第8話「あなたと共に」最終話・ざまぁ回




ダンスが始まると元婚約者のコアト様が話しかけてきた。


コアト様は黒髪に茶色い瞳、中肉中背、お顔は不細工でも美男子でもなく普通。


「君の読んだ答辞は素晴らしかったよ。

 それにすごく綺麗だ。

 カランがこんなに美人だと思わなかったよ。

 良かったら俺と一曲踊ってくれないか?」


「コアト様と私の婚約は既に解消されております。

 それにコアト様には新しい婚約者のウナがいるでしょう?」


「ウナの奴パーティーが始まってすぐに母親と一緒に『お腹が痛い』と言ってトイレに走って行ったよ。

 ほんと恥ずかしい」


「婚約者が腹痛に襲われていいのに、コアト様はここでパーティーを楽しんでいるんですか?」


私はコアト様に冷たい視線を送る。


「子爵家の跡取りじゃなくなったお前を俺が同情で誘ってやってんだ。素直に喜べよ!

 どうせパートナーもいなくて一人で寂しく過ごしてんだろ?」


「すみませんカラン様、お待たせいたしました」


「アインスさん」


「ドリンクを取りに行っている間に、変な虫に絡まれていたようですね」


アインスさんがコアト様をギロリと睨む。


アインスさんに睨まれたコアト様は縮み上がっていた。


「本日のカラン様のパートナーは僕です。

 元婚約者殿の出る幕はございません。お引き取りください」


アインスさんは丁寧だが強い口調でそう言った。


「なんだと!」


「それから子爵家の跡継ぎの件ですが、ウナ様をカラン様の養女にした書類に偽造の疑いが出てきました。

 この後ウナ様とウナ様のお義母様とお父様は騎士団に事情を聞かれることになるでしょう。

 なにせ事は子爵家の乗っ取りですからね。

 まさかとは思いますが、コアト様もこの件に関与しておられませんよね?」


「知らない! 俺は何も知らない! 聞いてない!」


コアト様は顔を真っ青にされ逃げるようにその場を去っていった。


「アインス様助けてくださりありがとうございます」


「いえカラン様のパートナーとして当然のことをしたまでです」


「それから先程のお話は本当ですか?」


「子爵家の乗っ取りの件ですか?

 もちろんです。魔女様が本腰を入れて騎士団を操作……いえ騎士団に捜査させています。

 時期にこの件に関与した人間は捕まるでしょう」


「何から何までありがとうございます。

 なんとお礼を言ったらよいのか」


「それはこちらのセリフです。

 傷つき迷子になっていた僕にカラン様はゆで卵を分けてくださった。

 ご自身もお腹いっぱい食べているわけではないのに……僕はそれがとても嬉しかったのです」


「私は人として当然のことをしたまでです」


「そういう奥ゆかしいところも貴方様の魅力です」


アインス様に褒められて照れてしまう。


「どうしてもお礼をとおっしゃるなら、僕と一曲踊っていただけませんか?

 僕に貴方様とファーストダンスを踊る名誉をお与えください」


私は差し出されたアインスさんの手を掴みコクリと頷く。


「はい、私で良ければ喜んで」








――終わり――




最後まで読んで下さりありがとうございます。


【後書き】

このあとウナと継母とコアトは、養子縁組の書類を偽造し子爵家の乗っ取りを図った疑いで逮捕されました。


カランはクーン子爵家を継ぎました。


アインスはクーン子爵家の執事になり、一人ぼっちになってしまったカランを支えています。


アインスとカランの関係が友人から恋人に変わるには、もう少し時間がかかりそうです。



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「魔女のレンタルショップハイル〜助けた蛇は魔女様の眷属でした。えっ? 私をいじめていた家族に復讐してくれるんですか?」完結 まほりろ @tukumosawa

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