No.3
『メッセージを再生します』
——ん、ここは? ワタクシは一体……な、優!? ちょっと、しっかりしてくださいまし、優……!
……冷たい。嘘、嘘ですわよね? そんな、どうして?
行方不明の優が、どうしてこんなところに……ということは、まさか。
ワタクシも、ですの? ワタクシも誘拐されて、いずれ凍え死んで……嫌っ、そんなの嫌ですわ!
なんとかして脱出を……痛っ! う、嘘……足が、地面にくっついて動けない! そんな、どうしましょう……。
——ガチャリ
だっ、誰!? いや、聞かなくてもわかりますわ。……あなたね? 優を、ワタクシをさらったのは。
一体どういうおつもり? なんの目的があって、こんな……。いや、どんな理由でもこんなの、許されていいはずがありませんわ。
あなた、こんなことしてただで済むと思って? きっと今頃、家族が、お兄様が血眼になってワタクシを探しているはずですわ。この鬼のような所業が見つかるのなんか、時間の問題でしてよ?
……何ですの。何とか言ってもいいんじゃありませんこと? 携帯なんか見せて、なんのつもりで……。
待って、待ってちょうだい。その携帯、まさか、あの子の? なんであの子の携帯がここに……。
は、ははっ、わかった。わかりましたわ! あなた、復讐をしているのでしょう! でも残念ね、あれはワタクシ達のせいじゃない。あの子が勝手にやったことですわ!
ワタクシ達はただ少し、調子に乗っていたあの子に現実を教えてあげただけ。それの何がいけないんですの? ワタクシ達、あなたに恨まれる覚えなんてありませんわ。
ねぇ、何とか言ってみたらいいんじゃありませんこと? 八つ当たりだって、自分でもわかっているのではなくって……?
……お兄様は、きっとここには来ませんわ。ワタクシの存在なんて、あの家ではその程度でしたもの。表面上、血眼になって探しているフリをしているだけ。本当は、ワタクシ一人がいなくなったところで跡継ぎがいることに変わりありませんわ。
いいですわね、あの子は。死んでもなお、こんなに愛されて、思われて……。だからワタクシは、あの子が憎くて仕方がなかった。優がなんであの子を嫌っていたのかは知る
……笑いたいなら笑えばいい。家族に見捨てられた哀れな女だと、そう罵ればいい。
「好きの反対は嫌いじゃなく無関心」って言葉、一度は聞いたことがおありでしょう? ワタクシはね、結局一度も、叱られることも褒められることもなかった。
お兄様は、ワタクシが望めばおもちゃでも何でも買ってくれたし、ピアノが弾きたいと言えば専属の講師までつけてくれた。
でも、でもね、違うんですのよ……。ワタクシはそのおもちゃで一緒に遊びたかったし、ピアノだってお兄様と弾きたかった。普通の
ワタクシ、初めてあの子に会った時、確かにそう言いましたわ。仲が良くて羨ましいって。そうしたら何て言われたと思いまして? 「ないものねだり」ですって。あの子、こともあろうかワタクシを見下して、そう言い放ったんですの!
だからあの子が自殺したって聞いた時、正直せいせいしましたわ。自分のせいだなんて、1ミリも思っていませんわ。
殴りたい? なら思いっきり殴りなさいな。どうせワタクシはここで終わり。
足はもう感覚がありませんし、あなたの姿だって今は朧げにしか見えない。これで満足しまして? よかったですわね、いじめっ子二人を死に追いやれて。さぞ嬉しいことでしょう? あの子も今頃は天国で、ワタクシ達を見下して、笑っているに違いありませんわ。
……いや、たしか自殺した人は天国には行けないんでしたわね。じゃあ仲良く3人で地獄行きかしら? もしそうならワタクシ、地獄でもあの子をいたぶらないと気が済みそうにありませんわ。
あら、もうおしまいですの? そんなにワタクシの話はつまらなかったかしら……。それとも、ちっとも反省していないワタクシに愛想を尽かした? どちらにせよ、ワタクシの運命はもう変わらない。最後くらい、取り繕わずに本音を言ったっていいはずですわ。
そうだ、これ、その携帯で録音してるんでございましょう? だったらせめて、遺言くらい残してワタクシも地獄に行こうかしら。
お母様、お父様、先立つ不幸をお許しください。
親愛なるお兄様、ワタクシ、あなたの妹で幸せでしたわ。例え無関心でも、それでも隣にいられるだけで本当は、幸せでしたの。今になって気がつくなんて、ダメな妹ですわね。
ごめんなさい、お兄様。わがままばっかり言ってきてごめんなさい。欲しがってばかりでごめんなさい……。
さようなら、ワタクシの……お兄様。
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