EPISODE6 『冷たいけど、ハリがある』

 ボクはシカクからソレを受け取ろうとした。その瞬間、その温度にびっくりして慌ててソレから手を放してしまう。

 「冷たっ!」

 ショッカクがまだ手を離さないでいてくれたおかげで、ソレが落ちることは免れたけど……。

 「ごめん! シカク」

 「大丈夫です。ちょっとだけヒヤッとしましたけど、落ちませんでしたし。ボクの方こそすみません、温度がそんなに冷たいと分からなくて……」

 「いや、ボクも警戒しなかったから。ごめん、ごめん」

 そしてシカクにそのままこのソレを持っていてくれるように頼む。

 「悪いんだけどさ、ちょっとこのソレ、ボクが持つには冷たすぎるから、シカクが持ったままで触らせてくれない?」

 「確かに、その方が良いですね」


 そうしてシカクがソレを持った腕をこちらに伸ばしてくれる。今度は少し警戒して、それを触ってみる。

 「うん、めちゃくちゃ冷たいね、このソレ。キュウカクの吹雪の匂い、っていう意味も少しわかるかも。まるで、氷の塊みたいだ」

 「じゃあ、氷みたいに固いんですか?」

 シカクがボクに聞いてきた。その問いにうまく返せなくて、もう一度ソレに触れて確かめる。

 「うーん……。固い、訳じゃない。かといって柔らかいモノじゃないんだよな……。突っ張っているというか……。あ、ハリがある、っていう感じ、かも」

 ぷにぷに、とはまた違った、でも弾力がそこそこあって、弾き返される感じ。たぶんこの表現で伝わると思うんだけど……。

 「でも、主張が強いと思ったのは冷たさの方だけ、かな。冷たさにはかなりびっくりしたけど、形的には楕円形で抱えやすそうだし。まぁ、ソレにはあるよね、ってレベルだと思う」


 「アノコに渡しに行こうか」

 ボクは他のみんなに声をかける。みんなもボクの言葉に頷いた。五人揃ってシカクの家から出てアノコの家の方へと歩き出す。


 「それにしても、このソレ、どんなんなんだろうな。聴こえるのはすごく小さい、鈴の音だろ」

 歩きながらチョウカクが言う。その言葉にミカクが『ねー』と返す。

 「なのに、味はすごーくしょっぱくてさー」

 その言葉にチョウカクが続ける。

 「鼻が痛くなるくらいの、吹雪の匂いで」

 「見えるのは深い、ブルーグレーでした」

 「で、触るとめちゃくちゃ冷たくてハリがある」


 ここに落ちてくるソレには本当にいろんなものがあって、逆に言えば全く同じものは二つとないのだけれど。ソレの一つ一つを理解して、時が来るまで管理ができるのはアノコだけだから。


 みんなでアノコの家に向かっていると、その途中で丘の方へ歩いていくアノコの姿を見つけた。みんなもそれに気が付いて、キュウカクとミカクがアノコに声をかける。

 「アノコさーん!」

 「今日も落ちてきたソレ、持ってきたよー!」

 その声に気が付いたアノコがこちらを振り返った。

 「あ、みんなー! ありがとうー!」

 アノコから少し離れた位置、アノコの後を追うように歩くフゥロの姿もそこにはあった。

 「あぁ、フゥロも一緒だったんだ」

 ボクがアノコにそう言うと『基本的にはずっと一緒に居るよ』と何でもない風にアノコは言った。その言葉に『え? そこまでするの?』と思ったけど、アノコの事だからきっと何か感じるものがあるんだろうと思って、黙っておいた。


 「はい、アノコ。今日のソレです」

 シカクがアノコにソレを渡す。アノコはソレを何でもない風に受け取って、ボクらがどう感じたのかを聞いてきた。

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