銃撃戦
ぼんやりと埃が舞っている空を見上げる。
軌道上には正田愛理がコールドスリープされているという。忠菱のデータセンターに遊びで『入った』時に掴んだ証拠だ、おそらく間違いない。
「あの空に愛理が……」
ひょいっと、希ちゃんが顔を出し、僕の顔を上から見つめる。
「なーに空見つめてんのよ」
「ん、いやね」
「アイダショウリさんだっけ、その子のことでも思ってたの?」
「正田愛理。世界的アイドル。僕はそのボディーガードで、一応付き合ってたからねえ。軌道上で眠ってるなら会いたいよ。別に相性が合わなくて分かれたわけでもないし」
希ちゃんはジト目で喋る。
「ふーん。憧れの女の子ってわけね。ここにかわいい女の子が現実にいるってのに」
「まあ、希ちゃんはかわいいけどさあ。それはそれというか」
「ば、馬鹿言ってるんじゃないわよっ。もうっ、知らないっ」
顔を真っ赤にさせて僕のコンテナハウスから出て行く希ちゃん。怒らせちゃったかな?
愛理がいるという高軌道へ行くには、起動航空機に乗って周回軌道上のコロニー国家の許可を得て高軌道へ行き、施設へドッキングしなければならない。何もかもが難しい。先に僕の方が眠っているし、忠菱のデータからでは何歳で寝たのかはわからなかった。仮に三〇歳の正田愛理を見て、僕は正気でいられるだろうか。僕は一七歳の正田愛理しか知らない。
僕は正田愛理のことは一度忘れて、運び屋の仕事に没頭するのであった。
今日の運びはちょっと危険らしい。前金なしで武器の輸送を頼まれてる。何でこんなの引き受けたのか。相手がカラーギャングだから襲われても余裕らしいから、だそうだ。
「希ちゃんって上半身がラフだよね」
「私も上半身は皮下装甲持ちじゃん。ギャングが使うようなアサルトライフルなら貫通しないのよね。下半身は作業服兼装甲ズボンだし」
「だからって上半身がラフな衣装で良いとは思わないけど……肌綺麗なんだからさ」
「え、ちょ、ばかぁ。照れるじゃない、本当に。いや、実際肌は自信があるんだけどね。ほら、触ってみる?」
そういって希ちゃんはおっぱい付近をぐいっと寄せる。
「触らない触らない。せめてタンクトップじゃなくて作業服くらい着なよ。肌が焼けちゃうよ」
「……はいはい、そうですね。そうですよ」
ぶーたれた顔の希ちゃんはタンクトップを脱ぎ捨て、下着姿で車の整備をするのであった。逆ぅ!
「さて、今日の運びはギャングからギャングへの武器輸送よ。リスクの割にはそんなに儲からないけど、ギャングの親玉――つまりはヤクザ――に顔が売れるわ。だからやるの。涼介は防弾チョッキ込みでしっかりと武装しておいてね、箔を付けないといけない」
「わかった。武装する時の衣服でいくよ」
「ま、リスクはあるけど銃撃戦にはならないでしょう。いこっか」
ピックアップトラックのV八‐三.五リッターのエンジンが咆哮するがごとく唸りを上げる。
今回は昼間に渡す手はずになっている。日差しが黒い塗装を照らす。もうそろそろ夏だな。
指定された場所へ着く。糞みたいなビルの間に二人で待つ。「路上裏でやってるカップルみたいね」と希ちゃんが言うが無視する。そんな状況じゃないでしょうに。
やがていかにも悪事をやっていますという体のギャングどもが群れをなしてやってくる。五人か。
「待たせたな。ブツを運ぶ車はどれだ?」
「そこに止めてあるピックアップトラックだ。全周囲防弾仕様になってる」
「遠隔操作の機関銃もついてるわよ」
とっさにニューロリンクして機関銃を動かす。相手は無線で行ったと思っているだろう。
「運ぶには上出来だな。早速武器を荷台において良いか」
「いいけど、並べ方は私に従って。グレネードのピンが外れて暴発する時もあるんだから」
「ボス、女にやらせて良いんですかい?」
希ちゃんがギラリとにらむ。ギャングはそんなことお構いなしなようだ。
「運転は彼女の方が出来る。そして、こういう場でタンクトップしか着ていない意味がわかるよな?」
僕の一言にボスは唸る。
「強化皮膚繊維じゃあなくてアサルトライフルも止める皮下装甲ってことだな。防弾チョッキを着ている貴様より強いってわけだ。おまえら、運び込むのは丁寧にしっかりと従いながらやれよ」
運び込まれた武器は主に爆発物とサブマシンガン、その銃弾。ロケットランチャーもあった。大規模な抗争になりそうだな。
それじゃといってピックアップトラックを動かす。この仕事は渡すまではお金が支払われない。
次の場所、渡す所では既に乱戦が始まっていた!
「渡すのはどっちだよ!?」
「ピンク色のギャングだけど散らばっちゃって駄目だわ! 私たちも参加するわよ、ピンクを一応助ける!」
外に飛び出してグリーン色のギャングを狙い撃ちにする。
希ちゃんの電磁サブマシンガンは普通のアサルトライフルより高威力だ。しかも超スピードで出るために弾丸が小さくてすむから一発の弾丸に子弾が複数個詰め込まれていてなって散弾状に発射される。掃射するのにうってこいのシロモノだ。
希ちゃんはグリーン色のギャングに容赦なく銃弾を撃ち込んでいく。
僕の持っているパルスアサルトライフルは電磁武器でも既存のアサルトライフルの発射機構を電磁式にしたもので、古くさいがしっかりとした確実性を持っている。
ピンク色と乱戦になっているグリーン色に容赦なく銃弾を撃ち込む。誤射なんて考える必要はない。確実に当てるから。
勿論ピックアップトラックの機関銃も活躍させることを忘れてはいけない。
僕が激しく行動しながらニューロリンクして、同時に多方面掃射を行う。ハイブリッドバイオコンピュータで亜空間接続が出来る僕ならではの技だ。
僕たちが介入して数分で形成は一気にピンク色に傾いた。
グリーン色は士気をなくして逃走する者が出ている。
勝負あり、だね。
掃討が終わった後にピンクから感謝のチップをもらい、無事に武器を引き渡して仕事完了。希ちゃんの口座にお金が入った。
「ふう、お仕事完了っ。飲みに行きましょう」
「お疲れ様。グリーン色のギャングに喧嘩売っちゃったねえ」
「ボッコボコにしたから当分は復讐してこないわよ。後ろで操ってるヤクザもね。今回のお金は何に使おうかしらね」
「お任せします。僕が何言っても聞かないしね」
「まーね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます