第13話 真のこと

 新九郎のあからさまな態度に、小助は冷や冷やしてしまう。雇い主を怒らせてしまっては、仕事の話自体がご破算になってしまいかねないのであるからだ。


「あらまあ。そちらは、御慧眼の持ち主のようですわね。薬師がお金持ちではおかしいとお疑いなさる気持ちも分かりますよ」

「わたくしはそういった事を言いたい訳ではないのだが」

 自ら怪しい部分を指摘してくるとなると、余程の正直者でない限り何か裏があると考えるのが普通だ。新九郎は多枝が根っからの正直者とは思えなかった。それ故に疑いが強くなるのであった。


「裏にある蔵をご覧になりましたでしょう。薬師には立派過ぎる蔵で御座います」

「そうだな」

 確かに、新九郎もそう思っていたので肯定の返事を返した。


「実は、故あって大中臣おおなかとみの若様から預かり物を致しております」

 多枝は一度奥へと下がると文箱を持って戻って来た。

「貴方様を信頼してお話致します故、今からの話しはご内密でお願いします」

 新九郎が頷くと、多枝は文箱の蓋を外して中から一枚の紙を取り出し新九郎へ渡した。それは借金の証文であった。


「さて、花押まで入っているというに、借り人の署名も金額も抜けているとは何事か」

「もうお分かりで御座いましょう。あの蔵には薬の材料が詰まっている訳では御座いません。銀子で御座います」

 小助は目を見開いて驚いていたが、新九郎は手にしている紙を見せられた段階で予想はしていたので、さしたる驚きは無かった。


「八さんの信頼できる者という条件で仕事の依頼を掛けましたの。そうしてお越し頂いたのが貴方様方でしたので、私もここまでお見せする事が出来ますの」

「だがのう。あの蔵じゃ、一貫銀子がゴロゴロしているのであろう。それも含めた警護とすれば、些か安過ぎると思うのだが」

 金貸しの蔵と知っていれば、襲う時に単独でという事はまず有り得ない。とても、一人二人で持ち出せる量では無いのであるから。

 ともなれば、警護する側は複数人を相手にしなければならず、その分危険度も段違いなのである。


「あら、ここいらでは名を馳せていらっしゃる宮前の兵衛様がいるのでしたら、私も安心ですわ。それに、御手当の話しは未だですわよ」

「しかし、八之助の所では日当は銀十匁と聞いているぞ」

「いや、銀十匁は保証すると書いてあったはずだ」

 小助の問いに新九郎が割って入った。


「やはり、貴方様は頼りがいがありますわね。蔵の件は大っぴらにはしていませんので、法外な日当では怪しまれてしまいますわ。あれはあくまでも相場で御座います。今回の仕事は五日で一貫銀子をお渡し致します」

 一貫とは1000匁であるから、当初の20倍の額を提示された事になり小助は目が銭になってしまっていたのだった。

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