なりふり構わない

 どうやら僕たちはカラーギャングの抗争に巻き込まれたらしい。

 武器輸送の依頼が毎日のようにやってくる。基本的に安全な行為なんだけど、時たま銃撃戦に巻き込まれることもある。まあ、カラーギャング程度の練度じゃ僕たちの相手にはならないけど。

 依頼が来るのは良いんだけど、カラーギャングの依頼だから単価が安い。早々に抗争から抜け出す方が良いだろうね。


「すぐ抜け出せるならとっくにしてるのよね」

「ギャングの縄張りを自由に歩くためには支援は必要、ってことだよね」

「そう。邪魔なだけなら良いけど邪魔されたくないから」


 というわけでせっせと運ぶ僕たち。相手も補給網を確立したようで、なかなか決着がつかない。泥沼の様相を呈してきた。


「ウツノミヤのチュウゴクガイを支配するかどうかの争いだからどっちも引かないね」

「カラーギャングの支援団体もいるようね。企業もヤクザ――こちらこそ本物の、本物のギャングだ――も絡んでるかも。お金はそこそこ貯まるんだけどなー」


 まあ商売は商売。せっせと物を運ぶ僕たち。ただ、双方ともに輸送網を狙い始めるようになってきた。僕たちも何回か狙われた。余裕で撃退はしたんだけど。

 最前線に物を送るのは僕たちとあと二つの運び屋くらい。中でもウチは一度に運ぶ量が多いし防弾仕様でそうそう簡単には壊れないからねえ。アサルトライフルの弾は刺さるけど、タイヤやエンジンなどの重要部分はそれも弾いちゃう。


 そんな中だった。いつものように装備を運んでいた時。敵の急襲を受けた。これはまあよくあることだったんだけど――


「敵の武器が強い、僕たちを狙って襲ってきたかも」

「まあ、倒せば良いんじゃないの?」

「防具も強いの着込んでるかもしれない。軍隊用とかの。車をカバーに使うのはやめた方が良い。ビルに隠れよう」


 そう言ってビルへ引いた瞬間だった。

 車が、ピックアップトラックが爆破炎上したのだ。


「え、私の車が!?」


 駆けだしていこうとする希ちゃんを引き留める。


「ロケットランチャーだよ! 明らかに精鋭だ、逃げるのが先だよ!」

「でも、私の車が!」


 押し問答をしている内に精鋭達がビルの間を射撃し始める。

 僕が壁となってビルからビルへ逃げていく。

 逃げていって、精鋭達に先回りされた。


「応戦しないと。希ちゃんはその隙間に隠れていて。目線さえ通ればリューロリンクをハックして脳までハック、相手の脳味噌焼いたり混乱させたり出来るから」

「うん……」


 そして僕のリューロ無双が始まる。ニューロリンク接続用サイバーデッキをあらかじめ封じていなければ亜空間接続でハックして、シナプスを焼いたり回路をショートさせて殺すのは簡単だ。カメラ映像をハックして、そこで目線が通ればカメラ経由で亜空間接続も出来るのだ。

 精鋭といえどもこの手段に対抗するすべはなく次々と倒れていった。


 しかし倒れない人物が一人。鎧兜を着込んで刀一本持つ男。サイバーデッキにニューロリンクがなくてニューロハックが出来ない。ニューロリンク用じゃなくて全然違うサイバーデッキかもしれないな。

 鎧兜の防御力は高く僕のパルスアサルトライフルでは効果が出ない。


「くっそ、どうすれば良い?」


 カバーする場所を変えた瞬間だった。

 鎧武者が一瞬で近づいてきて、横薙ぎで僕を一刀両断したのだ。

 このとき右腕の超高速エタニディウス速射砲を思い出せば良かった。そうすれば一撃だったのに。


「くそ、瞬間的な移動ってことは、デッ……キは……カラ……ノブ……コ……フ」

 ずるりと下にずれていく視線。ドサリと音がして僕の体の上に脚が乗る。叫ぶ希ちゃん。

 他のサイバー行動が何もできなくなる代わりに、人の目には見えないくらい爆発的な瞬発力を得るサイバーデッキ「カラノブコフ」。こんなものがカラーギャングの精鋭部隊に配備しているなんて思いもしなかった。もしかしたら違う組織を雇ったのか?


 できる限り思考しながら僕の意識はこ薄れていった。




「ごめんね、ごめんね。私が無力だったばかりに」

「好きな人、愛しい人、サカキリョウスケ。ごめんね」


 目が覚める。どうやら僕は希ちゃんの膝の上で寝ていたらしい。


「……あぁ。うーん」


 目の前がクラクラする。


「喋った!? 涼介! 涼介! 生きてるの!?」

「ああ、うん。生きてるみたい。腰下からぶった切られてるのか……永久機関が動いていたから血を作り続けていたのかな。いや、永久機関持ってるロボットって面もあるのかな……」


 希ちゃんの叫びを耳にしつつ現状把握を優先する僕。永久機関は生きてるし血も止まっているようだ。動けないけど生きてる。


「生きてる……!! 生きてる!! よかった、本当に――。鎧武者は私が殺したよ。私を戦利品にしようと抱きかかえられた所を、左胸の皮下ポケットに隠しておいた電磁拳銃のフルチャージで顎から一気に打ち抜いた」

「さすが希ちゃん。今の胸は柔らかいってことだね」


 軽くジョークを飛ばす。


「えへへ。揉む? 最高に気持ち良いよ」

「まずはこの戦場を離脱してからかな」

「否定しなかったってことは揉むってことだからね」


 希ちゃんは強化骨格だから僕を持ち上げることくらいなんてことない。

 そうして僕を背負うと銃声の聞こえない方に脱出するのであった。


「涼介、いや涼くん」

「ん、なぁに」

「私、もうなりふり構わないから」

「うん、わかった」

「わかってないなあ……」

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