第22話 嘘から出た実

 荷車を引いた男達は町はずれのあばら家へと入っていった。新九郎もこっそりと後を追い敷地の中へと侵入した。


「ご苦労様で御座いますわ。さあ、こちらへと運んで頂けますか」

 男達に指示を出す声は、紛れも無く多枝のものであった。そして、指示に従い建物の中へと男達が銀子を運び込もうとする。

「ちょっと待って頂けないか」

「何だ貴様は」

 いきなり声を掛けられて、驚きながら振り返った男は一瞬目を疑った。目の前には何も見えなかったからだ。


「良い面だな。目を凝らして見てみろよ」

「だっ、誰だ」

 言われた通りに暗闇を凝視すると、目の前に黒装束の男が立っている事が分かった男は木の棒を構えて謎の男を牽制した。


「名乗る程の者では御座らんよ。ただ、そうだな。折角なので、小太と呼ばれているとでも言っておこう」

「して、何用だ」

 男は木の棒を向けながら小太の警戒を続ける。


「その銀子を貰おうと思ってな。大した痛手にはならないだろうが、折角こんなにも簡単に手に入れる機会を作ってくれたのだからな」

「吾助」

「へい。屯作の兄者」

 屯作と吾助は同時に小太へと向かって棒を振り下ろした。息の合った奇襲、それもこの暗闇の中である。初見の者が躱す事は困難である。


『ドン』

 屯作と吾助は揃って地面を叩いていた。

「うひぃっ」

 屯作が情けない声を上げる。彼の頬へ僅かに線が入ったと思うと、そこから血の筋が引かれたのだった。


「命あっての物種だとは思わんか」

 屯作の目の前に短刀が突き付けられた。

「屯作の兄者!」

 その状況に堪らず吾助が小太に飛び掛かろうとする。

「やめろ! 吾助」

 屯作の言葉に足を止めた吾助の首元で短刀がその動きを止めた。


「感謝致す。行くぞ」

「へ、へい」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 走り去る屯作と吾助に多枝が怒りを顕にしていた。


「全く、これだから破落戸ごろつきは」

「おい、女。貴様も命が惜しくば、さっさと立ち去れ」

 未だにぶつぶつと文句を言っている多枝に対して小太が勧告をする。人気のない時間帯に人気のない場所で、相手は刃物を所持しているのだ。殺されても仕方のないこの状況で逃がしてくれるというのだから、普通ならば一目散に逃げる場面である。


「このお金に手を出すという事は、大中臣家に手を出すという事よ。それがどういう事か分かっていて」

「ふふふっ。お前も聞いている筈だと思ったのだがな。そこの馬鹿な若様を標的にしているって事を」

 小太の言葉に暗くて周りからは分からなかったが、多枝の顔は青くなった。


「そこまでにして貰おうか」

 このままやり過ごそうかとも考えていた新九郎だったが、相手が本当の襲撃犯であるのならば依頼を遂行しなくてはと、姿を現したのであった。

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