EPISODE2 『すげぇ小さな音だな、鈴の音だと思う』

 ――ゴッ!!

 「痛っ!」

 鈍い音がしたと同時に頭に走る鈍痛。


 たまにはぼんやり、外でも散歩するかな、なんて思って外に出たのが間違いだったかもしれない。いつもみんなで行く丘を通って、小さな花がたくさん咲いている野原や、木漏れ日の優しい森を見て回っていたら、急に何かが落ちてきた。


 痛みが続く頭を抱えつつ、視界の端に転がった何かを捉えた。見ればいつも落ちてくるソレだったけど。


 「……に、しても痛ぇ……」

 独り言を呟きつつ、頭をさすりながらソレに近づく。今日は珍しくオレが最初にソレを見つけたらしい。ヘッドホンのスイッチを切るといつも怒涛に押し寄せる音の波に慣れるのに少し時間がかかるけど、今は運よく森の中にいて比較的音の波に襲われる感覚も楽な方だった。


 「……ふぅ」

 世界は音が溢れている。心地いい音だけなら良いのに、聞きたくない音も同時にたくさん溢れていて、いつの頃からか聞こえる音を調整するためにヘッドホンが無いときつくなっていた。だから今でも、ヘッドホンのスイッチを切るのは少し勇気がいる。でも落ちてくるソレの音をちゃんと聞くには、どうしてもヘッドホンは邪魔だから。


 落ちてきたソレを手に抱えてみる。微かに何かが聞こえて、よく聞こえるように耳元へとソレを近づけた。


 ――ちりりんっ

 小さく、小さく聞こえた音は……

 「……鈴の音?」

 よくよく耳をそばだてて聞こうとしないと、こんなに小さな音は聞き流してしまいそうなほどで。だけど弱々しいその音は、それでもちゃんとそこで確かに鳴っていて。


 「あれー? チョウカクー?」

 不意に後ろから聞こえた、語尾を伸ばす独特のしゃべり方。このしゃべり方をするのはオレらの中でもあいつだけだ。

 「おう、ミカク」


 ソレの味がわかるミカク。マイペースでのんびり屋。オレの性格とは正反対の位置に居ると思う。森でミカクと会うなんて、珍しい事は続くもんだな、なんて他人事のように思った。

 「珍しいな、ミカクが森にいるの」

 「そうかなー? でも、そうかもー。この時期はねー、この森、たくさん美味しいものがあるんだー。だからちょっと集めておこうかなーってさー」

 なるほど、そういうことか。確かにこの森は季節折々、様々な果物や木の実なんかがたくさん生る。ミカクの背中にはリュックを背負っているのが見えた。同時に、ミカクの家にある溢れんばかりの調味料や食べ物の一部はこの森から調達したものだったのか、と一人納得した。


 「あれ? チョウカクの持ってるのって、落ちてきたソレ?」

 オレの手元を見たミカクが聞いてくる。

 「あぁ。いきなりオレの頭にぶつかってきて、めっちゃ痛かったわ……」

 「……わーぉ。それは災難だったねー……。想像するだけで痛くなってきちゃったよー……」

 ミカクはそう言いながら眉間にしわを寄せて口をへの字にし、頭を手で押さえていた。その様子を見たオレは、思わずふははっ、と口から音が漏れてしまった。

 「なんでミカクが痛くなってるんだよ」

 「わかんないけどー。でも痛いじゃん、絶対ー」

 ミカクがそんなことを言うから、確かにあの時はめちゃくちゃ痛かったはずなのに、それがほんのちょっとだけ減った気がした。

 

 「ねー、ちなみにソレ、どんなだったー?」

 さすがはマイペース。頭を押さえた手はそのままだったけど、いつの間にか表情はいつも通りに戻っていたミカクが聞いてくる。

 「……すげぇ小さい。めちゃくちゃ小さい、鈴の音だった」

 「なるほどー? ボクも少し貰っていいー?」

 「あぁ、もちろん」

 抱えているそれから少しつまんで、ミカクに渡す。ミカクは両手でそれを受け取ると『いただきまぁす』と言って、口に入れた。

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