第16話 考えない素直は馬鹿である
たらふく鹿肉を喰らった所で、才四郎が奥から酒壺を持って来た。
「又次、構わんよな」
「まあ、そうだな」
又次郎と才四郎が何やら相談すると、才四郎は又奥に下がり湯呑を四つ持って戻って来る。
「折角、小助が慈悲を見せてくれたのだから、気の変わらぬようにもてなさせて貰うぞ」
「やや、これは済まんの」
小助も満更ではない様子で、渡された湯呑を酒壺の方へと差し出した。又次郎が柄杓で酒を掬う。
「ちょっと待って頂きたい」
「何じゃ、どうした」
新九郎が制止すると、小助は不思議顔で見つめ返して来た。
「ここに来た理由を忘れておるぞ」
「んんっ、おっ、そうであったそうであった。又次郎、才四郎、すまんが酒宴は又の機会じゃ」
新九郎によって我に返った小助は、湯呑を才四郎の手に押し返す。
「一体どうしたというのだ。まさか、今更銀子を取り立てるなぞは言わんよな」
「当たり前だ。逆じゃ。銀子が手に入る話を持って来た」
一瞬顔を強張らせた又次郎だったが、小助の話を聞いてすぐに緩んだ。
「仕事か。わしらでも大丈夫なんだろうな」
「ああ、わしが信用する相手ならば構わぬと仰せだ」
小助の答えを聞いた又次郎と才四郎は、目を見開いて驚いている。そして、二人は顔を見合わせて感動しているように見えた。余程、仕事を断られ続けでもしたのだろうか。
小助は粗末な恰好なりに小綺麗にしているので、用心棒といっても納得の見た目であるのに対して、又次郎と才四郎は粗末な恰好で小汚い。それに、禁止されている四足獣の肉を食べたりもする。正に、
「お前らは、もうちょっと身だしなみに気を遣え。一先ず、川に行って服ごと清めてこい」
新九郎の指示に、彼等を知っている小助は反発すると思ったのだが、その予想に反して又次郎と才四郎は素直に川の方へと走って行ってしまった。
「おや、これは意外だったな。あやつらが良く知りもしないお前の言う事を聞くなんて」
「余程嬉しかったのではないか。小助殿の善行のお陰さ」
小助は感慨深い表情で、新九郎の肩を何度も叩いたのだった。
感傷に浸っていた二人の下に、濡れ鼠になった又次郎と才四郎が戻って来る。
「どうしたのだ」
「清めて来たぞ」
心配そうな小助に、訳の分からないと言った顔で又次郎が答えた。
「馬鹿か! 言葉通りじゃねえよ! 服も体も洗ってこいって事だ!」
小助の怒鳴り声があばら家に響き渡る。多少感動していただけに、反転した時の怒りは大きかったのだ。
新九郎もやれやれと肩を竦めていたのだった。
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