No.4

『メッセージを再生します』




 ——うぅ……ひっぐ……う……。

 何で、何でこんなことになるのよぉ……。あたしが何をしたっていうの? 悪いのはあの二人でしょ!? もう全部終わりで、あたしは関係ないじゃない!

 何よ、あたしだって被害者なのに……必死にもがいて何にでもしがみついて、ただそれだけだもん。誰にも責められる筋合いなんてない!

 わかるよね……? 不可抗力だったの。あたしだってあんなことしたくなかった。でもやらないと……今度はあたしの番だって、そう思ったらもうやるしかなかった。


 ねぇ、お願い……助けてよ。反省してるから……もう二度としないって誓うから!

 ねぇ、何でもするからぁ……お願いだよ……。

 うっ……うぅ……ここまで言ってもダメなんだ。この人でなし。いつまでこんなこと続けるつもりなの? 

 そうやって、遠くで人が弱っていくのを見て楽しい? そうやって今までもただ見てるだけだったんじゃないの?

 だからだよ、結局全部人のせいにして、だからあの子は……。

 いや、もういいや。どうせ何を言っても無駄でしょ。言われなくたってわかってるよ、そんなこと。



 お兄ちゃんはさ、多分あたしのことが好きじゃないんだよね……というか、嫌いでしょ? わかってるから、そういうの。

 だって帰った時もいつも無視するし、喧嘩なんかしょっちゅうだし、この間なんかちょっとゲームを借りて遊んでいただけでこの世の終わりみたいに怒られた。ほんの少し、やってみたかっただけなのに……。

 いつもそうだよね。ずっと意地悪ばっかりで、ちっとも優しくなんかない。少しでもお兄ちゃんらしいこと、あたしにしてくれたことある? ないよね?

 だから、あたしもお兄ちゃんが嫌い。妹を大事にしないお兄ちゃんが嫌いだし、そんな風にいつまでも期待してしまう自分が大嫌い!


 ……あたしが言いたいこと、わかる? 流石にゲームしか頭にないダメダメお兄ちゃんでもわかるよね? 

 最後くらい、お兄ちゃんとして、あたしを助けて見せてよ。ねぇ……そうしたらきっとあたし、本当にお兄ちゃんの妹になれる気がするの。血が繋がってなくても、親の都合で兄弟になったとしても、あたしはずっとずっと……お兄ちゃんって、呼びたかった。


 だからあたし、多分あの子が羨ましかったんだ。いつも明るくて、私なんかに声をかけてくれて、いつも家族のことになると楽しそうに話すあの子に、正直嫉妬してた。


 きっと、みんな嫉妬してたんだよ、花穂も、優も。だからあたしをそそのかした。そそのかして……あの子は、あんなことになっちゃった。

 でもやっぱりあたしは悪くないよ! 加減だってちゃんとしていたし、跡なんて絶対に残さなかった。

 最低だって、そう思う? でもね、男の子には多分、あたしの気持ちはわからないよ。男の子だけじゃない……。持ってる側の人間には、一生わからない。

 持ってる人から奪うのがそんなにいけないの? だってしょうがないじゃない。そうしなきゃ、あたしはいつまでも惨めなまま。愛されている人を憎んで何がいけないの? 教えてよ、あたしに……! ねぇ、教えて……。


 ふふ、やっぱり出来ない? 知ってる。例え教えられたとしても、あたしには少しも理解出来ないもん。ええそうよ、本当は反省なんてこれっぽっちもしていない。でも……これって本当に罪なこと? 物も知らない、責任能力もない、直接手を下したわけでもない。その上あたしはただ、花穂や優のいいなりだっただけ。ただ、あの子をいじめていただけ。


 失望した? こんな妹でごめんね。でもね……これは、お兄ちゃんのせいでもあるんだよ?

もしお兄ちゃんが、もっとあたしに優しくて、毎日「おかえり」と「ただいま」ってあたしと言い合えるような関係で、あたしが落ち込んだ時には気がついてくれて、一緒にゲームで遊んでくれるくらいに、あたしを大事にしてくれていたら……。お兄ちゃんがちゃんと、全部教えてくれていたら、きっとあたしは今、ここにいないで済んだ。

 ここまでぶっちゃけたんだから、もうわかってるでしょ? 時間がないの。だから、一生に一度のお願い。


 あたしに、愛を、教えてください。今すぐにあたしを救って、正真正銘あたしのお兄ちゃんになってください。お願いします……お願い、ゲームを勝手にやったことも、プリンを横取りしたことも、大人な本のことを親に言いつけたのも、全部全部きちんと謝るから、だから……。



 ヒッ……嘘、やだやだ、嫌だよ! やめて、閉めないで、お願いだからもうちょっとだけ待って! 嫌、お、お願い……あと少し、ほんの少しでいいから時間をちょうだいよ!

 もう満足でしょ!? 嫌だ、こんな寒いところにひとりぼっちなんて耐えられない!

 待って、行かないで……あたしを、一人にしないで! ねぇってば!



 ……ああ、そっか。そういえば、一人じゃ、なかったね。


 助けて……あたしの、お兄ちゃん……。

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