帰還
「帰る前にここの施設で美味しいものを拾っていかない?僕も背負える用になったし」
そんな一言でスカベンジャー行為を始めることにした。まあ、ハイエナ行為、ゴミ漁りだね。
「とにかくデカ物はセキュリティロボットの回路と、物資の搬入倉庫で止まっていた大型トラックのエンジン周りよ。私がエンジン周りをやるから、涼くんはセキュリティロボットの武器と電子基板をお願い。殆どのセキュリティは切れてるから、丁寧に左手のセイバーで切り取ってね」
「了解! 車は本職に任せます」
セキュリティロボットの回路と武器を一つ一つ外して荷物を集積する場所へ持って行く。ついでに強靱なラップフィルムを見つけて、背負いやすいようにぐるぐる巻きにする。
希ちゃんをボロボロにしたセキュリティロボットは両腕がガトリングで出来ていて履帯で走る。前面装甲がかなり分厚くて、これを止めたのは素直に凄いと思った。ガトリングの部分を頂いていく。銃弾は互換性のあるヤツを街が作るだろう。
「涼くん、こっちは終わったわ。エンジンを引き上げられるガレージがあって良かった。んー、セキュリティロボットの部品はもっと捨てても良いかもね。トン単位で重さがあるわよ」
「多分持てなくは無いと思うけど……」
「両足で持って帰るのよ、人間の狭い足の面積じゃあ沈み込んじゃうわ」
「……履帯があったな」
修理工場の修理部分に舞い戻り、下半身をセキュリティロボットのボスが使っていた履帯と交換する。これなら広い面積で荷重を支えられるから大丈夫だろう。
「あんまり機械になりすぎると人間性を失ってしまうから気をつけてね。自我が崩壊して暴れちゃうのよ」
「脳味噌が既に機械だからねえ。さあ、これで引っ張れる。行こう」
帰り道は歩けないから若干不安だったけど右手の超高速エタニディウス速射砲で木をなぎ倒しながら進んだ。音でモンスターが呼び出されてくるけど、全て速射砲で潰してしまった。強い……。
「少し超高速エタニディウス速射砲が進化したかもしれない」
「なんだっけ、自己進化型永久機関もちなんだっけ。永久機関以外も進化するなら凄いわね!」
そんなこんなで森を脱出し、ピックアップトラックの元へ。弾薬が使われた形跡と赤い緑いそして青い液体が散乱していたけど問題なし。
「よし、ピックアップトラックになんとか荷物が乗った。これだけかき集めれば数千万になるかも。フルサイズピックアップトラック高かったけど載せられる重量も増えたしちょうど良い!」
「こいつで希ちゃんの体を買い戻さないとね」
「――そ、そうだったわね。全部涼くんに注ぎ込むのはやめておくか」
「僕もお金かかりそうだけどね。まずは希ちゃんの体が最優先だよ」
荒れた荒野をピックアップトラックがのろのろ走る。それくらい重い物を運んでいるのだ。
「買い取り屋に無線で連絡したから、合流すれば軽くなるわ」
「荒野にはニューロネットじゃ無くて無線が似合う、か」
「単純にネットワークが走ってないのよ。あれは町中とか工場とか、人間とか、そういうところだけ」
そっかー。
二日ほど走って買い取り屋と合流。すんごい重武装しているトレーラーだった。後ろのアキバコみたいなばら積み貨物倉に放り込むんだろうな。
僕はピックアップトラックの荷台でお留守番。車の中には履帯じゃ乗れないし。会話術は得意じゃ無い。時折買い取り屋さんにニコって笑いかけるだけ。僕にビビってるようだけど。まあ、足が履帯でスキンが無いサイバーボディの人間だもんね。
一時間くらい話し合った所で商談が決まったようだ。僕にびびりながら買い取り屋がクレーンでトレーラーの貨物倉に戦利品を積み込んでいく。
「二五〇〇万円にもなったわよ! 履帯は外せば五〇〇万で買い取ってくれるって! 街へ行ったら交換しましょう」
「僕結構気に入ってるけどね、この履帯。さすがセキュリティのボスに使われるだけあるよ」
「やめてよ、機械じゃ無いんだから」
そんなわけで二五〇〇万をニューラルネットの希ちゃん口座に送金してもらい商談はおしまい。戦力集中のために二台で街まで戻る。
モンスターは出たけど、名前がつくようなモンスターでもないので重機関銃で処分して何も取らずに去って行った。
「いやー戻ってきた!ウツノミヤへ戻ってきたわぁ! まずはお酒――じゃなくてサイバネドクへ連れていくわね。背中に足を運ぶ履帯で走るスキンなし男って怖すぎるわ」
街のみんなが僕を避けていく中サイバネドクのクリニックへ。クリニックはスラムや下級階層がある所にもいるんだけどやはり材料が良くないみたい。ドクの質もバラバラ。だから中級階層のところまでいって頼んでいるそうだ。サイバネ病院はアッパーミドルから上級階層が使う物っぽい。
「ここを曲がってここをまっすぐ行ってー。そして、ここの地下にいるわ。手術台もセット。さ、行きましょう」
「ちょっと緊張するな、凄い体だし」
「正直私めっちゃ緊張して歩いてきたんだよね。多分涼くんより。めっちゃ。めっちゃよ」
緩い階段を履帯で降りていく。以外と履帯って急勾配でも上り下りできるんだよね。ここは緩いので楽勝。がらがらとクリニックの受付ロビーを開けると、結構人が座っていた。人気なんだろう。
希ちゃんが受付をすまし、僕たちは隅っこの方で座る。僕の履帯の上で希ちゃんが座る。
「まあ、場所の節約にはなるか」
「ボスが使っていた大きな履帯だからね。ねえ、そういえばあれがまだよ」
「あれ? って?」
「ちゅー。作戦が成功したんだからちゅーしてよ。むちゅぅ」
「まってまって、ここでそれはさすがに」
「嫌。スキンなしでチューする機会はここでしか訪れないわ。ぶちゅー」
無理矢理キスをさせられる僕。
しょうがない、しっかりとキスをするか。
ディープキスを丁寧に施していく、しっかりと舌を絡めながら。周りの視線なんて無視するように。
数分で希ちゃんの方からキスをやめた。
「満足かい?」
「情熱が足りない……」
「いや、ここでそれはちょっと」
「そうじゃなくて。なにかが足りないのよ。涼くんの一番は?」
「正田愛理」
「でも私ともディープキスするでしょう? 浮気じゃない?」
「そう……かな。でも一番は正田愛理だし」
「メカニックとして何か引っかかるな。――あ、順番来たみたいよ」
「その前に体内から出てきた銃弾拾おうね。唾液に入っていたエタニディウスが銃弾を排出してくれたみたいだ。こんなに銃弾が入っていたなら凄く痛かったでしょう?」
「……極秘に取り除こうと思ってたんだけどなあ。まあ頑張ったでしょうと言うことで」
「生きていてくれて良かったよ」
そうしてドクの元へ。ドクは腕に顔にヘコんだ線が走っていて自分をサイバネボディに換装していることを強調しているがうかがえる。まず改造するなら自分からってことかな。
「やっほーニーナ、ニーナ・ヴェルヴェスカ。元気だった?」
「ぼちぼちね。新型のサイバーレッグが出たからそれで少しは。それで今日は何の用?」
ニーナ・ヴェルヴェスカさんは赤い髪の毛でスリムな体型をしている女性だ。そばかすが印象的だな。名前からして日本人ではないだろう。外国人排他主義が蔓延しているこの宇都宮でよくやっているんじゃないか?
希ちゃんは僕を披露するように見せながら、
「この相棒を改造しようと思って!」
ニーナさんはちょっと怖い目つきになって、
「これがあなたのお気に入りね。足は履帯、スキンもないじゃない。処分しちゃえば。私が希を雇ってあげるわよ。いろんな意味でね」
「それには及ばないわ。前にも言ったけど戦前の子なの。レッグは履帯だけどノーマルレッグも持って来ているわ。換装とスキンの装着をお願い。スキンは中レベル合成スキンで良いわ。声帯はデータを持ってるから、特注して」
「ずいぶんお金かけるわね」
希はにっこにこの顔になって、
「相棒と一緒に数千万円稼いじゃったので大丈夫! ね、頼りになるのよこの相棒」
「ふんっ、それは良かったわね。いくらお金が取れる相棒でも希は渡さないから」
「僕も渡しませんよ」
キラッキラの目をして僕を見つめる希ちゃん。相棒として渡さないのがそんなに嬉しいのかな。いや、以前言っていたよな、相棒がいるって素晴らしいって。そういうことなんだろう。
とりあえずすぐに履帯は交換して貰えた。
後はお楽しみのサイバーボディのパーツ換装、サイバネ交換だ!
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