幕間 小太
第18話 誓い
小太郎は伊勢国の小さな惣村に厄介になっていた。村の者はよそ者である小太郎を村の一員として扱ってくれている。
「小太さ~ん! ご飯よ」
村長の娘である
「早いもんで、小太がうちへ来てもう十日か。ほんに、感謝してもしきれんな」
村長の宇作は、しわがれた声でそう言いながら手を合わせた。小太郎は十日ほど前に、この村の近くの山で薬草を採取していたところで幸と出会う。
それはとてもいい出会いとは言い難いものだった。なにせ幸は必至な形相で走っていたのだから。髪振り乱して走ってくるその姿に、小太郎も最初は山姥が現れたのかと思った程である。
だが、すぐにその理由が分かった。幸の後ろを6尺6寸はあろうかという熊が追い掛けていたのだから。更に、よく見ると幸はこめかみの辺りから血を流していた。熊に襲われた時に結っていた髪も解けてしまい、髪を振り乱して走る羽目になったのだ。
今にも熊に追い付かれそうな幸に、小太郎は駆け寄りながら猛毒を仕込んだ吹き矢を放った。一つ目は熊の足に、二つ目は脇腹に命中する。程なくして、熊が大きな音を立てながら草の中に倒れ込んだ。
「大丈夫か? ちょっと見せてみろ」
「えっ、あっ」
小太郎は幸の顎を押さえて顔を固定すると、こめかみを手ぬぐいで拭った。幸い傷は深くはないようだったので、膏薬を塗って布切れを巻く。
「あ、有難う。私は幸。あなたは?」
「わしか。小太……」
名乗りそうになって小太郎は躊躇した。追われている身では名を明かさない方が良いかもしれないと思ったのだ。
小太郎の育った神部の里で、親殺しが行われた。参の者だった銀の仕業であるのは明白である。しかし、周到に準備がされており、全ては小太郎の責任に仕立て上げられてしまう。そうして、小太郎は里の皆から追われる身となる。
小太郎は逃げ隠れる過程で、義父である太郎の仇を取ろうと銀を襲撃した。結果的に銀を討つことには失敗してしまい、更なる罪状が重ねられただけだったが。
「小太様で御座いますね。是非ともお礼をさせて頂きたいので村までお越しください」
途中まで発して逡巡していたのを勘違いされてしまったのだが、小太郎は敢えて訂正はしなかった。
「いや、気にするな」
関われば追手にばれた時に、被害が拡大してしまう。だから、小太郎は立ち去ろうとした。
「駄目です」
幸がそれを許さない。暫く押し問答していたが、結局幸の強引さ押し切られてしまい村まで行くことになったのだ。
その村はとても貧しかった。村人を騙して高利貸しの餌食にしていた金貸のせいである。そんな状態にも拘らず、村人たちは小太郎を嫌な顔もせずに村へと迎え入れてくれたのだ。その礼も込めて、小太郎はその金貸の蔵を襲撃すると銀子を強奪して村人達へと分け与えた。
襲撃の際に、とある情報を小太郎は入手する。
「必ず、あいつは殺してやる」
小太郎の目は、伊勢神宮の方へと向けられていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます