第23話 邂逅
新九郎が物陰から姿を現すと小太は警戒して一歩引いた。多枝は小太の仲間がやって来たと思い身を固くするのだった。
「わたくしにも思う所は有るのだが、一応用心棒として雇われているからな。その仕事はしないとならん」
新九郎は小太に対して木刀を構える。
「用心棒? 先程のを見ていたのでしょう。立ち去るのであれば追いはせん。さっさとその女をつれて
小太は隙無く構えて新九郎を窺う。しかし、幾ら待っても新九郎は去ろうとはしなかった。
「やれやれ、命を軽んじるべきではないと思うのだがね」
小太は暗闇を利用してその姿を新九郎の前から消した。
『カン』
「な、何だと」
小太は、先程と同じ様に頬に傷でも付けて脅してやろうと思い短刀を振ったのだが、それは新九郎に防がれてしまったのだった。
「ほう、忍の者か。中々に厄介な相手だ」
「ぬ、ヌシは何者だ」
小太は焦っていた。まさかこの技が破られるなどとは思ってもいなかったのだ。その上、新九郎は落ち着き払っているので、彼の言葉が本心かどうか小太には分からなかった。
「わたくしか? 新九郎と申す。そちらは」
「ワシは小太ろ……小太だ。ヌシは中々の手練れだな。それ故に殺さぬ様には手加減を出来ん。向かって来るなら殺すぞ」
小太は低く冷徹な声で脅すが、新九郎は意に返さなかった。
「言うたであろう。わたくしは用心棒であるから、その責は全うすると」
「では、死ね」
小太は声を新九郎の右側へと飛ばした。新九郎もその声に反応して右側へと構えた。しかし、小太は気配を消しつつ新九郎の左側へと回り込んでいた。
『カン』
完全に小太が新九郎の不意を突いた筈だったのだが、その短刀は新九郎の木刀によって弾かれたのだった。
「おおっ、凄いな。右から来ると思ったが、左から来た。これは驚きだ」
「糞っ、これではどうだ。死ねっ。死ねっ。死ねっ」
笑顔を浮かべている新九郎とは対照的に小太は困惑していた。立て続けに忍の術が破られてしまうなんて事は今までに無かったのだから。
「むむっ、四方から声がする。これは拙い」
先程までは、静寂か声がしても一瞬だった。だから、新九郎には小太の短刀が空気を切る音が聞こえていた。そして、その音に合わせて木刀で防いでいたのだった。
所が、今度は四方から声がする事によって、頼みの音が聞こえなくなってしまったのだった。
「ぐぅっ」
直前で漸く聞こえた風切り音に新九郎は身をよじるが、躱しきれなかった。新九郎の着物の左の肩口にじんわりと血が広がって行くのであった。
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