久遠の夢

斎宮 クオン

第一話 クオンの夢・起床

きょうのゆめはすこし変わっていた

これから記憶の限り書いていこうと思います。


少女“久遠くおん”と、彼の祖父である“退蔵たいぞう“は山奥の村で過ごしていて

厳しく育てられ、様々なものを制限されていた。歌うことも舞うこともしてはいけない。代わりに、毎日よくわからない武術かなにかの身体訓練を受けていた。


幼馴染の遊と舞が、ときどき遊びに来ては自分たちの自慢をしてくる。今日はあれが楽しかった、これがよかった、歌がかっこよく歌えるようになっただの、きれいに舞えるようになったでしょう?だのって。わたしはそうしたことに関心がない。関心をもってはいけない。

おじいちゃんに叱られるから。


梅雨が明けて初夏の日差しが強くなってきたころ

雨上がりの空は青く澄んで、入道雲が遠くに見える。

この日、3人は修学旅行かなにかで、六甲山の見えるとある高台の場所に来ていた。観光地の一つか何かで人ごみにあふれている。

遠くにくすんで青みがかった山が見える。六甲山だ。


その人ごみの中に、バンダナから長髪がのぞく、くたびれた男がいて、ほかのみんなが仲良く話しているなか、一人でいる私に何かを話しかけてきた。

私は男の声を聞いていた。

そうしていると頭がぼーっとしてきて、意識が引っ張られる。

そして突然、まるで場面が変わったかのように見も知らないさっきとは別の場所へと、気が付いたら立っていた。


とりあえず若干の不安はあるけど、まずは状況を把握しようと少し街を歩いていると。どこかで見おぼえのあるような不思議な感覚を覚える、長髪の若者と、きれいな女性が声をかけてきた。


「どしたん?なんか困ってる風だけど?」と

男は大志たいし

女は瞳と名乗った。


事情を話してみると

ここは40年前の世界らしい。


行く当てもなくて途方に暮れてると。


「とりあえず、行く当てもないっしょ?うちらんとこ来る?

しばらく泊めてやるよ」

って言ってきたので、

ほんとに行く当てもないし、気のいい優しそうな人にもだったのでお世話になることにした。


しばらく日がたって

二人と一緒に過ごす毎日の中で

わたしがどんな風に育てられてきたかとか

何を仕込まれてきたかとか話す機会があって

「例えば、その辺にあるものなら何でも武器にできるよ」

とか、

「投げられたものでも手で受け止めて武器にするとかできるよ」

って、話したら

「ちょっとやって見せてよ」

と軽い感じでお願いされたので。

狭い部屋の中だからって断ったんだけど


「いいからいいから(笑)」


って、重ねてお願いされてしまったので、つい披露することに……。

まずは簡単な食事用のナイフを投げてもらって

それを空中でパシッとつかむと同時に相手の喉に斬りつける動き

2本目を投げてもらって、パシっと二本目もつかみ取ると、逆手にもって、ナイフを小刀に模して二刀流の連続で切りつける動き


「なんなら包丁みたいなものでも大丈夫だよ」

って、言ったら、ほんとに包丁持ってきて


「マジで大丈夫?これ」

「うん」


っということで、長めの包丁だけど、を投げてもらって

それをパシっと空中で掴むと

今度は突きで相手を倒し、倒れたところにとどめを刺す動きをして見せたりした。


「すげー!

おれ、めちゃ感動しちゃったよぉ!」


って、感動されたおした。

平和な世の中で、なんでこんなことを教え込まれているのか不思議に思われるのと同時に、自分でもよくわっからないけど、このせいで私は、みんなが普通に遊んだりすることは禁止されていたし、感情的になることもし叱られて育ったと話すと、ひどく同情されて。

私にできることと言ったら、刃物や武器の扱いとか、人体の事についてとかくらいしかなかったから、その話しをして過ごした。

彼はそれを興味深く聞いてくれた。


ある晴れた日

「君が居たっていう、六甲の見える場所さ。

 もしかしたら元の時間に戻る手がかりがつかめるかもしれないし

 一度いってみない?」

と言われたので、今度の休日に行ってみることになった。


その日は晴れ渡っていて

前日まで続いた雨のせいか、空気も少し湿っていて涼しい。

日差しは夏まではまだ少しあるので、ぽかぽかと温かい。


現地に着くと

あの日と同じ、でもまだ新しい、ペンキで白く塗られた鉄製の階段が見えてきた。

高台に上がると、たくさんの人が詰めていた。

そこから見える六甲は、澄んだ空気の中、青みがかった中でも緑が明るく見えた。


「すごいよ!六甲山があんなにきれい!

私のいたところでは、くすんで見えていたのに!

これがこの世界が40年の間に失った景色なのね!」

と、わたしにしては珍しく、そしてとても感動してしまった。

こんなこと。こんなに心をうごかしたらおじいちゃんに怒られちゃう!でも、

「この景色はほんとにすごいのよ!ずっとずっと向こうまで透明で見えるの!」


と一見する普通に立っているだけにしか見えないわたしが

声だけは、すごくはしゃいで笑って、子供のように彼に話していた。


「へぇ、そうなんだ。

 こんなもん、たいして代り映えしないモンかと思ってたけど

 未来じゃ同じモンは見れなくなるってことなのかもしれないな

って、思うと、しっかり心に刻んでおかねぇとな!」

っと、彼も笑いながら言った。


楽しい時間を過ごしていると、また意識が引っ張られる感覚に襲われた。


「あ!意識が引っ張られる!もしかしたら……

 あ、ありがとう!また会うことができたらお礼させてね!」

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