僕の妹コレクション
御角
留守番電話
No.5
『メッセージを、再生します』
——あ、もしもし? えっと……まずは久しぶり、かな? いや、そうでもないか。
こんな風に真面目に話すのは初めてだから、ちょっと緊張しちゃうな、なんて。
だってお兄ちゃん、引きこもってばっかりで、全然顔を合わせてくれないんだもん。
でも、電話なんて多分これっきりだから。今まで言いたかったこと、全部言うね。
私ね、お兄ちゃんには感謝してる。小さい頃から仲良しだった友達がいなくなった時も、一時期学校に行けなくなった時も、ずっとそばで慰めてくれたから……。
友達、美亜ちゃんとはいつも一緒だったから、急にいなくなって凄くショックだったの。
なんで何も言わずに遠くに行っちゃったのかとか、知ってたらもっと何か出来たんじゃないかとか、そんなことばかり考えちゃう。
今更って思う? でもね、それくらい私たちは仲が良かった。その分、私の心には大きな穴が空いちゃったの。
何をしても憂鬱で、勉強なんて手につかなかった。そんな私を、お兄ちゃんはよくドア越しに励ましてくれたよね……。
絶対にその扉を開けることはなかったけど、それでも嬉しかった。話を聞いて、「辛かったね」って言ってくれるだけで、私は幸せだった。
本当だよ? 学校に行けなかった時も一日中ずっと相手してくれて……。食事を運ぶ時、強引に部屋に入ろうとしたら怒られたっけ。懐かしいね、結構最近なのに。
だから、その、つまり……。
ありがとう……! 感謝してる、凄く。昔は引きこもりのダメな兄だと思ってた。でも今はそうじゃない。お兄ちゃんは少し強情で空気読めないところもあるかもだけど、優しくて、頼りになって……えーっと、優しい! あれ、さっき言った?
ま、いいや。とにかくお兄ちゃんは私の自慢のお兄ちゃんなんだから、もっと胸張ってさ、堂々とすればいいよ。
それでさ……気が向いた時でいいから、その開かずの扉、ゲームみたいに軽くぶっ壊せばいいんだよ。
私はもう大丈夫。だから、私のことはいいから、そっちも一人で頑張ってみなよ。……こんなこと、妹に言われるまでもないか。あは、ごめんごめん。
……あとね、実は一つだけ、お兄ちゃんに嘘、っていうか、隠していたことがあるの。聞きたい? ……いいよ。いい機会だし、話すよ。
さっき私、美亜ちゃんのこと話したでしょ? 友達の、美亜ちゃん。お兄ちゃんには何にも知らなかったって、ずっと言ってきたけど。
本当はね、何となく、薄々気がついていたんだ。でも、確かめるなんてとてもじゃないけど出来なかった。怖かった。知ってしまったら、その瞬間に大事な何かが壊れちゃう気がして……。
多分確認しても、美亜ちゃんは優しいから教えてくれなかったと思う。それでも、未だに後悔してる。私はずっと、汚い部分は見て見ぬフリをして、綺麗で甘い部分だけをひたすらに
だからかな、自分だけは汚れていないって、そう思い込んで「知らない」なんて嘘をついた。わかってたの。本当は全部、全部わかってた。
学校に行けなくなった時もずっと、いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってた。でも目を逸らした。だってそうでしょ? 馬鹿げてる。所詮は頭の中だけの、ただの妄想なんだから。真実を知ろうとさえしなければ、妄想はずっと妄想のまま。
……ごめん、これは言い訳だね。結局スルーし続けた結果、こうなっちゃったわけだから。何を言ってるか、お兄ちゃんにはわからないかもしれないけど……でもちゃんと、自分の考えを残しておきたくて。
だいぶ長くなっちゃった。あんなにドアを挟んで沢山話したのに、まだまだ話し足りないや。長すぎて自分でも何言ってるかよくわからない。おかしいね、本当に。
とにかく、今までありがとうって伝えたかった。色々お世話になったのに、一回もお礼言ったことなかったから。……改めて言うとなんか照れるね。でもこの気持ちは嘘なんかじゃない。もうお兄ちゃんにも、自分にも、誰にも嘘はつきたくないから。
ふぁ……あー、ごめん。ちょっと眠くてつい、ね。名残惜しいけど、そろそろ終わりかな。実は何人か友達を待たせてて、だから早く行かないと。あーあ、何で時間ってこんなに早く過ぎちゃうんだろう。本当、嫌になっちゃうよ。
ねぇ、ちゃんとここまで聞いてる? まさか、長すぎて飽きたりしてないよね? もし途中で切ったりちゃんと届いてなかったら私、あんたのこと一生許さないからね!
なーんて、ちゃんと聞いてるなら許すから、ね? だから、そこのところ、ちゃんとしてね。お願い。
……さ、念も押し終わったところでそろそろタイムリミットかな。それじゃあね、バイバイ!
あ、一つだけ言い忘れてた。
えっと、ね……世界で一番愛してる。
大好きだよ、私のお兄ちゃん。
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