EPISODE7 『抱えきれなくなっちゃったのかな』

 ボクはみんなに落ちてきたソレのことについて、詳しく聞いた。ボクはみんなのようにソレについて詳しい情報は得られない。だけどボクが落ちてくるソレをちゃんと感じて見るようにするには、みんなの力がどうしても必要なんだ。


 チョウカクは『小さい鈴の音』

 ミカクは『塩の塊のようにしょっぱい』

 キュウカクは『鼻が痛くなるくらいの吹雪の匂い』

 シカクは『深いブルーグレー』

 ショッカクは『めちゃくちゃ冷たくてハリがある』


 五人の感じたことを聞いて、肩からふわり、と力を抜く。目を瞑って“キミはだぁれ?”と問いかける。すると情景と気持ち、言葉か少しずつソレから伝わり始める。


 ――ねぇ、一緒に居て……


 最初に聞こえた、小さくて寂しそうな声。だけど同時に忙しそうにする人の姿が見えて、覆いつくしたのは“我慢しなきゃ”の気持ちだった。


 あぁ、そうか。この声は。本当はずっと寂しくて、だけど、どうしても我慢をしないといけない状況で。だから抱えるのが辛くなっちゃんたんだね。


 「寂しかった、ね」

 そういってボクはソレをぎゅうっと抱きしめる。ボクには他にどうしてあげることも出来なくて。苦しくて落ちてきてしまったソレを、大切に肩掛けカバンの中にしまう。


 「きっと、一緒に居てほしい、って。寂しい、って、言えないんだ。そのまま寂しさをずっと我慢してたけど、どうしても耐えきれなくなっちゃったみたい」

 ボクはみんなに伝えた。



 チョウカクは『小さい鈴の音』

 ――本当は言いたかった、『一緒に居て』の声


 ミカクは『塩の塊のようにしょっぱい』

 ――誰にも言えず一人で泣いた涙が溜まっちゃったのかな


 キュウカクは『鼻が痛くなるくらいの吹雪の匂い』

 ――寂しくて、独りは寒くて


 シカクは『深いブルーグレー』

 ――寂しい、悲しい、でも我慢って複雑になって


 ショッカクは『めちゃくちゃ冷たくてハリがある』

 ――我慢して心を凍らせちゃったのかもしれない



 落ちてくるソレの中には、他にもいろいろな形の寂しさがある。どれも共通するのは、寂しさに耐えきれなくなると、みんな辛くて見ないふりをすることだと思う。だからきっとここに落ちてきてしまうんだ。


 「でも、いつか。キミにお迎えが来るといいね」

 ボクは一人、ソレに向かって呟いた。このソレの落とし主がいつの日か、この寂しさにもう一度自分から手を伸ばして、ちゃんと向き合える日が来るまで。これはボクが大事にしまっておく。


 「……この間みたいに、バズーカで打ち上げないの?」

 フゥロが聞いてきた。そっか、フゥロはあれしか見たことが無いのか。

 「あのバズーカがむしろ例外なんだ。ここに落ちてくるソレは、基本的に時が来るまでボクの所で預かってあるんだよ」

 「……そうなんだ」


 そんな会話をしていると、目の前のフゥロの胸の辺りから前にフゥロの中に消えていった、不思議な何も感じられないソレ、が出てきた。一度フゥロの頭上をクルクルと回って、ゆっくりとフゥロの腕の位置まで降りてくる。フゥロはソレを優しく腕に抱えた。


 「フゥロのソレも、きっとなにか、あるはずだからね」

 ボクはみんなが見えなくて困っていたソレに向かって話しかける。この間シカクが『少しだけ靄がかかったように見えます!』って言ってたし、これからも進展はあるはずだ。



 そう思っていたら、フゥロの透明なソレがショッカクの腕に体当たりをかましていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る