第14話 見え隠れする実態
ほくほくしている小助に対して、新九郎は険しい表情を崩さなかった。
「それで、そこまでの金額を出してまで用心棒を雇うからには、何か襲われる様な心当たりがお有りであろう。それを聞かせては頂けぬか」
新九郎は睨み付ける勢いで多枝を見ているが、彼女自体は実に飄々としている。
「特には。御手当ですけれども、普通よりは多いのは確かです。けれども、それだけの物が蔵の中に保管してありますの。万が一にもしっかり備えて頂く為の金額だと思って頂ければ理解しやすいかと」
多枝が中々に食えない女性だというのを新九郎は本能的に感じる。
「人数を増やすのも、信用のおける者であれば構わないと。それは、わたくしから見てで構わぬのか」
「えっ、ええ。新九郎様は機転も御利きになられそうですので、私も信頼しておりますから」
一瞬、多枝の眉がぴくりと動いたが、流石に食わせ者だけあって笑顔を崩す事はなかった。
「分かった。それで、今日の夜から取り掛かれば良いのか?」
「そうですわね。急な事ですので、本日はお二人様でも構いませんわよ」
新九郎はこの落ち着き払った多枝という女が腹に一物あるようでどうにも信用ならない。
「小助殿。この規模の蔵を襲うとなれば、最低限どの位の数の野盗が必要だと思う」
「そうだな。襲撃役が10名の運び役と見張で10名の計20名が最低ラインといった所か。ただ、夜中とはいえ大挙して押し寄せると何にしても目立ってしまうので、最大でも30名だろう」
流石に用心棒を長くやってきている小助はそういった概算を出すのは早く、しかも中々に説得力のある数字だった。
2、30名の賊に対応するには普通ならば15から20名程の用心棒が必要になる。仮に全員が小助クラスだとしても10名近くは欲しい所だ。それ故に当初小助は日当の交渉をしようとした訳だ。
「なるほどな。それならば、あやつらを呼んでこよう」
「流石は新九郎様ですわね。すぐに信頼できるものが集められるなんて、凄いですわ」
新九郎が立ち上がると、多枝は本心の掴みづらい笑顔で微笑む。
「では、こちらをお持ち下さい」
多枝は新九郎の手を包み込むようにして、彼の掌に何かを乗せた。そうして、妖艶な笑みを湛えたままで、名残惜しそうにゆっくりとその手を撫で回すようにして離していく。
「これは?」
新九郎は怪訝な顔をする。彼の手には銀子が二枚あったのだ。
「税の分ですわ。来た時にお二人で60文、帰りも同じだけ掛かりますしね。残りはご足労頂いた手間賃とお考え下さいませ。また、宵の口にお待ちしております」
玄関先まで見送ってくれた多枝にご満悦な小助と、彼女の絡みつくような視線に身震いをする新九郎とで、とても対照的な反応の二人であった。
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