続・宮前乃新九郎
第19話 続く生活
新九郎達が多枝の家に用心棒として通うようになって、あっという間に5日目を迎えた。
特に何事もなく最終日を迎えたのでもうこの仕事も終わりだと、皆は思いがっくりとしていた。なんせ、給金が良い上に襲撃が無ければただ夜警をしているだけでいいのだから。
「漸く、酒を飲める生活に戻れる」
「あら、又さんはお酒を飲めないのが不満で辞めてしまうのですか」
夕餉の善を五人で炉端を囲みながら食べていた時の又二郎の言葉に多枝が反応した。
「いやいや、そんな事は御座らんよ。ただ、仕事は今回までだと伺っておるからな」
又二郎はひょっとして勘違いしていたかと思い小助の方を見る。新九郎も釣られてそっちに目をやった。確かに、小助はハッキリと頷いていたのだった。
「あらやだ。私ったら、すっかり言うのを忘れていましたわ。用心棒は襲撃があるまで続けて貰いたいのです。明日からは六曜毎に銀子一貫になってしまいますけれども、如何でしょう」
「六曜で一貫でも、充分な額である事には違いない。だが、何故に期間を、有るか分からない襲撃が起こるまでとするのだ」
小助は給金の額には何ら問題がないと受け入れたのだが、期間の不明瞭さに些か不信感を抱いた。確かに、新九郎も同じ気持ちだったので多枝へと視線を向けた。
「兵衛さんに新さんまで。確かにお疑いになるのも無理のない事ですわね。でも、ちゃんと説明させて頂くつもりでしたのよ」
多枝は困った様な表情のまま、上目遣いで新九郎達を見遣った。又次郎と才四郎は鼻の下を伸ばしてしまっているし、小助も少し罪悪感を抱いてしまっていた。そんな中、新九郎だけは惑わされずに真っ直ぐ多枝を見つめ話を待った。聞いてから判断しようと新九郎は思っているからだった。
「前に、そっちの商売種は大中臣の若様から預かっている物だと言うのはお話ししましたわね。その若様が表立って関わっておられる金貸しが襲撃を受けました。それも、続け様にで御座います」
多枝は、表立って大中臣の名を名を出してもいないし、金貸しも密かに細々としか行ってはいない。それでも用心棒を雇いたいと大中臣の若様に多枝は直訴したのだった。
実は、多枝は彼の妾であるのだった。ここの金貸しの元手は当然彼の者なのであるが、多枝は一切の上がりを納めていないのである。それは多枝の小遣いとされているのだから。
「ここも、いつ襲われるやもしれません。不安に苛まれて暮らしていくよりかは、多少の出費があっても安心を買いたいと思うのはおかしい事でしょうか」
多枝の潤んだ瞳の前に、三人は完全に陥落していた。そんな中でも新九郎は変わらず鋭い視線を向けていたのだった。
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