修復
シャッターは資材を運ぶための設備に付属していたようだ。これは運が良い。大体そういうところのニューロリンクはメイン電源と連結している。しかも太く。
セキュリティを無効化しながら内部へ進み、警備室へと進んだ。
「ここならセキュリティを一括管理していそうだね。『入ってみるか』」
そうしてハックする。かなり強固なニューロリンクだったが、セキュリティを切ることに成功する。
「ここからもサブ電源には介入できたんだけど、メイン電源には入れなかった。多分独立しているのかも」
「ここはカメラが多く配置されてるわね。ここから亜空間接続出来ないの?」
「いろんなリンクがあるかもしれないね、やってみよう」
希ちゃんの提言は当たった。セキュリティロボットの中には単独で動いているものもいて、セキュリティの一斉解除から逃れているのもいた。一体一体処理していく。
また、pingも打っておいた。リンクの経路や、繋がっている機械が表示されていく。
この状態だと亜空間接続でなくても機械に直接移動できるので遠距離行動するのに都合が良い。
主にカメラに移動してセキュリティを切っていった。
「これで移動先とそこまでの安全を確保したよ。pingで反応が無かった所が独立している場所、メイン電源だろう。工場のメイン可動部はpingに連動していて、生きているっぽいからメイン電源を入れて中央司令所でコンソール叩けば大丈夫だと思う」
「さっすが涼ちゃんだね。私には何やっているかさっぱりわからなかったし何言ってるかさっぱりわからない」
ある程度見取り図も脳内で作成できたので、それを元にメイン電源へ移動する。途中のセキュリティはちゃんと切れてるし、ドアも動く。ライトもちゃんとついてる。我ながら完璧な行動だ。
特殊なセキュリティがあるドアを何カ所か突破すると、メイン電源がある場所に着いた。
「さて、どうやって動かせば良いのか」
「え、わからないの?」
「スイッチオン、で動くシロモノじゃ無いからね、工場の電源は」
まず全景を確認する。巨大なジェネレータが三機並んでいる。これを動かせばいいんだけど。
メイン電源の司令所へ行ってマニュアルか何か無いか調べる。手順書は無いけどメイン電源の詳細を知ることが出来た。これは巨大な永久機関だ。EF‐G型というらしい。サブ電源は資料が無いけど、おそらく軽く動く永久機関だと思う。永久機関を扱う施設で火力発電とかはさすがに考えにくい。
永久機関と言うことは、微少ながら動いているはず。永久機関は止まらないから。回転数を上げれば起動というか、安定稼働状態に復帰するはず。サブ電源は動いてるから、その動力を伝えれば良いんじゃ無いのかな。サブ電源との連結を切って放棄したのかもしれない。それをつなぎ直せば良いんじゃ無いのか?
「希ちゃん、希ちゃんの出番が出てきたかもしれないよ。サブ電源の動力をメイン電源につなぎたいんだけど」
「配線をつなぎ直すってこと? 回路を復旧させるってこと? とにかく物理なら私に任せて!」
メイン側からpingを打って不自然に繋がりが切れている部分を見つける。
僕たちはそこに移動した。むき出しの配線がそこにはあった。
「これはかなり太い電線をぶった切ってるわね。周辺の回路とかは無事かな。補修室に一度行って材料を持ってきましょう。そのあとサブ電源を一度切れるかしら。動いてる電源を触ったら丸焦げになっちゃう」
補修室への道のりを教えて希ちゃんが向かう。僕を背負っているとさすがに荷物を持てない。
一時間くらいでごっそりと資材を持ってきた希ちゃんが帰ってきた。
「じゃあ、やるわよ。サブ電源を切って」
言われたとおりにサブ電源を落とす。ライトも切れてしまったので作業できないのでは? とおもったけど、目にライトを仕込んでいるので問題ないようだ。工学系には無類の強さを誇るね。
今回はハンドツールの他に大型工具セットを持ち込んでいる希ちゃん。テキパキと接続していく。
「電源だから太く補修しないとだめね。今回は金属結合用のバーナー持ち込んで良かったわ。涼くんのバーナーは金属を焼き切るために使うようなシロモノだから。丁寧な仕事には専用のバーナーが必要よ。アタッチメントとして、現場で交換できるサイバーアームの大型工具ツール買おうかしら。太ももやふくらはぎに皮下ポケット作って」
「それも良いけど、希ちゃんの太ももは凄く綺麗だからそれが無くなっちゃうのは寂しいな」
「ちょちょちょ、な、な、何言ってるのよっ。こんなときに。もー恥ずかしい。もー、やだー、きゃーどうしましょう」
すんんんんんんんごく恥ずかしがりながらも作業を進める希ちゃん。
「作業をする希ちゃんは綺麗だね」
「私を心臓発作で殺す気!?」
幸い心臓発作で死ななかったので、二時間ほどで補修が終わった。Pingを打って導線が通ったか確認する。まだ通りきってないかな。
「次に行こう。もうちょっとだけ回線が切れているみたいだ」
「一度補修室へ戻るわ。資材が足りないしバーナー燃料を補充したい」
「僕の液体から作った燃料じゃ駄目なの?」
「多分火力が高すぎると思うの。いつももらってるチェーンソーの燃料じゃあ駄目だしね。バーナーに適した配合の燃料を作るなんて、今すぐには出来ないでしょう?」
補修質から資材を取ってきた後、一度試運転も兼ねてサブ電源を起動する。接続した部分は見事に電気が走った。これなら大丈夫そうだ。
もう一カ所の部分も補修して切れている配線は修復完了。メイン電源の司令室へと戻る。
「サブ電源との接続が完了しているって出てるね。起動ボタンが点灯している。動かせそうだ」
「文字が古すぎてさっぱり読めないんだよね。まあお願いするわ」
起動スイッチを押す。
ぐおんぐおんぐおーん
だんだんとジェネレーターの稼働する音が大きくなる。
一機が動いたらその力で二機目、三機目とジェネレータが稼働する。
「よし、動いた! 出力が安定したら中央司令部で作業して、現場でボディを注文すれば良いんじゃ無いかな。見取り図がダウンロードできたから道はわかるよ」
そして中央司令部へ。セキュリティを完全に切って安全を確実にする。材料などの搬入を指示したら修理工場の稼働を完全な物にする。動力だけではなく施設が動き始めた。ああ、材料は一つの修理部門に集約させておこう、足りるかわからない。
その修理部門へ行く。手術室みたいなところで、手順書があった。
「まずは患者をスキャンして状態を確認。その後どのような形にするか指定。その後手術室へ行って修理の開始、みたい。四本脚とかにもなれるみたいだよ」
「ならなくて良いわよ? 普通の人間はどんなタイプがあるの?」
「とりあえずスキャンしてみないとわからないな」
そういうことでスキャンをする。レントゲンにCT、MRIを取られたような感じだった。手術に近いなあ。
「えーと、今できるのは機械化人間だけだね。サイバネボディだ。身体がエタニディウスで構成されている永久機関ボディにするには材料がたらないみたい。さすがに材料を持ち運ぶのは無理があるだろうなあ」
「じゃあ、涼くんは永久機関のボディからサイバネボディになっちゃうの?」
「スキャンしてみないとわからないけど、そうなるかな。でも脳味噌と心臓に当たる永久機関はここの施設で用意してあるヤツより高性能みたいだから変わらないよ。これらが変わらなければ実質問題ないんじゃ無い?」
希ちゃんの不安をよそに、手術室へと入っていく。寝台に寝た後は永久機関の出力がかなり落とされて眠りについた。
大分時間が経ったころに起きた。脳内時計で一六時間ちょっとか。身体に凄い違和感を感じる。手術は無事に終わったのだろうか。
ゆっくりと手を動かす。サーボモータの音と人工筋肉の収縮する感覚。これがサイバネボディか。目の焦点が腕に合う。ありゃ、スキン、つまり人工の皮膚がない。そこまでは用意しないのか、材料が無かったのか。こりゃ全身むき出しの人間かな。
右腕の超高速エタニディウス速射砲を出してみる。無事に展開できた。エタニディスフィラメントワイヤーも大丈夫。左手のセイバーも放射できた。武器は無事に移植できたようだ。
ゆっくりと起き上がる。ふらつくかと思ったけどそこそこ能力があるようで綺麗に立つことが出来た。脊髄が交換されているのも相まって体を動かす感覚が新鮮だ。しかし、サイバネボディって人を凌駕しているんだな。僕の場合脳味噌がハイブリット型バイオコンピュータだからサイボーグかもしれないね。
手術室から出ると、希ちゃんの姿が無い。さすがに時間がかかったから外で寝てるかな。修理室を出て隣の広場へと移動する。
そこには血まみれの希ちゃんの姿があった。どういうことだ。
「希ちゃん!?」
僕は希ちゃんに駆け寄る。オレンジ色の綺麗な髪の毛が赤くなっていて、装甲服には複数の穴があって、そこから鮮血が流れ出ている。
「ああ、直ったんだ。よかった」
「よくないよ! なにがあった!?」
「なんか、独立したセキュリティロボットが巡回してきて、社員証が無いから襲われちゃって。ほら、あれ。電磁サブマシンガンが効かないくらい堅かったけど、なんとか倒したんだ、褒めて」
生気の無い顔で微笑む希ちゃん。
「倒したって、ボロボロじゃ無いか」
「めっちゃ撃ってきて。装甲服貫通してきて。ちょっと、血が足りないみたい」
頭の中が希ちゃんを助けたいという思いで一杯になる。
助けたい助けたい助けたい助けないと。
頭の中がクリアになる。
俺の重要なパートナーだ。希を死なせるわけにはいかない。
エタニディウスを流し込んで医療用ナノマシンに転換すれば助かるかもしれない、いや、助かる。エタニディウスは非常に強力なんだ。
しかしどうすれば流し込める? 今の俺はサイバネボディ。流し込むための道具が無い。以前なら腕から液体を放出できたんだが。
どこに液体がある。どこに。
あそこだ。
「希、ごめん!」
そういうと俺は希に勢いよく口づけをした。
びっくりして体が縮こまる希。それでも口づけは受け入れてくれる。
ゆっくりとなめらかに舌を絡ませる。
唾液は永久機関が作り出して流しているはずだ。これを流し込み続ければ。
永久機関の出力を最大にする。
「希、絶対助けるからな」
「涼介、愛してるわ」
「お前が一番だ」
俺たちの口づけはしっとりとでも情熱的に、数十分続いた。
「最後の方は永久機関が対応してジュースを流し込んでる感じだったな。希、もう大丈夫か?」
「うん、銃弾は体内に残っちゃってるけど多分死なない」
よかった。助かる。
安堵したのか頭の中が少しぼんやりする。
「希ちゃんを助けられて僕も嬉しいよ」
「……希ちゃんなの? 俺って言わないの?」
「希ちゃんをちゃん付けで言わないことは殆ど無いと思うけど。あと僕は僕だね、俺は言わないと思うよ?」
「お前が一番だ、は?」
「言ったっけ? 必死で覚えてないかも。一番は正田愛理だし」
「ふぅーん。ふぅぅーん。ショウダアイリか。……まあ、とりあえずは良いか。――あの言葉は嘘じゃない」
「うーん?」
「なんでもないっ。助けてくれてありがとう」
まあ、よかった。
希ちゃんが言うには、「これは今の規格に互換性がある。サイバー技術は今の方が発展しているからパーツ交換して強くなっていこう!」とのことだ。僕にもついに規格が合う時代が来たか。
「まずはスキンからね。オーガニックスキンは高いから合成スキンで覆う所から始めましょう。私が通っているサイバードクに頼んで作ってもらいましょ」
「お金稼がないとね」
「――機械音声じゃ話にならないから声帯も作ってもらおうね」
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