第二話 クオンの夢・承前

そしてブラックアウトした意識から目を開けると

そこは夜で、春先の寒い感じがした。


さっきまでは梅雨の終わりだったので、また違う時間へ来てしまったみたい。

元の時間は7月で夏だったはずだから、戻ってこれたというわけでもないみたい。


仕方ないので、もういくらか見慣れてしまった街を彷徨さまよっていると。

この前よりは少し古びて見える箇所があることに気づく。

最初に飛ばされたところよりは、少しだけ未来に来たのかもしれない。


すると

「あれ?久遠ちゃんじゃない?」

と大人の女性の声が聞こえて


「え?」

と振り向くと。

そこには長髪を後ろでくくった中年の男と、車椅子にコルセットで体を補ていした女性がいた。


そして彼らは、私がさっき転移する前にお世話になっていた人と同じ名前を乗ってきた。

少し歳をとっていた彼らは、懐かしいものを見るような目をしながら声をかけてきた。



「あの時はびっくりしたよ~。

突然目の前で、姿が薄くなっていって消えたモンだから

元の時代に戻れたんじゃいかって思ってたんだけど、

でも、そうじゃなかったんだね……

「うん……」

「あれから何年たったか教えてもらってもいい?」


「20年だよ……あれから20年。

 俺らももうすぐ40さ」

といって、少しの恥ずかしさをにじませて笑う彼らの表情かお

あまり幸せそうには見えなかった。


少し憔悴しょうすいした様子が、彼らの顔に現れているのが、ひどく気にかかった。


二人は今も一緒に暮らしているらしい。

彼は瞳さんと目を合わせて、二人うなずきあうと彼は言ってきた。


「どうせまた行く当てなんてないっしょ?

 こうしてまた出会えたのも何かの縁だし。

 またウチへくるかい?」


「ありがとう。

二人が問題なければ、また泊めてもらえると助かります。」

そういって、また泊めてもらうことに。


家へ向かう道すがら、あれからの事を話してもらった。

あれからしばらく平和で退屈な日常が続いたけど。世の中は不況になり、仕事もなかなか良いところも見つからず。それでもなんとか二人で支えあって生きてきたけども。

ある時、瞳さんが暴漢に襲われて重傷を負い歩けなくなってしまったという。そのせいか、結婚はしておらず、瞳さんが彼を縛りたくないといってしていないらしい。


私は、泊めてもらっている間くらいはと、

彼女の介助と家事をやらせてもらう、と申し出てやらせてもらうことにした。


それから、一緒に生活していてわかったのは

彼の生活は、仕事と、瞳さんの介助と、家事のすべて、をすることで

すでに心身ともに疲弊していたこと。

そして彼女は彼女で、そんな本来なら自分ですべき身の回りの事すらもできることがなさ過ぎて、生きている意味自体を喪失してしまっていて、生き続けていることに心苦しさを覚えていること。自分がいなければ、彼はもっと楽に生きられたかもしれないのにと……。


しばらく春雨が続く中

どうも彼は、いまだに彼女を襲った暴漢を探しているらしい。

暴漢について話をしているとき

彼の目は、怒りに染まっているのに落ち着いていて、淡々と話すその瞳はひどくくら爛々らんらんとしていた気がする。


彼は情報収集を怠らないようにしているといっていた。

新聞は複数とり、時間があれば雑誌も読み、ラジオやニュースも見る。

仕事も接客の多い仕事をして、よく周囲を観察するようにしているといっていた。


私は、彼に集めた情報の取り扱い方を話した。

情報には、発信者や、その関係組織の思惑や狙いが含まれていることがあって。その関係から隠された情報も存在するということ。

虚偽報道は罪だけど、報道しない自由はあるということ。

けれど、複数の情報を集めて分析することで、それぞれの記事の中にある事実を浮き彫りにすることができて。それで分かった事実を繋ぎ合わせると、その時に起きた事象や人物像なんかをあぶりだせるのだということを話した。


私の話を聞き終わった彼は言った

「わかった。もう一度あつめた情報を洗いなおしてみるよ。ありがとう……」

真剣な表情で希望を見出したかのような彼は、たしかに笑っていた。


ただ、集めた情報を洗いなおしたからって、そうそう狙いのモノが見つかるわけでもなく、焦燥しょうそうに駆られてゆく彼に


「こういうのは、長い目でみていれば、新しい情報が出てくることもあるからと諦めないで。諦めさえしなければ、願い求めるものが見つかる瞬間はきっとくるから」

と、彼に焦りすぎないように伝えた。



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