第21話 襲い掛かるもの

 薬膳白湯を飲みながら普段の様に談笑していると、不意にいつもと違う事が起こった。

「何じゃか、ね……む……く」

 才四郎が崩れ落ちたのだった。

「全く、才四。仕事中に居眠りとは言い、どきょ……う」

 眠り込んだ才四郎を叩き起こそうとした又次郎は、それを完遂することなく床に伏っしてしまった。


「何事だ」

 二人が倒れた事によって、新九郎に緊張が走る。所が、どうにも上手く思考が纏まらないのであった。その間に小助も寝息を立てていた。新九郎の意識も朦朧としてきたのだった。

「ふふふっ、ゆっくりお休み下さい」

 薄れゆく意識の中で新九郎が抗った結果、多枝の言葉を聞く事が出来た。既に眠気に支配されていて言葉の意味を考える事も出来なくなっているが、確かに言葉自体を聞いているし脳も記憶しているのだった。

 それでも、もうそれ以上は耐え切れずに新九郎は眠りに落ちて行ったのであった。


「むっ、敵襲?」

 新九郎は飛び起きると腰の物を抜こうとして、手が空振ってしまったのだった。

「はて、なぜ故にわたくしはこの様な行動を」

 新九郎は横に置いてある木刀を拾い上げる。木刀は普通に持ち歩くものであり、武士もののふの刀の様に腰に下げたりはしないのである。明らかに普段しない行動を無意識で行った新九郎は若干戸惑っていた。


 しかし、すぐに頭を振り邪念を払うと周囲を見渡した。28夜の細月では辺りは暗闇であった。

「小助殿、又次郎殿、才四郎殿」

 暗がりで新九郎は声を掛けたが、返ってくるのは寝息だけだった。

「致し方あるまい」

 新九郎はまだ少しふらふらとする体を引き摺って表へと出た。


「あの時と違って、大分涼やかになったな。って、待て、あの時とは何だ」

 顔を出したばかりの細月がいつぞやの記憶と繋がったのだが、憶えていない新九郎には自身の無意識の行動が恐ろしく感じられてしまう。

 必死に何かを思い出そうとするが、新九郎は何も思い出す事は出来ないのであった。


『ギギギィ』

 蝶番の軋む音に新九郎は現実へと戻って来た。聞こえて来たのは恐らく蔵の方だろう。先程よりも、大分暗闇に目の慣れて来た新九郎は、足音を立てないように慎重に蔵の方へと向かって行ったのだった。


「はあ、こりゃまた何とも大量な銀子だ。ほら、さっさと積んじまうぞ」

 気配からするに恐らく五人が蔵を荒らしている所へと新九郎は出くわしたのだった。


「襲撃犯? それにしては」

 何だか動きもちぐはぐで纏まりに欠けている。物音にも気が回っていないし、とても玄人の犯罪集団とは新九郎には思えなかった。


「ふうっ、漸く積み終わった。後は指定場所へ運べば終わりだ」

「こんだけ有るんだ、一本くらい頂戴したって分からないのでは」

「馬鹿、金貸はきっちりと帳面を取っている筈だ。きっと、一枚合わなくても責められるぞ」

 二台の荷車を軋ませながら去って行く連中に新九郎はこっそりと付いて行くのであった。

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