EPISODE1 『色にすらまだ届かない』

 この間、自分はこの世界に来て初めてアノコたちのやっていることを見た。みんながソレ、と呼んでいたものを小さなバズーカに詰め込んで、丘から空に向かって発射していた。昇っていくソレはいつしかどこかに消えていたけど、みんなが満足そうにしていたから、どうやらそれで良いらしい。


 そしてこの時自分は、何となくもう落ちてくるなよ、なんて思ったんだ。

 

 果たしてそれが原因なのか。自分にはわからないけど、自分の中に出たり入ったりしているソレがその時また出てきたかと思ったら、自分のソレを見たシカクが『フゥロ!なんか、前よりもそれ、ちょこっとだけ透明じゃなくなった感じがします!』って叫んだ。他のみんなは『そうかな……?』と頭を捻るだけだったけど。


 ここのみんなにソレ、と呼ばれるものは本来、どうやら自分の中に消えていった何にも感じられない“無”とは違って様々な感覚を伴うらしい。みんな鋭く感じとれる感覚が違うようで、ソレに対しての反応も様々だ。


 シカクはソレの色が見えるようで、この間のソレのことは『コーラルピンクとレモンイエロー』だと言っていた。そんなシカクが言うなら、自分のソレは“透明”から少し変わったようではあったけど。


 だけど、自分のソレは色がある、と呼ぶにはほど遠いようで。


 だけどその時アノコが言った『やっぱり、僕らとしばらく一緒に居たら、何かわかるかもしれないね』の言葉に、アノコが言うならきっとそうなんだろうな、とその時はなんとなく思った。



 でも。


 だから、なんだっていうんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る