第2話「お風呂」
「修理業者に来てもらったから、水は止まったよ」
「すみません、僕のせいで……」
あのあと水は全然止まらなくて、クローゼットから適当に取り出した服を着て、玲さんの部屋に避難させてもらった。
慌てて服を着たからパンツを履くのを忘れてしまった。
靴下も左右で色の違うものを履いている。
Tシャツは裏返しだし……僕ってやつは一人だと着替えも満足にできないらしい。
「ホットミルクでも飲んで落ち着こう」
玲さんに淹れて貰ったホットミルクを受け取る。
「すみません玲さん、ご迷惑をおかけして……」
自分が情けない。
「はるとくんのせいじゃないよ。
この建物が老朽化していたのと、管理を怠った僕のせいだ。
だから謝らないで」
玲さんはそう言って僕の頭をなでてくれた。
玲さん、優しい。
優しくされると涙がでてしまう。
「はるとくん泣かないで」
玲さんが指で涙を拭ってくれた。
玲さんの顔が近い……玲さんみたいな綺麗な人にじっと見つめられると照れてしまう。
あれ? 玲さんの顔が近づいて来てる?
「玲さん?」
玲さんの顔が玲さんの鼻先と僕の鼻先が触れ合うくらいまで近づく。
「あっ……ごめん!
はるとくん、体が冷えてるね。
お風呂で温まってきなよ」
「いいんですか? でも……」
お風呂か、水浸しのトラウマが。
「大丈夫だよ、私の部屋のお風呂は壊れてないから」
玲さんは僕の心を読めるみたいだ。
玲さんのお部屋のお風呂……ということは、玲さんが浸かったバスタブ、玲さんと同じジャンプーもトリートメントと石けん……。
天国から地獄とはこのことだ!
「迷惑だったかな?」
「いいえそんなことありません!
ぜひ入らせて下さい!」
お風呂から上がった僕は玲さんと同じ匂いになっているんだ……幸せだな。
そんなことを考えていた僕の頬は緩んでいたらしい。
「よかった、はるとくんが笑ってくれて」
玲さんには僕が無邪気に笑っているように見えたのかな?
すみません玲さん。僕は玲さんの想像しているより汚れています。
☆☆☆
湯船にゆっくり浸かって体を温める。
脱衣場(玲さんの部屋のお風呂には脱衣場がある)にバスタオルとパジャマが用意してあった。
こういう優しさが嬉しい。
パジャマの匂いをクンクンと嗅ぐ。
「このパジャマを玲さんも着たのかな?」
玲さんが着た服を時間差で僕が着る……そう考えただけで胸のドキドキが止まらない。
玲さんの方が腕も足も長いからパジャマをまくって着ることになった。
お風呂から上がると、太陽は西の空に隠れていた。
☆☆☆
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