第24話 決着

 新九郎は傷口を確認する。血は出ているが思ったよりも深くないようで、手も普通に動くのだった。


「忍の者は刃に毒を塗ると聞いた事があったのだがな、俗言だったか」

「そんな事はない。毒を使う者が大多数だ。ワシはじわじわ殺すのは好かん。それに腕も立つからな、必要ないのだ」

 小太は強がってみせた。というのも、毒を使わないのではなくて使えないのだから。毒は里毎で秘伝となっている。そして、毒を調合するのは忍としての才能に恵まれなかった者から選ばれた一人が調合師に弟子入りして一子相伝されて行くのであった。

 今は抜け忍である小太に毒を入手する伝手は無いのである。


「今一度引けと言っても引かなそうだな。では、参るぞ! 参るぞ! 参るぞ! 参るぞ!」

 四方から小太の声が新九郎へと迫って来る。だが、新九郎は身じろぎ一つせずに集中していた。深く深く集中した新九郎の耳は声の奥に聞こえる微かな風切り音を捉える事に成功した。


『カン』

 新九郎の木刀は既の所で小太の短刀をはじき返す。

「なんだと」

 まさかの事態に戸惑ってしまった小太は、新九郎の反撃をもろに受けてしまった。顎に入った一撃は、脳を直接揺さぶり小太はその場に崩れ去る。


「くっ、ワシの負けだ。さっさと殺せ」

 倒れて動けない小太は、新九郎によって縛りあげられた。

「一先ず、話を聞かせて貰おうかっ」

 新九郎は小太の頭を掴んで顔を上げさせると、いやらしい笑顔で覗き込んだ。だが、すぐに真面目な表情に戻る。


「おっと、その前に多枝殿にも聞きたい事は沢山あるが、皆を叩き起こしてここへ連れて来てくれ。じゃないとあの山のような銀子を運べないからな」

「うっ、そう、ですわね。では、行って参りますわね」

 多枝は冷や汗を掻きながら、新九郎の提案に従って家へ向かって行く。


「ヌシのその瞳は……いや、いい」

 新九郎が問い掛けると、小太は頭を振り片目を隠してしまう。聞かれたくないことなのだろうと、それ以上の追及を新九郎は止めた。

「それで、ヌシはどうしてここを襲えたのだ」

「情報元は言わんぞ。ただ、とある縁で非道な貸し付けを行っていた所にお仕置きをした。そこの大元とあの女の大元が一緒だった。それだけだ」

 これまでのことは、ほんの序章に過ぎない。本来ならばもっと追い詰めてやろうと小太は思っていたのだ。


「無念」

 小太の脳裏に養父である神部太郎の顔が浮かぶ。小太は思わず歯を食いしばった。

「なぜ、そんなに銀子が必要なのだ」

 小太の苦しむような表情に、新九郎も少し同情的になってしまう。


「ふんっ、別に銀子の為にやったわけじゃない。いや、最初のは、村に銀子を戻す為だから、銀子の為と言えばそうなのだが」

 小太の言葉に所々聞き捨てならない部分があった。新九郎は深く事情を聞こうと決める。

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