第15話 又次郎と才四郎

 新九郎が目を付けていたのは、小助の所へ何度か銀子を無心に来ていた二人だった。


「なあ、小助殿。あの銀子を渡している奴らの所へと案内して貰えるか」

「んっ、又次郎と才四郎か? まさか」

 新九郎の言葉に、察した小助は困った顔をした。新九郎の言いたい事も分かる小助だが、又次郎と才四郎の性格上素直に従うとも思えないのであった。集団行動向きではない二人が、果たして役に立つのか。ともすると足を引っ張ってしまうのではないかとも思えるのであった。


「じゃが、致し方ない」

 小助とて、他に宛が有る訳でもない。二人だけでは仕事を果たせないというのは分かり切っている事なのだから。

 心を決めた小助は、彼の家を通り過ぎて山の方へと分け入って行った。そして、少し進むと視界が開けたのだった。元々は川であったろう場所が干上がって荒れ放題になっている。だが、小石が多いそこは余り草が生えていなかった。

 そこに建っている掘っ立て小屋へと小助は向かって行った。


「又次郎、才四郎、おるか」

 小屋の前で声を掛けると、暫くして中からのっそりと筋骨隆々な男が姿を現した。

「ひょ、兵衛か。態々、ここまで来るとは。又次、大変だ」

 才四郎は小助の姿を見るや、小屋の中に向かって声を掛けた。すると、すぐに才四郎よりも小柄な、それでも新九郎と同じ位の背格好の男が飛び出して来た。


「こ、小助。来て貰って申し訳ないのだが、未だ銀子の方は工面出来ていないのだ」

「元より取りたてる気などない」

 困惑顔の又次郎に小助が言い放った。


「そ、そうなのか。兵衛は神なのか」

「それは有難い。ともあれ話が有って来たのだろう。まあ、入れ。うぬは新九郎じゃったな。さあ、入れ。今日狩って来た肉を馳走するぞ」

 又次郎に勧められるままに小屋に入っていくと、切り分けられて串に刺してある肉が炉端で炙られていた。


「ふむ。中々に旨いな。鴨でも雉でもなさそうだが」

 新九郎はこんなに脂っこくて食べ出のある肉を食べたのは初めてだった。まあ、過去の記憶が無いので定かでは無いのだが。

「旨いじゃろう。これは鹿だからの」

 得意げに才四郎が胸を張った。どうやら彼が捕まえたのであろう。


「大丈夫なのか。この山は神領だろ」

 新九郎は心配になった。四足獣の肉は、基本的には食べてはいけない物なのである。身分が高ければ高い程にそれは顕著であった。中には兎の様に例外とされるものもあるが、態々何羽と数え他の四足獣とは区別しているのだ。


「ワシらが神職な訳でもないからな。問題無かろう」

 結局、四人は次から次へと鹿肉を腹の中に収めていったのだった。

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