ラピスラズリ荘の同居人〜寮の管理人さんに恋しちゃいました・完結・BL

まほりろ

第1話「ラピスラズリ荘の管理人さん」



「ふぇ〜〜!?

 ここがラピスラズリ荘?

 なんか思っていたのとは違うな……」


僕の目の前には築50年は超えていそうな木造2階建てのオンボロな建物がある。


「おかしいなぁ?

 ホームページには築1年、鉄筋4階建てだって書いてあるのに…」


スマホの画像に表示されたピカピカの建物には、

「ラピスラズリ荘、築1年、鉄筋4階建て、各部屋温泉、図書室、食堂、屋内プール、トレーニング設備完備」

の文字が添えられていた。


しかし寮の入り口に立てられた色あせた看板には「ラピスラズリ荘」と記されている。


「やっぱりここがラピスラズリ荘なのかぁ……」


僕の名前は朝日あさひはると、18 歳。


春休みが明ければ翡翠ひすい学園高等部の三年生になる。


僕が寮暮らしすることになったのにはわけがある。


一週間前、春休みに入ったばかりのある日。


木造2階建て我が家に雷が落ちて家の一部が損壊。


幸い住人である僕と両親は出かけていたので怪我人は出なかったし、家事にもならなかった。


家を修理するまでの間、近くのアパートに暮らすことになったんだけど……。


自宅に雷が落ちた翌日パパに九州への転勤の辞令が出て、専業主婦のママもついていくことに。


パパは単身赴任でもいいって言ったんだけど、

ママが「男は一人になると浮気する!」

と言ってパパの単身赴任を許さなかった。


僕はパパとママについて九州に行っても良かったんだけど、

ママに「エスカレーター式の翡翠ひすい学園を追い出されたら、はるとを受け入れてくれる大学なんてない!」

と言われ、僕は学園の寮に入ることに。


そんな訳でボストンバックに数日分の着替えを詰めて、ママが印刷してくれた地図を頼りにラピスラズリ荘に来てみたんだけど……スマホに表示されたデータとの違いに愕然としている。


「こんなところに人が住んでるのかな……?」


「住んでるよ、私を含めて九人……君を入れたら十人になるかな」


背後から美しい声が聞こえた。あまり低くない声で柔らかい話し方だった。


振り返ると綺麗な顔のお兄さんが立っていた。


歳は多分二十代前半、神様に愛されて造形された見目麗しい顔、サラサラした髪、すらっとした長身、高そうなスーツを着ている。


ふぁぁぁ……! この世にこんな美しい人がいるんだぁぁぁ!


プロのモデルさんみたいだなぁ……!


僕はしばし謎の美青年に見とれていた。


「君が朝日あさひはるとくんだね。

 私はこの寮の管理している悠月玲ゆうづきれいだよ」


玲さんっていうんだ、顔が綺麗な人は名前も美しいんだな。


「はるとくん、どうかした?」


「な、なんでもありません!」


つい、ポゥっとして玲さんに見とれてしまった。


「でもおかしいな、今日ここに来るのは男の子のはずなんだけど?」


「僕は男です!」


僕の身長157センチ、筋肉が付きにくい体型と女顔なのが災いして、よく女の子に間違えられる。


「そうか、ごめんね。

 あんまり可愛い顔してたらから女の子と間違えてしまったよ」


今玲さんに「可愛い」って言われた?!


他の人に「可愛い」って言われるのは腹が立つけど、玲さんに言われるなら許せる!


というか素直に嬉しい!


「さっそくだけど部屋に案内するね」


「はい」


玲さんの後をついていく。


「びっくりしただろう、こんな古い建物で」


「いえ、全然」


寮の内廊下を歩くたびに、木の板がギシギシと音を立てる。


本当はびっくりして腰を抜かしそうでしたとは言えない。


「1年前に新しい寮が出来てから、この建物に住みたがる生徒は激減してね」


「えっ? 新しい寮?」


「そうだよ『NEWラピスラズリ荘』鉄筋4階建てなんだ」 


もしかして……!


僕はスマホの画面に目を向ける。


白い壁の4階建ての真新しい建物には「NEWラピスラズリ荘」と書かれていた。


「NEWラピスラズリ荘の方は、定員いっぱいで途中からは入れないんだけどね。

 何らかの理由でNEWラピスラズリ荘に入れなかった人が、旧ラピスラズリ荘に住んでるんだよ」


玲さんが丁寧に説明してくれた。


どうりでホームページで見た建物と全然違うと思った。


「102号室が君の部屋だよ。

 これが鍵、なくさないでね」


玲さんから古ぼけた鍵を受け取る。


「私の部屋は隣だから、何かあったら言ってね」


「はい」


玲さんの部屋は僕の部屋の隣りなんだ。


こんな素敵な人がお隣に住んでるなんてドキドキしちゃうな。


鍵を開けて中に入ると、1Kのフローリングの部屋だった。


玄関にキッチンにお風呂にトイレ。


玄関には靴箱と洗濯機。


キッチンには冷蔵庫と炊飯器とオーブンレンジと電気ポットが一台ずつ。


寝室にはシングルベッドに小さいテーブルと椅子が一つに、古いクローゼット。


一人暮らしって感じだ。


家具と家電はママが一年レンタルで手配してくれたもの。


僕の私物はあとで宅配便で届くことになっている。


ボストンバックに詰めてきた数日分の着替えを、クローゼットにかける。


あとは私物が宅配便で送られてくるのを待つだけ。


スマホがピコンと鳴り、宅配業者からのメールで荷物の配送は明日になると教えてくれる。


とりあえずご飯を食べようお腹が空いた。


一人で食べるのは寂しいよ。


玲さんにお願いしたら、初日だけでもご飯を一緒に食べてくれるかな?


なんて……こんなお願い図々しいよね。


ママがバックに詰めてくれたカップラーメンを取り出す。


電気ポットでお湯を沸かしカップラーメンにお湯を注ぐ。


スマホのアラームをセットし、三分待つ。


これを食べたら明日の朝食の買い物にいかないとなぁ。


近所にスーパーとかコンビニとかあるといいなぁ。


これからは買い物も洗濯も掃除も炊事も、一人でやらなくちゃいけないんだ。


気が重いな……一人暮らしってもっと開放感があるのかと思ってた。


スマホのアラームがピピッと音を立てる。


僕はカップラーメンの蓋を開けた。


引っ越し初日のご飯はカップ麺なんて寂しいな。


ズルズルと麺をすすっていたらあっという間に食べ終わってしまった。


汁はあんまり美味しくないから残しちゃった。


食べ終わっても誰も片付けてはくれないから、自分で片付けなくてはならない。


今まで家事をいっさいしてこなかったので、こんなささいなことでも地味にダメージが大きい。


汁の入った容器を持って慎重にシンクまで歩く。


部屋とキッチンを分ける段差に躓いて転んでしまい、頭からラーメンの汁をかぶってしまった!


「汁が冷めててよかった」


シャツを脱ぎ床に垂れた汁を拭く。


ラーメンの汁で汚れた服を洗濯機に放り込んだ。


服も自分で洗わないといけないんだよね。


めんどくさいなぁ……洗濯機を回すのはもう少し洗濯物が溜まってからでいいか。


「体がベタベタする、それにラーメン臭い……お風呂に入ろう」


脱衣初なんてないのでキッチンで服を脱ぐ。


キッチンの横にあるお風呂の扉を開け、中に入る。


お風呂には小さな浴槽と洗い場がある。


「温かいお風呂に入って温まりたい」


そう思って蛇口をひねると……。


「ひゃっ……冷たい!」


お湯が出る方の蛇口を回したはずなのに、なぜかシャワーのノズルからは水が出てきた。


止めようと思って蛇口をひねってみたが、全然止まらない。


「この、おんぼろ!」


蛇口を叩いたら、ボロっと蛇口が取れてしまった。


壊れた蛇口から勢いよく水が吹き出す。


「嘘ーー! どうなってるの!?」


パニックに陥った僕は、あちこちを叩いてしまった。


そして叩くたびに色んな物が壊れていき最悪の状態に!


体にかかった水は容赦なく僕の体温を奪っていく。


引っ越し初日にお風呂で全裸でテンパってる僕!


最悪にかっこ悪い!!



「もう無理ーー!」


壊れた蛇口をどうにかしようとするのを一旦諦め、浴室の外に出ようとお風呂の扉を開けた。


僕がドアノブに触れた瞬間扉が勢いよく傾き…………ドシーーンと音を立てて倒れた。


これで済めばよかったのだが、扉の重さに耐えきれなかったキッチンの床が、メリハリと音を立てて抜けた。


僕は呆然とその様子を眺めていた。


一階でよかった。


少なくとも下の階の人に迷惑をかけることはない……。


「はるとくん、いま凄い音がしたけど……!」


玄関から玲さんの声がする。


「おや、開いてる」


そういえば……玄関の鍵をかけるの忘れていた。


ガチャっとドアノブを回す音がして、玲さんが部屋に入ってきた。


「…………」


部屋の惨状を見て玲さんはしばしの呆然としていた。


「これはまぁなんというか……最難だったね、はるとくん」


「玲さん……!」


玲さんの咎めた様子のない声に、僕はホッと息をつく。


「はるとくん。とりあえず前を隠そうか」


玲さんは困ったように笑い、僕から視線を逸した。


自分がいま全裸なの忘れてたーーーー!!




☆☆☆☆☆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る