第7話 意外と強引

 新九郎は慌てて五郎太を呼んで来ると、小助を診て貰いながら経緯を説明した。

「なんとまあ、兵衛が負けるとは……新九郎、あなたはやはり武士もののふだったのだと思いますよ」

 特に危険な状態ではないと判断した五郎太は、新九郎と力を合わせて小助を家の中へと運んで布団に寝かしつけた。


「それよりも五郎太殿、小助殿は大丈夫なので御座いますか」

「ええ、ただ気絶しているだけですからじきに目を覚ますでしょう」

 新九郎は堪らずに小助の容態について聞いたが、五郎太の説明で漸く人心地付いたのだった。


「それにしても無防備を突いたとはいえ、こうも見事に意識を刈り取るとは……新九郎は結構な剣の技量を持っている様なので身元も案外すぐに判るかもしれませんよ」

「だと良いのですけれど……」

「……うぅっ」

 新九郎と五郎太が話し込んでいると小助の呻き声が聞こえて来た。


「小助殿大丈夫ですか! 目が覚めましたか!」

「小助、わしが分かるか」

「……なんだ? 新九郎、五郎太、何を言っている? っつぅ」

 詰め寄る二人に、目を覚ました小助の方は只うろたえるのみだった。矢継ぎ早に声を掛けられて、戸惑い体を起こそうとした彼は後頭部の痛みによって動きが止まってしまった。


「すまない、わたくしの所為です」

「……そうか、わしは……負けたのか」

 小助は項垂れてしまった。

「まあ、記憶の混同も無いようですし大丈夫でしょう。数日は瘤が痛むかもしれませんがね」

 五郎太は小助が大事無いと判断すると、さっさと帰り支度を始めた。

「五郎太殿、此度は誠に急な事で済まなかった」

「まあ、状況が状況でしたからね。出来れば次からは連れ出す前に説明して貰えると助かります」

 頭を下げた新九郎に五郎太はそう言い残すと帰って行った。


 部屋に戻ると今度は小助に対して頭を下げる新九郎であった。

「小助殿、誠に申し訳無い」

「勝負事の最中に起きた事だ、ぬしが気に病む必要は無い。わしが油断しただけだ」

 傭兵稼業の小助としては、例え新九郎と二人きりといえども自分が弱かったからとは口に出来なかった。


「しかし」

「では、な。明日から仕事を手伝ってくれ。それだけ元気なら問題無かろう?」

 それでも気に病んでいる新九郎にバツの悪い小助は話題を変えるのであった。

「元々そのつもりでおったのだ。よろしく頼む」

「ああ、頼りにしているぞ、新九郎……」

 名前の後に小声でごにょにょと何か言ったようだったが新九郎には聞き取れなかったのだった。小助は聞こえない程の小声だったが、約束を守ったのだった。

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