第2話 黄色の花の少女
石魔人の眠る神殿跡が聳え立つ山の麓、その荒野のさらに先にある人口も少ない小さな村。
その村が今この瞬間、ハツメとユイグの視線の向こう側で激しく燃える炎に包まれていた。
「この反応、あの村から大きな魔力を感じる……!」
何かを感じ取ったユイグは村の方を睨みつけるように観察し、村の中に強力な魔力の反応を捉えた。
「気をつけろ、ハツメ。あそこにいる奴の狙いはおそらくーー」
村の方にいる存在について警告しようとユイグはハツメの方を向くが、既にその姿は無かった。何故ならーー。
「そんな嘘でしょ、いや! 皆!」
不安と恐怖に駆られたハツメは既に全力で走り出していた。一秒でも早くあの村の中にいる子供達を助けるために。
「待てハツメ!」
咄嗟に動いたユイグは造作もなくにハツメに追いつき腕を掴む。
「離して、離してよ!」
早く村へと行くために掴まれた腕を強く振って取り払おうとするが、ユイグの腕はピクリとも動かずその手を離さない。
「落ち着け、今のお前が言ったところでどうなる、村の中にいる奴等にやられるだけだぞ」
「ならどうしろって言うのよ!」
こんな時に冷静に話すユイグに対し八つ当たりのようにハツメは怒鳴ってしまう。
そんなハツメに対してユイグは静かに口を開く。
「お前だけではない、ここにはオレがいる」
「ユイグ……!」
今のハツメにとって頼もしく聞こえる声でユイグは告げると、そのままハツメの手を離す。
そして、右肩に付いていた棺の蓋を小虫を払い落とすように左手でそっと触れて落とした。
「まずは右腕が必要だ。申し訳ないが少し待て」
「分かった。もうユイグなら何をしても驚かないから」
冷静さを取り戻したハツメに見守られながらユイグは神殿入口付近まで戻り、崩れた柱や壁が散らばってる辺りで何かを探しだす。
(少し長いが、今は時間がない)
神殿入口付近でユイグが見つけたのは、自身の身体よりやや小さく細長い石柱だった。
石柱を左腕に持つと自身の右肩に押し当てるように密着させる。
(フゥゥゥゥ……)
そのまま石柱を密着させながら静かに目を閉じ、口の中に大量の空気を取り込む。そしてーー。
「…………フンッ!」
右肩に石柱が完全に接続され、そのまま石柱全体に罅が入った。
さらに石柱は擦れる音を立て、破片を撒き散らせながら徐々に形状を変化させていく。
一瞬何が起きたのか戸惑ったハツメであったが、石柱が何に変化しているか直ぐに分かった。
「まさか柱を腕にしているの?」
そう、右肩に接続された石柱は歪な形ながらも、関節も指もある右腕の形になっていくのだ。
「こんなものか」
石柱の右腕を完成させたユイグは、指や関節を軽く動かして動作を確認しハツメの元に戻ってくる。
「では行くぞ」
「また私を抱いて走るの……?」
先程の素早い走りに振り落とされないか不安のあったハツメであったが、それに対してユイグは先程落とした棺の蓋を指差す。
「これで山を降りる」
「……そういうことね」
どうやって下山するか察したハツメは再びユイグの腕に抱きかかえられ、ユイグは棺の蓋を山の斜面に向けて思いっきり投げる。
「行くぞ!」
そのままユイグは勢いよく跳躍し、山の斜面を滑り落ちる蓋の裏に飛び乗って、雪山を降りるボードの如く山を下っていた。
(今すぐ行くから、皆生きてて!)
ハツメは心の中で少女達の無事を強く祈った。
これはハツメが山へと入るほんの二時間程前の事。
山へと登るために必要な物を揃えようとハツメは村の通りにある道具屋にて買い物をしており、いくつかの商品を手に取った。
「あの店長さん。薬草と魔獣の脂をあるだけ頂いてもよろしいでしょうか? お金ならありますので」
「別にいいけど数は少ないがいいかい? 特に薬草はそれだけしかなくてさ」
他の場所なら魔獣の脂の方が少ないのが当たり前なのだが、どうやらこの村は薬草の方が仕入れが少ないらしい。
「構いません、もし私が独り占めしてるようなら減らしましょうか?」
「いいさ別に、どうせ買う奴も村にもそんなにいないんだ。ところでお客さん、その二種類の組み合わせで買う辺り、もしかして魔法の実験か何かかい?」
道具屋の店主の言葉にハツメは少し黙り込むものの、直ぐに笑顔を見せながら応答する。
「はい。魔法学校の課題の一つで魔法薬を作る必要がありまして、練習のためにと」
「あいよ、じゃあ頑張んなさいな」
なんとか必要な物を道具屋から購入したハツメは店主から商品を受け取って確認しながら鞄に詰め、軽く会釈をしてその場から離れた。
その様子を近くで見ていた目つきの悪い若い男は、ハツメの後ろ姿を怪しそうに見つめていた。
「ふーん、魔法学校ねぇ」
そんな男の言葉を聞いて道具屋の店主は笑っている。
「ハハハハハ!お前さんは魔法学校通ってたけど結局退学だったもんなぁ!」
「うるさいぞ旦那……にしても、まさかな」
どうやら男はハツメがどうしても気になるのか、ハツメの向かった方へ歩き出した。
元々錬金術師は、魔法使いと科学者等の一部要素が混ざり合った存在、それが独自に発展した分野を扱う者達であった。
そのため、大抵の錬金術は魔法か学者等で誤魔化しが通ずる。
前世の頃は叔母を相手にする時以外、何かに警戒しながら過ごす事の無かったハツメにとって、両親の遺した財産で金には困らなかったとはいえ、錬金術師としての生は常に身の回りを気をつけてねばならない分、前世以上の息苦しさを感じているところはあった。
それでも二・つ・の・気・に・な・る・事・がある以上、今のハツメは生きる事を諦めることはなかった。
これからの山登りに備えてハツメは村の広場にて一休みをしており、先程購入した代物も取り出しながら荷物を整理していた。
「ねえねえ! なにしてるのおねえちゃん?」
「あなた達いつの間に…」
ハツメの周りに、たくさんの子供が集まっている。好奇心旺盛な子ども達は彼女の荷物に近寄り、好き勝手に見たり触れたりしていた。
「あっ、それは駄目よ!」
荷物の中にあった獣の皮に包まれた何かを子供の一人が開こうとしたため、咄嗟に取り上げる。
「え〜いいじゃん」
「他の人の物を勝手に触れたり取ったりしたらいけないわ、今は子供だから許される事でも大きくなると謝っても許されない事ばかりなのよ」
「は〜い」
子供達の態度にハツメは少し威圧感を出しながら笑顔を向ける。
「ごめんなさいは?」
「ごごご、ごめんなさい!」
「フフッ、それよろしい」
男の子数名は身体を震わせながらも大声で謝り、ハツメは優しく子ども達の頭を撫でる。
これ以上、広場にいるのは不必要に目立ってしまうのではと思ったハツメは直ぐにでも立ち去ろうとした。
しかし、歩き出そうとしたハツメの服の裾を一人の少女が引っ張っていた。
「ごめんなさいね。私これから行くところがあるの」
「ねえお姉ちゃん、行っちゃう前に一個だけでいいからお願いしていい……?」
「お願いって?」
何かありそうだと察したハツメは少女の方を向き、お願いを聞いてくれるのだと思った少女は小さなを広げ、その手に隠していた物をハツメに見せた。
それは植物の種だった。
「これは花の種かしら。これをどうして欲しいの?」
「うん、お花さんだよ。だけどね、この村の土だとこのお花さんは種のままなの。だからね、さっきお店のおじさんと話してるお姉ちゃんが魔法使いだと知って……」
どうやらこの少女は、先程買い物をしていたハツメと道具屋の店主との会話を聞いていたらしい。
「つまりこの花を私の魔法で咲かしてほしいのね」
「うん! お花さん、ずっと種のままでかわいそうなの!」
必死に訴える少女の瞳をハツメは見つめる。
その瞳から、花を咲かせる事が心の底からの願いだと感じ取った。
「そうね、分かったわ。それじゃあ私に種を渡してくれる」
「やってくれるの!」
自分の願いを叶えてくれるという嬉しさから、少女は満面の笑みを浮かべて花の種をハツネに渡す。
錬金術師としての彼女の生は苦しいことばかりだが、時折、こうやって自分を頼りにしてくれる者がいるのが大きな支えなのかもしれない、と彼女は心の隅で思っていた。
ハツネは近くにある土を集め、懐から取り出した虫眼鏡で土を観察する。
「何してんだろ姉ちゃん」
「しっ、今集中してるから」
声を出す男の子の一人を注意しながら土を観察し続ける。
実はこの虫眼鏡は錬金術用に特殊な術の施された虫眼鏡である。
元々、ハツメの前世の世界にあった分析に関する技術の記憶を参考にしつつも、この世界の知識と物質の成分に合わせた上でハツネ独自に作った、虫眼鏡の形をした分析装置なのだ。
(なるほど、土の成分に問題がありそうね)
土に問題があると推測したが、実はその予想は当たっていた。
村を含む周辺地域の土は主成分等に問題があり、植物そのものがなかなか育たなく、そのため、育つ作物も限定的であり、一部の農家はわざわざ遠方から入荷した土を買ってくることすら珍しくない。
道具屋の薬草の数が少なかったのもこれが理由だ。
「それならこれを使えば上手くいくわ」
この様な土でも何とか出来る解決方法をハツメは思いつき、ハツネは鞄の中から空き瓶、粉状に潰された乾燥した草、薬品の入った瓶、木製のカップを取り出す。
「すぐに終わらせちゃうから、皆しっかり見ていてね」
そう子供達にハツメは言い聞かせ、周りの子ども達を静かに息を呑んでハツネの方を見つめる。
まずは空き瓶に土と粉状の草を入れ、軽く振って混ぜる。
そしてカップに混ぜた土を移すと、先程の花の種を土に植えてからそこに瓶に入った薬品を注ぐ。
「ここからが本番よ」
ハツネはカップの中の土に触れ、小声で何かを呟く。
するとカップが緑色の光を放ち、早送りしているかのように土の中から花の芽が現れ、あっという間に成長し一輪の花を咲かせた。
「わぁぁ……」
少女は興味深そうにその光景に見入り、ゆっくりと花に近づく。
「お花さんだ!ありがとうお姉ちゃん!」
「すげえ!いったいどうやったんだ!?」
少女は嬉しそうに満面の笑みをハツメに見せ、他の子ども達も大はしゃぎしており、ハツメの顔にも笑顔が浮かんだ。
だが、そんな時間も長くは続かなかったか。
「おいアンタ、錬金術師だろ」
(……えっ?)
道具屋からハツメを追いかけてきていた男がハツメのすぐ近くに立っており、ハツメに向けて小声で確かに錬金術師と呟いた。
「何のことでしょう?ただの魔法学校の生徒ですよ」
内心慌てつつもハツメは誤魔化そうとするが、男の顔は完全にハツメを警戒する目だった。
「いや間違いない……。俺だって昔は魔法使いを目指したんだ、禁忌の錬金術の見分け方も学校で教えてもらってるから、さっきのが錬金術だって見れば分かる……」
(マズい、この人は完全に分かってる……こんな目立つところで下手を打ったわ……)
これ以上この男に関わるのは危険だと判断したハツメは後ろに下がろうと思ったが、直ぐにここで下手に動けばかえって面倒になると気付き、毅然とした顔で男の顔を見る。
「どうするつもりですか」
ハツメの頬を冷や汗が伝う。逃げようとすれば逃げれるが、神殿跡にまで行く前に大きな騒ぎは起こしたくなかった。
警戒心を高めたハツメに対し、男はハツメに警戒しつつも周囲を見渡していた。
そしてハツメの耳元で小声で――。
「早くこの村から出ろ。アンタは錬金術だがあの子達の悲しむ顔も見たくない」
「えっ」
なんと男は錬金術師であるハツメを見逃すつもりだったのだ。
これまでどんな優しい人でも錬金術師とバレる事があれば命を狙われた事すらあるハツメには驚きを隠せなかった。
「遠くで見てた奴らもアンタを怪しんでる。気をつけけろ」
「分かりました、ですが子供達には何と……」
錬金術だと知らなかったとはいえ、自分のやった事で楽しそうにはしゃいでる子ども達の姿を複雑そうに見つめるハツメ。
そんなハツメを見た男は「やれやれ」と言いながら子供達の前に出る。
「お前ら、お姉さんはこれから行くところがあるからもう相手出来ねえぞ。」
「え〜! まだいいじゃん!」
「駄目だ駄目、お姉さんは学生だから時間ないんだよ」
気を遣った男は、ハツメの素性を誤魔化しつつ文句を言う子供達を落ち着かせ、疲れた顔でハツメを向き、近くにあった鞄を持ってハツメに渡す。
「どうもありがとうございます。あと、子供達に伝えて『良い村だった』と伝えておいてください」
鞄を受け取ったハツメは微笑みながら男に礼を言う。
「お、おう伝えておく……とりあえず、達者でな」
これまで男の中にはジメジメとした胡散臭い、人を簡単に利用する様な錬金術師のイメージがあったが、それとはかけ離れたハツメの態度を間近で見て少し困惑しつつも、ハツメに別れを告げる。
「はい、そちらこそお元気で」
鞄を背負ったハツメは村の入口の方へと歩き出す。
その姿を見た子供達はハツメを見て手を振っていた。
「またねーー!」
大きな声で子供達はお別れの挨拶を言い、ハツメは一度後ろを振り返って手を振り返し、再び入口へと歩き出した。
なんとか無事村を出ることのできたハツメは、出て直ぐ神殿跡のある山の方を見つめ、懐から取り出した古く傷ついた地図を取り出す。
(確かにあの山で間違いない、あそこまで行けば石魔人に――――あら……今声が?)
村の入口の方から自分を呼ぶ声を聞き取り、ハツメは再び村の方を向く。
なんと、村の入口の方からハツメを呼びながら走ってくる小さな人影があった。
「お姉ちゃーん!」
走ってきたのは先程の少女だった。無理して走ったからか少女は大量の汗を掻いていたが、ハツメの顔を見て嬉しそうだ。
「駄目でしょ、村の中にいなきゃ」
「ごめんなさい……。でもお姉ちゃんともう会えないと思って……」
寂しい顔をする少女の顔をハツメは優しく撫でる。
「大丈夫。いつになるか分からないけどきっとまた来るわ」
「本当……?」
「ええ」
名も知らぬ少女と話してる中で、前世の時に喪った妹の照音の面影を重ねていた。
「お姉ちゃん。後ろ向いて?」
「? まあそれぐらいならいいけど」
不思議そうに思うハツメが後ろを向くと、少女が「えいっ!」と言いながら鞄に当たったような衝撃がした。
「何か悪戯した?」
「ちがうもん!」
悪戯したと言われて少女は頬を膨らませ、ハツメは「ごめんごめん」と謝りながら頭を撫でて機嫌を直す。
「じゃあお姉ちゃん、また会おうね……。わたし、お姉ちゃんのこと信じてる!」
少女は小さく微笑みながらあらためてハツメの顔を見る。
「次はもっと話しましょう。元気でね」
別れの挨拶を終え、少女は村の方へと駆け出し、ハツメは山の方へと歩き出す。
花を刺されていた事についてはハツメは神殿跡でユイグに言われるまで気づかなかったが、この時、少女が鞄に刺した黄色い花にはハツメを守ってくれるようにお祈りの気持ちが込められていた。
もしかしたら、火炎蜥蜴とユイグの衝突で怪我一つ無かったのはそのお祈りのおかげかもしれない。
そして、ハツメは一日も経たずしてこの村へと再び来ることになった。
辺り一面が炎に包まれ、そこら中に村人が倒れている村に。
「酷い……誰がこんな事を」
ユイグと共に何とか村へと戻ってきたハツメであったが、少し前まで平穏な時が流れていた村の惨状に絞り出すような声で嘆く。
またハツメが不安に駆られないか目を配りつつ、ユイグは両手に力を入れて辺りを見渡して――。
「…………そこにいるな、出てこいっ!」
察知した存在を改めて確認したユイグが大声で叫ぶ。
すると、村を包んでいた火が一斉に消えて辺り一面、夜の闇と静寂に包まれる。
そんな静寂の中、誰かの笑う声が聞こえてきた。
「……クククク……ハハハハ!まさか貴方までもここにおいでなさるとは!何という幸運!」
村中に聞こえるほどの大きな声量の声に二人は周囲を警戒する。
「お前が魔力反応の元……!」
山の上からユイグが感知した大きな魔力の反応こそ、この声の主だとユイグ自身が直ぐに分かった。
そして、その言葉を聞いた声の主は拍手をする。
「おやおや、既に分かっていたとは流石の石魔人。それなら隠れる必要はありません。反応を辿れば直ぐに会えましょう」
その言葉を最後に声は聞こえなくなり、再び静寂に包まれる。
「奴をこっちだ」
「分かったわ……奴は絶対……!」
(ハツメ……)
周囲を警戒しつつ、声の主の反応がある広場の方へと歩いていく二人であったが、隣を歩くハツメの怒りを隠せぬ形相にユイグはかける言葉がなかった。
そして、広場へと来た二人は噴水の近くに薄っすらと見える人影を見つけた。
「おやおや、石魔人と怖い顔をした錬金術師のお嬢さんのセットですか」
二人の方へとゆっくりと歩いてくる人影は指を鳴らし、自分の周りに浮遊する火の玉を出現させた。
タキシードを着た細身でユイグにも並ぶ程の長身、何よりもトマトのように赤く染められたカボチャの被り物をしているのが際立つ存在がそこにいた。
「お前が……! お前が!」
怒りに我を忘れかけたハツメは今にも飛びかかりそうだが、なんとかユイグがその手を掴んで止めている。
「何者だお前」
「役立たずの蜥蜴の雇い主と言えばお分かりで?まあここは赤カボチャとでも名乗っておきましょう」
「貴様の指示か」
火炎蜥蜴を仕向けた張本人が赤カボチャと理解したユイグはさらに警戒心を強め、目の前の赤カボチャを睨む。
「まあ落ち着きください。奴等の事はやりすぎたようですがその事はお詫びしましょう」
「ふざけないで!村にこんな事しておいて!」
怒りを抑えきれないハツメを、赤カボチャは静かに見つめる。
「おやおや酷いですね。貴方が錬金術師だという事が知られなければこのような事にはならなかったのですよ?」
「……えっ」
その言葉にハツメの表情が固まる。赤カボチャはそんなハツメを卑しげに見ながらさらに続ける。
「貴方が村を出て直ぐですよ。奴等の一部が貴方が錬金術師だという事を知り、あっという間にその事が広まり大騒ぎになりました」
「そんな……」
「今にも奴等の一部が村を出て、錬金術師の情報を各地に拡散してしまいそうだったので先に手を打っておきましたよ。ただ、私が動いたのが遅かったせいで村人を皆殺しする前に貴方達が来てしまいましたが」
「嘘よ……じゃあこれは私のせいで!」
自分のせいだという赤カボチャの言葉にハツメは頭を抱えてその場に膝をつく。
錬金術師である自分の来訪がこの悲劇を生み出したのだと思考がマトモに回らなくなっていた。
「感謝してほしいですね。貴方のいない間に後始末をしたのですから、ハハハハ!」
「あ……あぁ……」
「ユイグ!気をしっかり持て」
愉しく笑う赤カボチャの言葉はどんどんハツメの心を追い詰め、ユイグは何とか言葉をかけるもののハツメの耳には届かない。
「まあ気にすることないですよ!どうせ拡散してたらこの村の連中はどっちにしろ口封じで皆殺しに変わりありませんので!」
「オイ……」
これでもかという程にハツメに伝わるよう大声で言う赤カボチャ。
しかし、その行いは遂に彼の逆鱗に触れてしまったた。
「いい加減に黙れってんだ、……このカボチャ野郎ッ!」
「ワワァ!?」
柱の拳によるユイグ渾身の一撃が赤カボチャの顔面に直撃し、赤カボチャは噴水に激突し、そのまま崩れた噴水の一部が赤カボチャに落ちる。
「ユイグ……?」
今にも泣きそうなハツメはゆっくりとユイグを見上げる。
「情報吐くと我慢して喋らせておけばふざけたことを何度も何度も……。ハツメ、奴がこんな事をしたのは奴自身の利のためだ、奴の言葉は聞かなくていい」
「でも、そもそも私がここに来なければ!」
「そう思うなら奴にやられてない生存者を助けに行け!奴はオレが潰す!」
何よりもこれから起きることでこの場にハツメを残すのは危険だと判断したユイグは、ハツメをこの場から引き離そうとする。ハツメを巻き添えにしたくないからだ。
「……分かった」
再び冷静さを取り戻したハツメは立ち上がってユイグの顔を見る。
「絶対勝って」
「ああ、お互いにやれる全力を尽くそう」
今出せるだけの全力でハツメは広場から走り出し、村の中にいる生存者を探しに向かう。
「おい、早く立てよ。さっきの攻撃でやられる奴じゃないだろ」
噴水の方をユイグの顔が向くと、突然落ちた破片が吹っ飛ばされ、中から被り物とタキシードだけが傷ついた赤カボチャが立ち上がる。
「せっかちな御方です。まずは私の目的を話しましょうか?」
「うるさい。こっちはやっと調子が戻ってきそうなんだ。丁度目の前にいる的をぶちのめすだけだ」
「それでは仕方ありません。ではお相手しましょう」
「やれやれ」と言いながら赤カボチャは周囲に浮かぶ火の玉をさらに増やす。
それに対しユイグは静かに息を吸い、体中に力を込める。
(どうしてか記憶が直った……いや、戻った気がする……。だが、先に奴を片付けてからだ)
先程の一発での言動が影響してか、ユイグ自身の消失したと思われる記憶の一部が戻っていた事。
「それではショータイム!」
赤カボチャの宣言と共に二人の戦いが開始する。
大量に飛んでくる火の玉を避けながら迫るユイグと迎え撃つ赤カボチャの拳がぶつかり合った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます