EPISODE3 『しょっぱーい!!』
――ザリッ
口に入れた途端広がった嫌な食感。続いて口いっぱいに広がる味の強さに、ボクは思わず叫んでしまった。
「しょっぱーい!!」
目の前のチョウカクの眉間にしわが寄るのが見えたけど、ボクはもう、申し訳ないけどそれどころじゃなくて。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
口の中が痛く感じるくらい、思いっきりお塩の塊を口の中に入れた気分。チョウカクから聞いた鈴の音のイメージとはだいぶかけ離れている気がするー!!
「……落ち着いたか?」
「うぅ……。ごめんね、チョウカクー……。」
口の中が大パニックになった僕を見て、チョウカクはボクの手を引いて近くの小川まで連れて行ってくれた。ボクはリュックに入れておいた小さなカップに小川の水を汲むと、勢いよく口の中をゆすいでいく。しょっぱいのはなかなか取れてくれなかったけど、しばらくたってようやく何とか落ち着いた。
「それにしてもこのソレ、しょっぱすぎるよー……」
落ち着いたとはいえ、まだ口の中がひりひりする。口直しをしようにも、これはきっと他の味が消えちゃうレベルだと思って、ボクはそのまま耐えることにした。
「そんなに主張、激しかったか?」
チョウカクが不思議そうに聞いてくる。
「主張も何も! びっくりしたよ、ほんとにー! こんなにしょっぱいの、お塩の塊と同じくらいだと思うよー……」
「……あんなに静かな音、だったのにな」
チョウカクがまた不思議そうに呟いた。そうだ、チョウカクの説明では『小さな鈴の音』って話だった。
「そんなに静かな音だったの?」
今度は逆に、ボクがチョウカクに聞いてみる。
「あぁ。だいぶ良く聞いてみないと、聞き逃すんじゃないかってくらいだった」
「それであんなにしょっぱいって、何があったんだろう……」
「あれ、チョウカクさんとミカクさん」
後ろから名前を呼ばれて振り返ると、そこにはキュウカクがいた。
「珍しいですね、お二人そろって森にいるの」
「たまたまオレが散歩してたら、ミカクに会ったんだ」
「ボクもねー、たまたま美味しいモノ探ししてたんだー。キュウカクこそ、どうしたの?」
「生活用水が足りなくなって。水を汲みに来たんです」
「あ、そういうことー!」
言われてみれば、キュウカクの手にはそれなりの大きさの水を汲めるタンクがあった。
「あれ、キュウカクの家って水道引いてなかったか?」
チョウカクがふと思い出したようにキュウカクに聞いた。
「引いてますよー。ただ、水道水の香りが、少しキツイときがあるんです……。そういう時はこの小川の水が一番ボクにあっているのか、優しくていい感じなんですよ」
「……ちょっとわかるかもー。ボクも水道引いてるけど、味が『ヴェッ』って感じるときがあるから、そういう時はここのお水が一番いいよねー」
「音だけじゃなく、この川、そういう面でも優しいのか……」
「あ、そうだキュウカク。ちょっとついでにこれ、どんな匂いか嗅いでみてくんね?」
チョウカクが手に持っていたソレをキュウカクに渡す。キュウカクは一度手に持っていた水のタンクを地面においてソレを受け取った。
「あれ? 珍しく最初にお二人の所に落ちてきたんですか?」
「正確にはオレのとこ。で、すぐにミカクに合って味見てもらったんだけどさ……」
「なるほど。主張が強くない『小さな鈴の音』と主張しかない『しょっぱさ』ですか……。確かにちょっと気になりますね、ボクの場合、どっちかな……」
そう言ってキュウカクはチョウカクから受け取ったソレに鼻を近づけた。
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