EPISODE5 『とても深い、ブルーグレーです』

 「おや? チョウカクじゃないですか」

 「よう、シカク」

 家でいつものように本を読んでいると、家のチャイムが鳴りました。誰かと思って玄関を開ければ、珍しいことにチョウカクが一人、目の前に立っていて。よくよくチョウカクの手元を見ると、いつものソレを持っていたので合点が行きました。

 「あ、落ちてきたソレですか?」

 「あぁ、これさ、今ちょっと色々あって。先にミカクとキュウカクに渡したらな……?」

 そういってチョウカクはボクの元へ来る少し前、森へ行っていたという話しから始めました。


 「……なるほど」

 チョウカクの話を聞くとこうでした。森の中でチョウカクの元へ落ちてきたソレは、チョウカクにとっては『とても小さい鈴の音』――……主張がかなり小さいソレ。しかしそう伝えて渡したミカクにとっては『お塩の塊のしょっぱさ』、同じくキュウカクにとっては『鼻が痛くなる、吹雪の中の匂い』――……主張がかなり強いソレ。しかしソレにはいろいろな種類があるので、こういうことも珍しい事ではないのですが。


 「それにしてもそんなに主張に差があるんですね?」

 「それはオレも思った。まぁ、だからシカク、お前にも見てもらおうと思ってさ。ま、どうせこの後、ショッカクにも見てもらわないとだけどな」

 「そうですね。どちらにしろ、アノコに渡すときには必要なことですし」

 『ソレ、貸してください』とチョウカクに頼むと『おう』と言ってボクの腕へと渡してくれました。ソレを受け取って顔を近づけてジーっと見てみます。


 「……すごく寒そう、というか。冷たい色合いですね」

 「どういうことだ?」

 チョウカクが聞いてきます。

 「ソレの色、とても深いブルーグレーです」

 とてもきれいな色ではあるんですけどね、と慌てて付け足す。

 「キュウカクさんの『吹雪の匂い』を先に聞いているから、寒そう、とか、冷たそう、と思ったのかもしれません」

 「……なるほどな」


 「二人とも、お待たせー」

 チョウカクと二人話していると、遅れてミカクとキュウカク、そしてショッカクもやってきました。ミカクとキュウカクがボクの家に来る途中、『どうせ見せに行くことになるだろう』と予測してショッカクもつれてきた、との話でした。どうやら来る道中、チョウカク、ミカク、キュウカクがそれぞれ落ちてきたソレに対してどのように感じたかも話をしたようでした。


 「シカクさん、色的にはどう見えました?」

 キュウカクが訪ねてきたので、ボクは先ほどチョウカクに答えたのと同じように答えます。

 「とても深い、ブルーグレーです」

 「主張的に強い部類ー?」

 今度はミカクが訪ねてきます。

 「いえ、これくらいの色はソレには普通にある色ですね。主張が激しいのはもっとこう……ギラギラしていたり、金ぴかに光っていたりだと思います」

 「っていうことは、視覚的には主張は強くも弱くも無い、って感じかー……」


 「今回のソレ、そんだけ意見がきっぱり別れるんだな」

 ショッカクがみんなの意見を聞きながら言いました。そしてそのままボクの抱えているソレに手を伸ばし、『ボクにも貸して』と言いました。

 「はい、ショッカク。」

 ボクはショッカクに促されたように抱えていたソレを預けようとしました。

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