて速成培養にしたからね」


 チラッと希ちゃんを見る。スッと目線をそらす希ちゃん。お金かけたんだな……。


「それじゃあ取り付けるわ。手術台へどうぞ」


 手術台にまたがり、まぶしいライトを浴びる。そして口を大きく開かれて、人口声帯を縫い付けられた。縫い付けは機械がやったんだけどね。喉奥の声帯を人の手で縫い付けるなんて、出来るわけないでしょとのこと。確かに。


「三日は黙っていてね、くっつかないから。三日したらまた来て、様子を見るわ。私がGOサイン出すまではしゃべれないから覚悟してね」


 ――声帯も病院の方が良かったかな、なんて思うけど、クリニックの方が断然安いからね。

 一週間くらいは我慢しよう。


 それから、無理矢理希ちゃんに担保にしたお店を聞き出して(無言の圧力がここでは役だった)担保の残りをある程度返しておいた。マスターはロリ巨乳ってのは需要があるから担保になってくれるのを期待しているみたいだけど、さすがにこういうところへ希ちゃんが落ちるのは嫌だな。


 まだ返しきってないのでこれからどんどん稼いでいかないと!

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