幕間 新九郎の葬儀
第8話 運命の歯車
その日、
伊勢
「此度は、我が甥である新九郎の為にお集まり頂き感謝の念に堪えません。聞き及びし事によれば、今出川殿の京脱出の折に武蔵野守の息の掛かった
施主という事で伊勢守が事の大筋を参列者へと伝えていた。
時期が戦時中ということもあり、親類縁者に絞った葬儀だった為にそれ程の規模ではなかった。しかしながら、政所執事の肩書の伊勢守の影響力は一族の中ではずば抜けていて、一族全てが集まったのではないかと思える程の参列者数だった。
「伯父上、此度の、此度の事、誠に残念、うっ、うっ」
式も終わり厄払いの席で、新左衛門尉の娘である保子が備中守にお悔やみを申し上げようとして涙に暮れてしまっていた。
「嗚呼、保子や。そちは本当に新九郎の事を慕ってくれていたものだものな。心行くまで涙するといい。わしもそちを娘に迎え入れる日を楽しみにしておったのだがな」
備中守は保子の頭を優しく撫でながら、泣き続ける彼女を見守っていた。
「新左衛門尉、ちと構わぬか」
伊勢守に呼ばれて新左衛門尉は家族を備中守に託して席を立った。本堂の方まで連れ立って歩いて行く。
「この辺りで構わんか。さて、保子の事なのだがな、本来ならば、新九郎の嫁に頂戴する心積もりであった。しかし、この様な事になってしまいその道は立たれててしまった。ならばじゃ」
「もしや、あのお話はまだ生きていると仰るのですか」
新左衛門尉は複雑な表情を浮かべた。
「そうじゃ。好いた者と結ばれるのが一番と思い断りを入れていたが、治部大輔の奴め上洛中で耳聡くこの訃報を聞き及んでは、さすれば自分が保子を幸せにして見せると言ってきおってな」
「好いてくれる男に嫁ぐのも、一つの幸せですか」
伊勢守の言葉からも治部大輔の熱量は伝わって来たのだった。それに、今川であれば傍流である
「折をみて話してみます」
大分気持ちが傾いてしまった新左衛門尉だった。
「父上。備中守の伯父上が、わたくしの烏帽子親になってくれるそうです。それに新兄様の新九郎の名も頂けるとの事です」
雲寿丸が嬉しそうに新左衛門尉に告げたのだった。
彼は後に元服して、伊勢新九郎盛時となるのだった。
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